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10、荷車と運搬スキル

 あの後、無事に町に戻ることができた俺とサリアはクエスト報告のため武器防具屋へと向かった。


「おじさん、頼まれてた鉱石持ってきたよ」


 店の扉を開けカウンターに立っていたおやじに声を掛けると、それはもう嬉しそうに白い歯を綺羅つかせていた。


「おお!坊主達。無事に戻ってきたかぁ!ホントに鉱石を採ってこれたとはなぁ」


 その言い方だと全く期待していなかったと聞こえるんだが・・・。


 おやじの冗談なのか本気なのかわからない言葉は置いといて、俺は鉱石をアイテムから取りだしカウンターの上に置きおやじに見せた。


「これだ!これ!このストーン・スート「おじさん、名前言わないで!」ん?よくわからんが、この鉱石がほしかったんだぁ」


 サリアがまた笑いのツボに嵌まるとめんどくさいので、おやじに鉱石の名前を伏せてもらった。


「ところでおじさん。その鉱石何に使うんだ?」


 初めて聞く変な名前の鉱石なので、武器防具屋のおやじがそれを装備作成に使うのかそれとも違う用途で使うのか気になったので聞いてみた。


「お?これか?これはな、砕いて飲むと腰痛に聞くんだよ」


 鉱石を服用しちゃうのかよぉぉ!

 ここのNPCの体ってどうなってんだよ!ゲームだからか?ゲームだからそんな仕様なのか?怖ぇーよ!


「お、おじさん・・・それ飲むのか・・・?」


「ん?あぁ。このままでは飲まねぇけどな。

 これはな、装備とかで使う鉱石とは違って体の中に入れてもなんら問題のないものなんだ。

 モンスターから採れるからかもしれねぇが、使い方によっては俺みたいに腰痛の薬として使うことだってあるぐらいだ」


「へ、へぇ~、そうなんだ・・・。だから聞いたことのない名前だったのかぁ」


「まぁな。なんせこれはよ、採るのがすげぇ大変な鉱石だから一部の人しか知らねぇんだ。だから坊主逹が聞いたことないのも無理ねぇな」


 ということは、おそらく他のプレイヤーはこのクエストの存在自体知らないだろう。

 普通に考えて荷車がほしいって言うプレイヤーがいるとも思わないしな。

 たぶんこの手の特殊なクエストは、NPCとの特別な会話や親密度で発生するものだと考えられるので、今回クエストを受けることが出来た俺達はラッキーだったと言えるだろう。


 あとは報酬をもらえばクエスト完了だ!


「ところでおじさん。報酬の荷車は?」


「おお!悪い悪い。そうだったな」


 店の奥にあった新品の荷車をおやじは俺の目の前に置いて見せてくれた。


 それは荷台に取っ手がついている、現実世界では台車ともいうものだった。

 異なる部分と言えば荷台が木の板で作られており、キャスターというタイヤの部分が現実の台車のそれよりも遥かに大きくなっていることだけだった。

 タイヤが大きくなっているのには理由があって、こちらの世界の道は石畳みや草原、土道などがほとんどなのでそんな場所でもなんなく機能するようにと設計されたのであった。


「ほら坊主。これがお望みのものだろ?」


「おぉ~!おっ?・・・・・・えっ!?」


 おやじから荷車を受けとると、俺の視界には驚きの通知が流れてきた。


【武器:キャリーカートを入手】


「えぇぇ!まじでぇ!」


 突然の俺の叫びにその場にいたおやじとサリアがビクッとなり、何事かと聞いてきた。


「ハ、ハックン、どうしたの?いきなり大きな声だして」


「これ・・・・・・装備品なんですけど」


「は?・・・いやいや、荷車が装備品ってそんなバカな話ないよぉ」


「いや、マジだって!ってかここの運営バカだからな」


「え?ホントなの?」


 サリアは確かめるようにおやじとイブの顔を交互にみると、二人供が「え?何当たり前のこと聞いてるの」という顔をしていた。

 若干イブのサリアに対して小馬鹿にしたような表情が混ざっていたのがなんとも言えなかった。


「ホントなんだね」


「ああ。見たところ攻撃力はないんだけど、なぜかこれを装備した時はAGIが1.5倍になるっていう特性を持っているな」


「うわぁ・・・うわぁだね」


 うん。言いたいことはわかるぞサリア。俺も通った道だ。


「じゃ、とりあえずこれはサリアにやるよ」


「え?・・・・・・割りと本気でいらないかも」


「そんなこと言うなよ。俺が荷台に乗るのに俺が装備するわけにもいかないだろ?期待してるぜ動力源さん」


「あれ本気で言ってたのね・・・・・・。そして今ものすごくあなたを殴りたい気分だわ」


 やばい!ちょっと調子に乗り過ぎたかもしれない。サリアの目が死んでる!


