8、ルべラの町
あれから町の入り口の道端で正座させられること2時間。
ジャイアントウルフを倒したあと、サリアは物凄い勢いでこちらに向かってきた。
かわいい顔が台無しだよと思えるほど顔を真っ赤にし、頭に角でも生えてるんじゃないかと思わせるような鬼の顔で。
俺の前まできたサリアは腰に手をやり仁王立ちで俺を睨み付けた。
これで金棒を持ってたらホントの鬼さんだねと言った日には、おそらく俺は正座の前にボコボコにされていたと思う。
そして、サリアが最初に放った言葉がこれだった・・・。
「あんたバカなの!悪魔なの!死ぬノォォォ!!」
うん。そうとなお怒りと混乱状態だね。
この言葉を引き金に、そこからはお前の口はガトリングガンか!と思えるほど怒濤の罵声を浴びせてきた。
一見、俺がふざけてるように見えるかもしれないが、さすがに2時間も延々と言われ続けてたら途中から耳に入ってこなくなったのだ。
しかも、こういう時に限ってイブはポケットの中に潜りこんで素知らぬ振りをするし、サリアのあの様子じゃまだ終わる感じはしないしで・・・・・・はぁ。
とりあえず長い。かなりねちっこくて・・・・・・長い。
途中、罵声が終わってようやく終わったかと思ったら、冷ややかな目で俺を見下ろしながら相手をバカにするような口調で・・・
「あんた、人に銃向けたらダメだって教わらなかったの?」
っと、今にも唾を吐きかけられそうな勢いで言われた。
思わず何かに目覚めそうになったが、俺にはそんな趣味はない・・・・・・たぶん。
かと思ったら、今度は泣き出すしで、もうあんた酔ってんの?と言いたくなったほどだ。
そして、只今絶賛号泣中というわけだ。
今日知り合ったばかりでお互いまだ何も知らないが、これだけは覚えておこうと思った。
サリアを怒らせたら・・・・・・めんどくさいと。
「あの・・・サリアさん?」
辺りにはサリアの泣き声しか聞こえない。
「・・・サリアさん?」
「・・・・・・かった」
「え?」
「・・・・・・こわかった」
「あー、うん。そうだよね。ホントに悪かったと思ってる。ゴメン」
自分の中でやりすぎたかなとは思っているので、ここは素直に謝っておく。
「・・・もうしないって約束して?」
「お、おぅ。や、約束する」
潤んだ瞳をしながらこちらを見るサリアの顔はとても可愛くて、さっきとのギャップが激しいせいか胸がドキドキしてしまった。
「・・・・・・うん。じゃ今日はここまでにする?」
「あ、ああ。そうだな。明日はどうする?」
「うーん。町を探索したいかなぁ。最初の町はほとんど探索しないですぐ外に出ちゃったし、クエストとかも受けてみたいかな。
ハックンは何かしたいことある?」
ようやくいつものサリアに戻ったみたいだ。これでひと安心だな。
「いや、俺もそれでいいよ。クエストも受けたいって思ってたし」
「じゃ、それで決まりだね。私は19時頃にインできると思うけど、ハックンは何時ころにインできそう?」
「俺もそのぐらいにはできると思う」
明日は学校があって、委員会もあるから家に帰ってご飯食べてとなると大体それぐらいかな。
ちなみに俺は図書委員をやっている。
「わかったぁ。じゃまた明日だね」
「あ、あのさぁ・・・。」
「ん?どしたの?」
「いや、さっきのことは許してくれたのかなと・・・?」
サリアの態度が普通にはなったが許すとは言われてないからな。
「・・・・・・フフ。ハックンには今度とーってもキツイ罰を受けてもらうから。フフフ」
「いやいや、怖ぇよ。ってかさっきのが罰じゃなかったんだ・・・」
「冗談だよ。じょーだん。さっき約束してくれたし、もう気にしてないよ」
「そ、そか。それならよかった」
「うん。じゃまた明日ね。おつかれさま」
「ああ、おつ~」
そう言って、サリアはメニューを操作し手を降りながらログアウトした。
「じゃイブ。俺もログアウトするな」
「はい。お疲れ様でした、ハクト様」
イブと俺はお互いにさっきまでのことにはあえて触れないで、俺はログアウトしイブはスリープモードに入った。
ーーー翌日。
学校と委員会も終わり、帰宅した俺はご飯を済ませるため居間の食卓で出来上がるのを待っていた。
いつものように席を寄せてくる里桜に溜め息ををつき、ご飯がくるまで里桜の話し相手になってあげた。
「ねぇ、お兄って今どのくらい進んでるの?」
里桜が言っているのは《DFO》のことだった。
自分もやっていると正直に言えば、お互いに情報交換をできるのにホントに頑固な妹だ。
「う~ん、今ルべラの町ってとこの入り口で正座ーーっじゃない、入り口のとこで昨日はやめて今日はその町の探索かな」
「はぁ!まだそこ!?あっ!いや。ゴホン。へぇ~、友達が確かルべラの町って最初の方って言ってた気がしたからお兄にしたらちょっと遅いよねってビックリしちゃった」
いや、苦しすぎるだろそれ。
というより、ゲーム好きの妹が今話題の《DFO》をやっていないと兄が思ってるってどうして思うんだろうか・・・?
