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Passionate Sympathy  作者: 梅衣ノルン
第1章 Powerful Seeking
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導いてくれるということ

☆登場人物☆


・鎌谷善水……かまやよしみず

 高校二年生。男子。言動にやや冷たい部分がある。身長が高い。


・????

 謎の少女。長い銀色の髪を持つ。基本的に明るい。善水が大好き。身長が低い。


・水沢透……みずさわとう

 高校二年生。男子。サッカー部員。善水と仲が良い。髪は茶色。


・岡村美菜……おかむらみな

 高校二年生。女子。優しい性格だが、人には言えない趣味があるらしい。セミロングな金髪。


・????


・????


・????


・????


・????


・???


・???


・???


・????


・??


「ここが服屋だ。そしてこのコーナーから奥が女性用。予算はこの財布の中にたっぷりあるから、好きに選ぶといい。それじゃ」

「ご主人様は何処に行くんですか? 一緒に来ましょうよ」

「嫌だわ女性用の服売り場なんて。恥ずかしいわ」

「もーそんなこと言ってないで、一緒に選びましょうよー」

「いたたたた!? 頬をつねりながら足で足を引っかけて連れ出すという無駄に器用なことすんな!」

 俺たちはデパートの一角にいる。

 先に銀行に行って、先立つものをまず手に入れてきた。

 俺の口座に、父親が毎月振り込んでいる。今月はとりわけ多額の金が振り込まれていたが、十中八九こいつのための資金だろう。

 ATMを操作するときは決まって、俺は不快な感情を抱いていた。

 俺は空間的には抜け出せても、結局、経済的にはアイツに支配されているんだと。

「こんなにたくさんお洋服があったら、私一人では選びきれませんし、それに、一人で選ぶのは寂しいですし、お願いします!」

 しかし、隣の、ペコっと頭を下げている少女を見て、そんなことは些末なことだと断定してしまう俺がいた。

「分かったよ……」


「結局、お前ってまともな服持ってるの?」

「えーと、一枚も……。いや、一枚あります」

「メイド服?」

「いえ、それ以外にもう一枚。あ、今出しますね」

 水色のカバンから取り出したるは……、

「じゃーん!」

 昼間に美菜が着ていた……。

「制服!?」

「漆黒のブレザーに、茶色と黒のチェック柄のスカート……。見るだけで可愛いです! 早く着てみたいです!」

「ちょ、ちょっと待て、なんでお前が制服を持っている!?」

「なんでって、私が、ご主人様の通う学校の生徒だからに決まってるじゃないですか」

「ま、待て、頭の中を整理する時間をくれ……」

 俺は道のど真ん中で、少女に背を向け思考機能を加速化させる。

 答えは割とすぐに炙り出された。

 早朝に、何故か俺と一緒に学校に行きたがったこいつ。そして謎の転校生初日から不登校事件……。

「犯人はお前だったのか!?」

 俺としたことか、気づかなかった……!

 俺はせめて迅速に振り返る。しかし時すでに遅し!

「ようやく気付きましたか」

 そう言って嗤うは、あのまぶしい笑顔が絶えなかった少女……!

「……いつからだ、いつから俺は錯覚していた……!?」

「まったくです。錯覚する必要のないことを、ご主人様は錯覚していたんです。……それも、最初から。その対価はまさに、私という人の一日分。ご主人様ともあろうお方が、なんという失態を……。……さて、ご主人様。覚悟はできてますね……」

 小さな細腕を魔法のステッキのように振り回し、俺を射抜く!

「ふ、勝負に負けたのはこの俺だ。どんな処遇も受け入れるさ……!」

 後悔などなかった。

 正々堂々と戦ったら、負けたのだ。ただそれだけ……。

 敗因など、両者の内に秘められた力量と、なにより、何事にも屈しない精神力の差異に他ならないのだから……。

「ご主人様……、罰として今度美味しいものをおごってもらいます!」

 俺は敗北者としての礼儀として……、

「本当に申し訳ありませんでしたああああ!」

 硬い床に額をこすりつけ、靴と靴下を脱ぎ捨て、両の手のひらを千切れるくらいに広げて、その全面積を床にたたきつけ、魂からの謝罪を口にして……。

「いや待て。学校があるなら昨日の夜言っておくべきだったろ、お前が。しかも、学校に行くんなら八時半に起きたらダメだろ。おいてめえふざけんなよ」

 直ちにバック転のように起き上がり、少女の頭をかるーく叩いた。

「すみませんでした……」

 周囲を見回してみると、空気を読んだのか、人がほとんどいなかった。


「すごいです! こっちはセーター、そっちはコート、あっちはジーンズ……。世の中の人たちはこんなにたくさんの服からお気に入りのモノを買って着ているんですか! 正気の沙汰じゃないです!」

 絵に描いたように浮かれまくっていた。

 結局、こいつは初日から学校をサボった、という形になるのだが、学校から電話とかはかかって来なかったらしい。

 おそらく電話番号は田舎の俺の実家のものが登録されていたのだろう。

「この冬では、お前の初期装備じゃ厳しすぎる。とりあえずファッション性よりも実用性と機能性を重視して買っとけよ」

「ご主人様! ここにある服を全部買ったら何円くらいになりますか!?」

「なんで全部買うんだよ……。クローゼットに入りきらんわ」

「そういえば、前にコートを百着くらい貸してあげるとか言ってましたよね」

 俺は器用に口笛を吹いてごまかした。

「うーん、すでに三周は見て回りましたけど、どれを買うか全く決まらないです……。あと一週間くらい悩んでいてもいいですか?」

「いいよ。その間に俺は帰るから」

「辛辣すぎます!?」

「おい、今時計見てみたけどもう五時だぞ。もう俺が適当に選んでやるからそれを買え」

「それは助かります!」

 もう一度店内をぐるりと見回り、俺はあらかじめ目をつけていたモノをひょいひょいと取っていこうとするが……。

 トレーナー着用の高身長ゴリマッチョ&息を吸うように日常的にドレスアップをかましているように見えるセクシーな剣士を想起させるセレブが、空間の秩序を捻じ曲げるほどの夫婦の波動を放出しながら俺たちの隣を通り過ぎていった。

