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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語  作者: 大橋 むつお
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31:『ん……まだ違和感』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語


31『ん……まだ違和感』




 ……薄暗がりの中、ぼんやりと時計が見えてきた。


 リモコンで明かりをつける……まる三日眠っていたんだ。


 目覚めると自分の部屋。当たり前っちゃ当たり前なんだけど、なんだか違和感……。


「あ」


 小さく声が出た。


 目の前に倉庫から命がけで持ち出した衣装が掛けられている。


 わたしと潤香先輩の舞台衣装。セーラー服と花柄のワンピース。


 ベッドから見る限り、傷みや汚れはない。


 四日前の舞台が思い出された。


 なんだかとても昔のことのよう……潤香先輩もこうやってベッドに寝ている……意識は戻ったのかなあ……意識が戻ったら何を考るんだろうかなあ……


 わたしはもう起きられるだろう。二三日もしたら外出だってできるかもしれない。


 しかし先輩はもう少し時間がかかるんだろうなあ……よし、良くなったら、この衣装持ってお見舞いにいこう。


 そう思い定めて、少し楽になる。


 ん……まだ違和感。


 あ、パジャマが新しくなっている……新品の匂いがする。着替えさせてくれたんだ、お母さん。

 ……まだ違和感。ウ……下着も新しくなっている。これは、お母さんでも恥ずかしい。


「あら、目が覚めたの?」


 お母さんが、薬を持って入ってきた。


「ありがとう、お母さん。着替えさせてくれたんだね」


「二回ね、なんせひどい汗だったから。シーツも二回替えたんだよ。熱計ろうか」


「うん」


 体温計を脇に挟んだ。


「お腹空いてないかい」


「う、ううん」


「そう、寝付いてから水分しか採ってないからね……」


「飲ませてくれたの?」


「自分で飲んでたわよ。覚えてないの?」


「うん」


「薬だって自分で呑んでたんだよ」


「ほんと?」


「ハハ、じゃ、あれみんな眠りながらやってたんだ。ちゃんと返事もしてたよ」


「うそ」


「パジャマは、わたしが着替えさせたけど、『下着は?』って聞いたら『自分でやるからいい』って。器用にお布団の中で穿きかえてたわよ」


「そうなんだ……フフ、やっぱ、なんだかお腹空いてきた」


「そう、じゃあ、お粥でも作ったげよう」


「あの衣装、お母さん掛けてくれたの?」


「ああ、『衣装……衣装』ってうわごと言ってたから。目が覚めたら、すぐ分かるようにね。今まで気づかないと思ったら、そうなんだ眠っていたのよね」


「ありがとう、お母さん」


 ピピ、ピピ、と検温終了のシグナル。


「……七度二分。もうすこしだね」


 そのとき、締め切った窓の外から明るいラジオ体操が流れてきた……ラジオ体操は工場の朝のルーチンだぞ? ちょっと変だ。


「お母さん、カーテン開けてくれる」


「ああ、もう朝だものね」


「あ……朝?」


 カーテンが開け放たれると、朝日がサッと差し込んできた。


 わたしは三日ではなく、三日と半日眠っていたことに気がついた。



☆ 主な登場人物


仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部

芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部

貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問

大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達

武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長

峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長

高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩

柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問

まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母


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