俺は里桜に甘いと自覚してるから、そこはあえてツッコまないであげてるけど不思議だぁ。
「いや~、色々あってなかなか進まなくてな。それにパーティメンバーとも話して、別に俺らは攻略組じゃないからのんびりやろうってことになったんだよ」
「は?なにそれ?誰?ソロでやってたんじゃないの?メンバーって何人?女?女の人なの?」
ちょっと里桜さん、顔がめっちゃ怖いんですけど!今にも人を刺しそうな感じなんですけどぉ!
「お、落ち着け里桜。と、とりあえず離れような・・・ちょっと怖いから」
「で?」
うわぁ、目に光が宿ってないよぉ。
昨日から女の怖いとこしか見てないような気がするな・・・。
「わ、わかった。ちゃんと話すからぁ。
最初はソロでやってたんだけどーーーーーー」
その後、俺は昨日のことを1~10まで説明させられた。
チュートリアルのこと。ガチャでシークレット装備の《ミニガン》を当てたこと。イブが俺専用になったこと。《ミニガン》を撃ってたらサリアに見られて、それから一緒にパーティを組むようになったこと。今日も一緒にやること・・・等々。
「チッ」
え!舌打ち!?今舌打ちしたよね?うん、今俺が見てるのは幻想だ。そうだそれに違いない。俺の妹は舌打ちなんかしないよ・・・・・・しないと言ってくれぇぇぇ!
「ご飯できたわよ~」
そして、ナイスタイミングだ母さん!
パッと食べてパッと部屋にいってパッと《DFO》の世界に逃げよう。
食事中、里桜はずっと無言だった。
里桜の機嫌が悪いとわかった母さんは何も言わずモクモクとご飯を食べていた。
それはもう静かな食事風景でしたーーー
すばやくご飯を食べ終えた俺はすぐに《DFO》へとログインした。
サリアとの約束の時間まではまだあるので、ルべラの町の入り口で待つことにした。
装備は昨日のうちに冒険者の杖と変えてあるので問題はないだろう。
「はぁ」
先程の里桜のことを思い出すと溜め息しかでなかった。
「ハクト様どうしたんですか?私といるのに溜め息なんてヒドイです」
「・・・・・・はぁ」
「私の言葉にツッコむ余裕がないということは・・・ガチですね」
「ガチってなんだよ!初めからお前の言葉にツッコミたいなんてこれっぽっちも思ってねぇよ!」
「おー、パチパチ。やっと元気がでましたね」
こいつなりに俺を元気づけようとしてくれてたのかな?ってか、言葉でパチパチ言うな!
イブとそんなくだらない話をしてると、ちょうどサリアがインしてきた。
「ハックン、イブちゃんこんばわ」
「お~っす」
「サリア様、きちゃったんーーーっいえ、こんばんわです」
「ちょっとイブちゃん!今明らかに『きちゃったんだぁ』みたいなこと言おうとしたよね?ね?」
「・・・・・・いえ、そんなことは」
「何その間は!?
まぁいいや。ところでハックンなんか元気ないね?」
「ハクト様は私と離れてる間が寂しくてたまらないみたいです」
「ちげぇぇよ!むしろ清々するわ!」
「そんな・・・ひどいです。泣けちゃいます」
うわぁ、めんどくせー。何がめんどくさいってあいつの言葉にツッコむのがめんどくさい。
なんで俺の周りの女は、こうもめんどくさい奴が多いんだ?