 サリアに拒否(殴られる)前にメニューからトレードを出し、荷車こと《キャリーカート》を送りつけるとサリアは目だけでこちらをチラッとみて再び自信の視界に映っている画面に目を向けた。


「わーい、やったぁ。うれしいな」


 サリアさん。台詞が完全に棒読みなんですけど・・・。


 しばらくすると、俺の視界に【トレードが成立しました】という通知と一緒にメッセージが送られてきた。

 トレードの機能にはメッセージを書いて相手にお礼を言うことができるのである。


 メッセージを開いてみるとこう書かれていたーーー


『死ね』


 怖い怖い!誰か助けてぇ!怖いよぉ!


 俺はゲームでも汗をかくんだなと思いながら額に汗を流し、恐る恐るサリアの顔を見るとそこにはものすごく笑顔のサリアがいた。

 笑顔が逆に怖いです・・・。



 その後、なんとかサリアを宥めることができた俺は、貰うものも貰ったことなのでおやじにお礼を言って店を出ることにした。


「おじさん、荷車ありがとう。大事に《乗るよ》」


 俺の言葉に、おやじの頭には『?』マークが、サリアの頭には『怒り』マークが見えた気がした。


「おう、大事に使ってくれよ坊主」


 おやじの言葉に頷き返し、店の扉に手を掛けると


「おっと!忘れるとこだったぁ。ちょっと待ってくれ坊主達。報酬はそれだけじゃねぇだ。少ねぇけど、これも何かに使ってくれや」


 そう言って、おやじが手渡してきのは5000Gだった。

 そこでようやく俺とサリアに【クエストを完了しました】と通知がきた。


「これでクエスト終了なんだな」


「そうだね、危なくクエスト終わらせないまま店をでるとこだったね」


「そんなことをするのはサリア様だけですけどね」


「ん?何か言ったかなぁ?イブちゃん?」


「・・・・・・いえ、何も」


 顔は笑ってても目が笑ってないぞサリア・・・。

 そして、イブよ余計なことを言わないでくれ!


 サリアが噴火しないうちに、おやじにお礼を言いそそくさと店を後にした。


 今日はもう遅いのでまた明日ということになり、俺とサリアはログアウトすることにした。


 どうか、明日はサリアの機嫌が良い日でありますようにーーー




 ーーー翌日も前の日と同じ時間帯に俺とサリアはログインした。


「こんばんわ、ハックン!」


 今日も元気一杯のサリアさんです


「・・・あぁ。よぉサリア」


 そして、テンション低めの俺である。


「今日も元気ないねぇ?また妹ちゃんの闇の部分でも見たのかい?」


「闇ねぇ。闇なのかもしれないねぇ。いや、闇って言葉で片付けていいものか・・・。いや、あれは闇とはちがうかぁ・・・」


「ハクト様。先程から闇しか言ってないですよ」


 まさかのイブからのツッコミ!


「そうだな。いや、実はさぁ何かよくわからないんだけど今日の朝からずっと口聞いてくれないんだよぉ。俺何かしたかなぁ」


「それはきっと思春期でございますよ、ハクト様」


「そんな言葉で片付けるんじゃねぇぇぇ!髪の色金色に戻すぞ!」


「そ、それだけはご勘弁を~。」


「・・・・・・何この茶番」


 俺とイブの茶番劇に、サリアはただただ冷めた眼差しを向けるのであった。


「二人供、気が済んだ?」


「「はい」」


 何か、日に日にサリアの短気度が上がっている気がするんだが・・・。


「っで、話を戻すけど。おそらく無視されてる原因は昨日ハックンが言ってた妹ちゃんの闇だと思うよ。

 そもそも、どうしてそんなことになっちゃったの?」


 俺はサリアから目を反らし、遠くの町並みを見た。


「なんで目反らすの!?」


「いや・・・・・・。や、やっぱこの話はやめようぜ?リアルの話だし」


「う~ん。まぁ、リアルの話を聞くのは良くないかぁ。というよりハックンから言い出したんだけどね」


「あれ?そうだっけ、アハハ」


「ハクト様、誤魔化すの下手ですね」


 うるせーよイブ!ニヤニヤしながら小声で言ってんじゃねぇ!


「何二人でコソコソしてるの?まぁいいや。気になるけど、じゃこの話はこれでおしまいね」


 安心しろ。そう遠くない未来でお前はその理由をしると思うぞ。



「それで今日はどうしよっか?」


「ああ、それなんだが。ここは一気にレベルを20ぐらいまで上げちゃおうぜ!新武器もあることだし」


「・・・いや、それ経験値は一緒だからレベルは上がるけど、私だけスキルレベル上がらないじゃん」


「あっ・・・・・・。で、でもこの先サリアは戦わなくてもいいんじゃない・・・かなぁ、なんてね」


「は?」


 やめて!そんな虫けらを見るような目をするのは!


「戦う・・・・・・の?」


 スゥー


 おお!なんかサリアがめっちゃ息を吸い込んでる。


 ぅ!