 こんな普通の服屋で何を買うのか、ある意味気になったので、目で追ってみると、なにやら真剣に服選びをしているようだ。

 男の方が論理的思考回路を働かせて女の服を選出したかと思えば、今度は女の方が豊富な社会的経験則に基づいて男の服の候補を絞り込んでいた。

 正直てきとーにこいつの服を買おうとしていた俺は、このまま普通の服選びだけして帰るのはダメなのでは、と思うようになってきた。

 女性用服売り場という男にとって居心地の悪い場所で、俺は男としての意地を出す必要があるのでは?

 俺は少女の頭の先からつま先までを、鑑定するように眺める。

「あ、あの、どうかされましたか……?」

 少女はちょっと恥ずかしそうに、手で髪の毛をもてあそんだり、つま先を床にトントンしたりした。

 こうして凝視してみると、本当に小さい……。

 この娘に最も似合う服を、何万点と陳列された商品から見つけることが出来るのだろうか。

 ……ええい、ここは度胸だ!

 これしか選択肢はない! と無理やり自分を確信させて、俺はたった一つの服を掴み取った。


「あ、あの、どうでしょうか……?」

 試着室から出てきた少女は、濃いピンク色のセーターと、赤と黒の縦じまが入ったスカート、そして真っ黒なニーソに身を包んでいた。

 その服を着た少女を見たとき、俺が抱いた感想は以下の通り。

「ぐわあああああああ恥ずかしいいいいいいい!」

 俺は悶絶して、のたうち回る。

「ど、どうしたんですかご主人様! なぜ着替えていないご主人様の方がこんなにも恥ずかしがっているのです!?」

「す、すまん……」

 今目の前に立っている少女は、いわば俺の願望を映し出した姿なのだ。

 ほぼ本能的に「こいつは確実に似合う」と思ったデザインの服を選び取った訳だから、とりわけその意味合いは大きい。

 いやね、透が言う通り、俺は確かにギャルゲーが好きで、よくプレイするし、そういうゲームで出てくる女の子の格好などが俺の頭にインプットされている訳ですよ。

 ただでさえ、女の子のファッションを考えるというだけでハードルが高すぎるというのに。

 こんなギャルゲー脳の俺が選び出した服は、本当に大丈夫なのだろうか? 周囲の人間から、あるいは彼女自身から、変な趣味だと揶揄されないだろうか?

「あのさ、そこに鏡があるだろ、正直、お前の目から見て、その組み合わせはどうよ?」

 こうなったら、彼女自身に判定してもらうことにする。

 果たして正解なのか、不正解なのか、確かめたいのはそこだけだ。

 少女は口を開いた。

「えーと、その、正直どんな服でもいいというか……」

「へ?」

「なんて言えばいいのでしょうか……、この店にあるお洋服はどれもとっても可愛いし、もちろんこの服もすごく良くて……、だから、えーと、う、嬉しいです!」

 それを聞いて、なんじゃそりゃ、と一瞬思ったが……。

「そうだな。もし俺がお前の立場だったらそう答えたかもな」

 初めて「服屋に来て服を試着した」という記憶が頭の中に投入された感想としては、非常に素直で率直であると思った。

「ぜひともこの服を着て帰りたいです!」

「そうか」

 ホッとした。

 俺の選択は、この娘に受け入れられたんだ。

 服を選ぶ。たったそれが成功しただけなのに、どうしようもなく救われた気持ちになった。

 その時、俺の脳裏にある言葉がよぎった。

 ……「相性のいい人たち」。

 俺は、彼女にとっての、何世代目かの「相性のいい人たち」の一人であるのだ。

 初めて彼女に出会ったときのことを思い出す。

 そう、こいつは俺の理想のイメージから、鏡に映し出されるように、生まれた。そう確信してしまいかねない程の衝撃が、俺の頭にガツンと叩き込まれたのだ。

 これらの理論から、演繹的に、次の次元の理論を生み出そうとしたとき。

 俺の中の、俺ではない誰かが、「その思考は、今は危険だ」と囁いたような気がした。

 半分うわの空で、会計を済ませた後、

「帰ろうか」

「はい!」

 商品が詰められた紙袋を提げて、二人は家路に着こうとした。

 その時。

 自分だけの脳内空間に、さっくりと切り込みを入れてくる、おぞましい影が一つ、生まれた。

 五感を振動させて、一瞬であたりを漏らさず精査する。

 影はバーチャル空間からリアル空間へ転身・実体化した。

「……悪い。お前はこれを持って先に帰ってろ」

「え。……おっと! ど、どうしたんですか、ご主人様!」

「頼む」

 それだけ言い捨てて、俺の中のこいつの感覚をシャットアウトする。

 影は、まるですべてのタイミングを見計らったように、その実態を顕現させた。

「……久しぶりだね」

 鎌谷善治(よしはる)。俺の父親が、そこにいた。

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