「まぁまぁ。それで、何かあったの?」
「あぁ、妹の闇の部分を見たというか何というか・・・」
「あれれ。それは大変だねぇ。というより、ハックン妹いたんだね?」
「俺の2つ下だから、サリアの1つ下だな」
「そうなんだぁ!歳近いから友達になれそうだね。妹さんはこのゲームやってないの?」
友達になれそうと思ってるのは君だけだよサリア。可哀想なやつよ・・・。
「やってると思うんだけど、ゲーム内で俺を驚かせたいみたいで自分からはやってるとは言わないんだよ」
「へぇ~、お兄ちゃん愛されてますねぇ」
お前はどこの近所のおばさんだよ。肘で脇腹をつつくのやめろ。
「私の方がハクト様を愛ーー「お前は黙れ!」ヒドイです」
「とりあえず、さっさと町を探索しようぜ」
「うん、そうだね!じゃいこっか」
シュンッとしてるイブを放っておいて、俺とサリアはルべラの町へと足を踏み入れた。
ルべラの町も最初のクロムの町と一緒で石造りでできた家が立ち並んでいたが、クロムの町よりは小さい町のようだ。
町の景色を見て歩きながら、俺たちは最初の目的地に決めた武器防具屋をイブのナビの元向かった。
俺とサリアはいまだに初期装備の為、サリアは鎧系のを俺はINTかAGIが上がる装備を買おうということになった。
この《DFO》はモンスターを倒してもお金をドロップすることはないので、代わりにモンスターが落とす素材を店や露店で売るか、クエスト報酬で貰うか、生産して露店で売るか等をしてお金を稼ぐのであった。
ちなみにこの《DFO》の世界のお金は《G》となっているらしい。
武器防具屋に着くと、店のカウンターの中には筋肉がはち切れんばかりの体をしたおじさんが立っていた。
「らっしゃい」
「あの、素材を売りたいんですけど?」
「はいよ」
おやじの返事の後に、俺とサリアの視界には売却リストと書かれたものが浮かび上がってきた。
「今、あんたらの前に売却リストがでてるだろ?そこに売りたいアイテムをチェックして個数を設定してくれれば合計金額が表示されるから、後はその金額で大丈夫なら売却をしてくれ」
「わ、わかりました」
俺とサリアはおやじに言われたとおりに操作をして、今まで戦ったゴブリンやウェアウルフ、アルミラージとジャイアントウルフからドロップした大きい爪などをまとめて売却した。
最初のエリアということもあってか、売却金額は少なく結構な数を持っていったのだが、俺は1200Gでサリアが900Gという金額になった。
その後はおやじにサリアの金額にあった装備を頼み、買えたのがアイアンソードと鉄の胸当てだけだった。
所持金を全部使うわけにもいかなかったので今はこれぐらいで我慢ということになったのだ。
そして、俺の装備なのだがAGIを上げる装備を基本に考えていたのだが、序盤の方の町ということもあり性能があまり良くなく、買っても《ミニガン》の特性で引かれた分を補えるだけの装備はなかったのだった。
とりあえず、武器の杖を樫の杖にし、防具は魔導師のマントだけを買った。
買い物も終了し、店を後にしようとしたとき俺の目にあるものが止まった。
それを見た瞬間俺のなかで何かが閃いた。
「おじさん!あれは何?」
俺はおやじにその物を指指して聞いた。
「お?おぉ、あれかぁ。あれは俺が作った荷車だ。力があるやつなら大抵の道は押していけるぞ!」
「まじかぁ」
俺はおやじに少し待ってもらって、店の入り口付近で待っていたサリアへ詰め寄った。
「サリア、良いこと思いついだぞ!」
「う、うん。ちょっと近いかな。
ハックンの思い付きにあまりいい予感がしなけど、とりあえず言ってみて」
「あの荷車を売ってもらおう」
「うん?なんで?ドロップ品とかは勝手にアイテムボックスの中に入るから、あれは必要ないんじゃない?」
「違う違う。運ぶのは俺だよ!」
「は?何言ってんの?」
サリアの目がこいつ頭大丈夫かって目だけど、俺は至って真面目だ。
「俺があそこに乗って《ミニガン》を撃つんだよ」
「で?だれが押すの?」
「そんなのサリアしかいないじゃん」
「無理無理無理!ハックンは女の子になんてことさせようとしてんの?」
「だってサリアSTR高いじゃん。さっきおじさんが力がある人なら大抵の道は押せるって。だから大丈夫だよ」
開いた口が塞がらない。サリアの顔がそう物語っていた。
「あのさぁ、ハックン。100歩譲ってあの荷車を使うのはよしとしてもだよ、普通逆でしょ!」
「・・・だって俺STR10しかないもん」
チーン・・・。サリアの負けである。
「わかったぁ。でもそれ売ってくれるの?」
「聞いてくる!ってか絶対交渉してみせる!」
俺は決意を瞳に宿らせおやじの元へ再度戻った。
「おじさん!あの荷車売ってください!」
後ろではサリアが呆れ顔で立っていた。
「坊主、あの俺特製荷車がほしいのか?」
「はい!」
「じゃ、俺の頼みを聞いてくれたらあれをタダくれてやるよ」
まさかのクエストが発行された。
パーティを組んでるサリアにもその通知がきたらしく、驚きを露にした。
「おけ!やるよおじさん。まかせてくれ」
そして俺は即答した。
「おぉ!やってくれるかぁ、ありがてぇ。じゃ依頼内容を説明するからそこの嬢ちゃんもこっちに来な」
「あ・・・はぃ」
もう、断れる雰囲気ではなくなったと悟ったサリアは渋々俺の横に並びおやじの話を聞くことになった。
「頼みたい依頼ってのは、モンスターから鉱石を採ってきてほしいんだーーー」
次回『9、クエスト』