 ん?止まった。おそらくあれが吸い込みの限界なんだろう。

 赤い!赤い!サリアの顔が赤い!


「戦うよ!戦うに決まってるでしょ!バカなの!一人でやってるときでもあの荷車押してろって言うの!バカなの!だいたい一人じゃなくてもあんなもの押すなんて嫌なんだから!ちょっとは考えてよね!バカなの!シスコンなの!バカなの!」


 おおー、噴火したねぇ。

 もういっそ、サリア山って改名したらいいんじゃないかな?

 ってか、シスコン今関係ないよね・・・。シスコンじゃねぇし。


「ハァハァハァハァ」


「ま、まぁ一回落ち着こうぜサリア。軽い冗談なんだし、ハハハ」


「冗談?」


 顔が髪で隠れて見えなくなってるのが怖さを増してるな。


「交代しながらスキルレベル上げるに決まってんじゃん。俺がそんな薄情な奴に見えるか?」


「見える」

「見えます」


 イブ、テメェ!絶対にお前の髪色を金色に戻してサリアと瓜二つにして姉妹っぽくさせてやるからな!


「やめてください」


 俺の心の声聞こえてんかよ!どんだけだよお前!


「ま、まぁそれはとりあえず置いといて。交互にスキルレベルを上げてけば自然とレベルも上がるだろ?

 サリアの番の時は俺がちゃんと押してやるから」


「いや、乗らないから!」


「ですよね」




 なんとか話が纏まり、俺たちは今エスタブ街道に来ていた。


 そして、俺はただ今絶賛爆走中である。しかもミニガンを持ったまま。


 この荷車こと《キャリーカート》に乗り、ファイアボールの弾丸を最高発射数で打ち続け、走る。最高に気分がいいものだった。

 もちろん動力源は押してる間はずっと能面顔中のサリアである。


 道が悪く、多少揺れはひどいが俺は乗り物酔いはしないタイプなので問題ないのだった。



 爆走を続けることしばらく。

 俺のレベルが18になった時に、動力源のサリアが急に止まり俺はキャリーカートから投げ出された。


 サリアは一点を凝視しているが、おそらく自分の視界の画面を見ているのだろう。


「おい!いきなり止まるなよ!ん?サリアなんかあったのか?」


「・・・・・・」


「おーい!サリア?」


「・・・・・・スキル」


「ん?スキル?」


「変なスキル覚えちゃったぁぁぁ!」


 サリアは頭を抱え、大空へと叫んだ。


「へ、変なスキルって?」


「・・・・・・運搬」


「え?なに?」


「・・・・・・運搬スキル!」


「まじ?」


 サリアは親の仇を見るような目で俺を睨んだ。


「ハックンのせいだからね!」


「いやいや、覚えて損するようなスキルじゃないんだろ?」


 サリアは無言のままメニューからスキル画面を呼び出し、俺に見せてくれた。


【運搬Lv1】

 物をもって10㎞以上走ると習得可能。

 物を運ぶ作業が楽になる。

 物を持っている間はSTRとAGIが1.2倍になる。レベルが上がると上昇値も上がる



 ーーー俺って物扱いだったんだぁ!


「名前はともかく、中身は別に悪くないんじゃないか?」


「そうだけど、そうじゃないでしょ!」


 サリアの言いたいことはわかるが、こればっかりは・・・。

 スキルは一度覚えると忘れることはできないのである。


「覚えちゃったものはしょうがないから、諦めるしかないんじゃないか?」


「う~、ハックンのバカ」



 泣く泣く受け入れることしかできなかったサリアと一緒に、一先ずスキルの検証をしてみることにした。


「おぉ!さっきより多少は早く感じるな。サリアはどう?」


「うん・・・。まぁさっきよりは軽くなった感じがするし楽かな」


 スキルの補正を少なからず感じることができたみたいである。


 前よりも快適になった俺達はログアウトするギリギリまでレベル上げに没頭した。


 サリアが習得した運搬スキルは、俺を乗せて走るだけでどんどんレベルが上がり、レベルが上がる毎に走るスピードも早くなったことでレベル上げのスピードも徐々に早くなり、なんとか俺達は目標の20台まで上げることに成功した。


 ちなみに、キャリーカートに乗りミニガンをぶっ放している俺の姿はバッチリ他のプレイヤーに見られていたのである。

 最初こそ警戒してコソコソしてたが、今の俺にはサリアとこのキャリーカートがあるので問題ないだろと思い隠すのをやめたというわけだ。



 目標も達成し、素材も結構取れたので今日は換金したらやめようということになり、俺達は町に戻ることにした。


 町に戻り、換金場所を先程の武器防具屋のおやじのとこに決め道を歩いていると、突如俺の背中にドンッという強くて柔らかい衝撃が襲った。


「うわっ!」


 驚き背中の衝撃の原因の方に目を向けると・・・


「お兄!」


 そこには、今日の朝から一言も喋らなかった妹の里桜がいた。



「・・・・・・え?」






次回『11、リオン』

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