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まどか 乃木坂学院高校演劇部物語  作者: 大橋 むつお
103/106

103:『素顔のキャストとスタッフ』

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    


103『素顔のキャストとスタッフ』 





「自衛隊の体験入隊で、なんか変わった?」


「変わったってか……分かったよな」


「なにが……?」


「それは……」


「自分は、まだまだなんだけど、希望の持てる場所はここだ……かな?」


「先回りすんなよ、言葉が無くなっちまうじゃないか……」


「ごめん」


「い、いや、ありがとう……」


 ゆりかもめの一群が川面をなでるように飛んでいった、二人はそれを目で追う。ゆりかもめは、少し上流までいくと、さっと集団で舞い上がり。それにつれて二人の顔は上を向き、遠く彼方を見つめる目……少しはサマになる。


 すかさずレフ板の位置が変わって、カメラが切り替わる。



 ちょっと説明。



 これは、ちゃんとしたテレビの撮影なんだ。『春の足音』のね……って、別にわたしが主役になったわけじゃない。


 プロデューサーの白羽さんのアイデアで、毎回番組の最後に『素顔のキャストとスタッフ』というコーナーができて、二分間、毎回一人ずつ紹介していくわけ。



 やり方は基本その人の自由。この荒川の下町が舞台だから、町の紹介をしてもいいし、他のキャストやスタッフさんとのト-クもOK。順番はジャンケンで決める。そのジャンケン風景も撮って流すんだから、この業界の人のやることにムダはありません。



 で、わたしが大久保流ジャンケン術で勝利し、その栄えある第一回に選ばれた。


 むろん、ただのエキストラなんで、あらかじめ、はるかちゃんが紹介してくれて、わたしが映っている何秒間かが流れて、このシーンになるのね。


 わたしは、無理を言って忠クンを引っぱり出した。


 忠クンの体験入隊は、忠クンの中ではまだ未整理になっている。わたしへの気持ちもね。だから、こうやをって引っぱり出してやれば、いやでも考えるだろうって、わたしの高等戦術。いちおうわたしのカレだから、しっかりしてもらいたいわけ。



 え……「いちおう」……それはね、乙女心よ乙女心。最終章まできて、のらりくらりのカレを持った崖っぷちのオトメゴコロ!!


 分かんない人は、第一章から読み直して。序章には忠クン出てこないから。


 でも、わたし的には序章から読んでほしいかな。


 監督も、高校生の自衛隊の体験入隊がおもしろいらしく、A駐屯地まで行って取材もしてきた。教官ドノをはじめみなさん大張り切りだったみたいだけど、流れるのは、ほんの何十秒。それも大空さんがほとんど。テレビのクルーも絵になるものは心得ていらっしゃる。


 で、ゆりかもめを見つめて、なんとかサマになった忠クンは、こう締めくくった。


「大変なことを、自然にやってのける力……そういう心になれるまで……その、軽はずみな気持ちだけでフライングしちゃいけないんだなって、そう思った」


「ほんと?」


「うん。前さえ向いていたら……今はそれでいい」


「今度、火事になったら、また助けてくれる?」


「それは、もう勘弁してくれよ」


「それって、もう助けないってこと?」


「助けるよ。目の前で起こったら……そういうことも含めて、まず目の前にあることを一つずつやっていこうって。あのゆりかもめだって、最初から、あんなに自由に飛べるわけじゃないだろう」


「で、助けてどうすんの?」


「分かんねえよ」


「……そう」


「?」


 わたしは、立ち上がると、グイッと重心を前に移す。


「あぶねえ!」


 ドッポーーン!


「あ、ちょ、なんでこうなるの!?」


 助けようとした忠くんひとり川に落ちてしまう。わたしは、腰のところに落下傘のハーネスみたいなのが付いていて、その先をスタッフが持ってくれている。

 ちょっとしたドッキリカメラで、ふたりとも川には落ちない仕掛けになっている。


 それを、勢いの付いた忠くんは、抱きとめたわたしを軸にクルリンと回って、そのまま川に落ちてしまった!



 カットぉ! オッケー!


 

 監督の声がして、スタッフが駆け寄って来て、水面にロープを投げる。


 まあ、やっと三月の荒川。誰も飛び込もうとは思わないよね(^_^;)




☆ 主な登場人物


仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部

坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ

芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部

芹沢 紀香       潤香の姉

貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問

貴崎 サキ       貴崎マリの妹

大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達

武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生

山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長

峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長

高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩

柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問

乃木坂さん       談話室の幽霊

まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母

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