表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語  作者: 大橋 むつお
29/106

29:『阿弥陀さま?』

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語


29『阿弥陀さま?』





「おーい」


 という声で目が覚めた。


 ボンヤリと白い服を着た人たちが目に浮かんできた……天使さんたちだ。


 十五歳のこの歳まで、わたしはいい子でいた……自己評価だけど。だから、わたしは天国に来たんだ……そう思った。


 真ん中に大天使ミカエルさま。両脇にきれいなオネエサンの天使がひかえていらっしゃる。


 でもいいのかな。うちって、たしか浄土宗か、浄土真宗……じゃ、これは阿弥陀さま?


 ドタっと音がして、阿弥陀さまの顔が、マリ先生のドアップの顔に入れ替わった。


「気がついた、まどか!?」


 ドアップが叫んだ。


「こまりますね。これから、いろいろ検査しなくちゃいけないんだから」


 阿弥陀さまが文句を言った。


「すみません」


 ドアップのマリ先生の顔が、視界から消えた。


 そして、ようやく気づいた。



―― わたしってば、助かったんだ ――



 頭の中がジーンと痺れている。こういう時って、その混乱のあまり泣いちゃったりするんだろうなあ……ひどく客観的に見ている自分がいた。自分でも意外に冷静。


 これが精神的なマヒであることは、あとになって分かってきた。


 阿弥陀さんだと思ったのは、お医者さん。天使は看護師のオネエサンだった。


 その向こうに、うれし涙の、お父さんとお母さん。さっきドアップになったマリ先生の顔があった。


――でも、どうして、わたし助かったんだろう……あの燃えさかる倉庫の中から……?


「もう、その袋、放してもいいんじゃないかな」


 阿弥陀……お医者さんが言った。


 わたしってば、衣装の入った袋を握りっぱなしだった。そのときは……素直に……は手放せなかった。


 手を開こうとしても、袋の握りのとこを持った手は開かない。ナース(看護師って言葉は、このとき馴染まなかった)のオネエサンが、その見かけより強い力で、やっと袋を放すことができた。


 それからCTやら、なんやらいろいろ検査があった。


「大丈夫、どこも怪我はしていないよ」


 お医者さんが笑顔で言った。


――よかった。


「でも、インフルエンザに罹っている。注射一本うっとこうね」


 さっきのナースのオネエサンが注射器を、お医者さんに渡した。


「ちょっとチクってするよ……」


 チクっとではなかった。グサッ!……ジワジワ~と痛みが走る。


 お医者さんの向こうでニコニコしているナースのオネエサンが、白い小悪魔に見えた。


 やっと解放されて、ロビーに出た。みんな待っていてくれた。


「お母さん」と、言ったつもりだったんだけど。白い小悪魔にマスクをさせられていたので、「オファファン」にしかならなかった。


「こいつが、おめえを助けてくれたんだぜ。さすが大久保彦左衛門の十八代目だ!」


 お父さんが、そいつを押し出した。


「ども、無事でなによりだった……」


 ヤツは……ただクンは、煤と泥にまみれた制服姿で、ポツンと言った。


「ども、ありがとう」


 マスクをつまんで、わたしもポツンと応えた。



☆ 主な登場人物


仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部

芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部

貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問

大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達

武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長

峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長

高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩

柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