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Passionate Sympathy  作者: 梅衣ノルン
第2章 Precious Sensation
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気高き小さな孤高

☆登場人物☆


・鎌谷善水……かまやよしみず

 高校二年生。男子。言動にやや冷たい部分がある。身長が高い。


・沢渡惟花……さわたりゆいか

 謎の少女。長い銀色の髪を持つ。基本的に明るい。善水が大好き。身長が低い。


・水沢透……みずさわとう

 高校二年生。男子。サッカー部員。善水と仲が良い。髪は茶色。


・岡村美菜……おかむらみな

 高校二年生。女子。優しい性格だが、人には言えない趣味があるらしい。セミロングな金髪。


・????


・鎌谷善治……かまやよしはる

 善水の父。善水にとって反吐が出るほど嫌いな相手。NGOに所属している。


・????


・????


・????


・???


・和田霜……わだそう

 老婆。数十年前に、ある男性と不思議な出会いをする。


・長嶋悟……ながしまさとる

 NGO所属の男性医師。とある研究グループを自主的に立ち上げた。


・????


・??


「ああ、なんかどっと疲れたよ……。美菜」

「透君、お疲れ……」

 老人たちは、三々五々と散っていく。

 相変わらずの無表情だ。

 しかしその表情だけを見て、ボランティア開始前と()()()()()存在だとは断定できないだろう。

 冬という季節と、老人の汗腺という条件の下であるにもかかわらず額に発現した汗の玉と、彼らの腰周りの整理運動が、ボランティア活動が有意義であったことを語っている。

「惟花 正直、面白かったか? このゴミ拾い」

「あ、はい」

 質問の仕方が唐突すぎたみたいだ。

 ささやかな開会式の司会者と同じ人物が、一言だけ挨拶して、ゆっくりと帰っていく。

 それを合図にして、和田さんを含めた参加者たちも皆、自分自身の帰路に立つ。

 この人たちもおそらく、それぞれが他人だ。

 これは想像にすぎないが、家に帰っても、迎えてくれる配偶者や、なついてくれる孫などもいないのではないだろうか。

 寂しげだが重そうなその外見を見て、ふと、そう思った。

 でも、だからこそ、集うのかもしれない。

 ボランティア活動を通して、見慣れた顔を、さらに頭に刷り込む。それは会話などなくても、できることだ。


「あの……」

 現地で持参した昼ごはんを食べて、帰りの電車に揺られる。

 透と美菜が眠りについた、その矢先のことだった。

「どうした」

「その、もう一度、あ、あれ、し、しませんか」

 あれって……あれだよな。

「……無理」

「そんな返しかたしなくてもいいじゃないですか。傷つきますよ?」

「……無理なものは無理」

「なんでですか」

「無理だから」

「理由になってませんよ!?」

「恥ずかしいだろ」

「でも、誰も起きてませんよ?」

 その声だけ、少し色っぽく聞こえた。

「起きたら、どうする」

「その前に済ませれば、大丈夫ですよ。……それとも、私とキスするのは、嫌ですか。ご主人様……?」

 俺も眠かったのに、一気に目が冴えてしまった。

 疑問というか、違和感というか……、変化のようなものを感じた。

 いくら何も知らない世界でも、十日ほども暮らせば、空気の読み方も分かってくるのか。

 分かっている。

 透や美菜が起きている時に誘われなかったことを、本来、俺は感謝しなければならない。

 そして、感謝の代わりに、ある行為によって自己を開かなければならないことも。

「分かったよ」

 俺と惟花の身体が、隙間なく密着する。

 最も近い距離で、顔を近づけあった。

 さっきよりも、上手くできたという感覚がある。

 もちろん、高揚も。


 また、学校が始まる。

 休み時間も惟花といつも一緒にいるので、寮と学校と比べても、生活の感覚があまり変わらない。

 しかしそれでは駄目だろうと、心の底からの信号を受け取った俺は、部屋を出る前にひとつ約束事をした。

「義水君、ちょっとトイレに行ってくる」

 違和感がないはずなのに、違和感しかないセリフを、惟花が言った。

 概ね、以下のようないきさつがあった。


「惟花。お願いがあるんだが、学校で敬語を使うのをやめてくれないか?」

「なんでですか?」

「なんでって言われても、他の奴らもタメ口だからとしか。今更だけど、やっぱり違和感がある」

「でも、私はご主人様のメイドですよ?」

「そう言えばそうだったな」

「そう言えば! そう言えばって、普通に忘れてましたよね!」

「それこそ今更だろ……。もうその設定必要ないだろ」

「なんのために私がご主人様のメイドであると思ってるんですか! ご主人様がメイド好きだからに決まってるじゃないですか!」

「そうか。でも、本来メイドは学校に行かないと思うのだが……」

「そ、それはそうですが」

「とにかく、あと五分で寮を出て学校に向かうわけだが、今から練習な」

「はい、分かりました、ご主人様」

「いや、だから今から敬語をやめろと……」

「わ、分かったよ、ご主人様」

「どこの学校に、クラスメイトをご主人様呼ばわりする奴がいるんだよ」

「ご主人様の名前ってなんでしたっけ?」

「忘れたのかよ!」

「む。だって、いつもご主人様って呼んでるんだから、無理ないじゃないですか! いや、無理ないでしょ!」

「まあそうかもしれないけど、彼氏の名前くらい覚えていてくれると嬉しいかな。義水だよ」

「分かった。義水君。これでいいですか?」

「ああ。まあ、最後だけ敬語だったが」


 というわけであった。

 正直、わざわざ言葉遣いを直さなくても、相部屋発覚事件の時のように、特に周りから非難されることもない(むしろ羨ましがれる)だけなのだろうが……。まあ、けじめのようなものだ。

 それにしても、なんであいつは俺と出会う前から、俺の性癖を知っていたのだろう。


「……おそ」

 あと五分で授業が始まるというのに。

 トイレに行ってから、いっこうに帰ってこない。

「美術室は遠いんだがな……」

 もう一人で行こうか。

「……!」

 あれ、帰ってきた?

 いや、背丈が、もとい背丈しか似ていなかった。

 他人の空似か……。

「…………!」

 そう思っていたのに、その人は回り込んで、俺の背後をとってきた。

「え、なんだなんだ」

「…………!」

 女子だ。何やら必死で目をつむっているが。

 彼女は当然、背後から俺を襲うためではなく、隠れるためにやってきたのだ。

「だ、誰? 何年生?」

 美しく長い淡緑色の髪が、腰までのびている。なにより、背丈が小さい。

 見たことのない人だった。

「待って~!」

「…………!」

 同じ方向から、同じくらい(正確には、一ミリくらい大きい)の背丈の人がやってきた。

 悲しきかな。今度は知人だ。

「惟花。お前、何やってんの」

 少しだけ息をあげて、惟花が俺の正面までやってくる。

 それと同時に、背後の人が、おそらく警戒心から、俺の制服の裾をきゅっと掴む。

「待ってください、いや、待って~」

 惟花は時計回りに、肉薄しながら俺の周りを円弧を描くように移動する。

 同じく、見知らぬ方の人が時計回りに移動する。

 伸ばされた惟花の手は、空を切った。

「逃げなくてもいいじゃない」

「………………!」

 負けじと、惟花は繰り返す。

「俺は眼中にないのかよ……」

 二人はぐるぐると俺の周りを回っている。変な儀式を見せられているようで、うなだれそうになる。

 俺は適切なタイミングを待ち構え、惟花の首根っこを掴む。

「ひゃわわ」

「何やってんの」

 惟花は追いかけるのをやめ、俺の方へ身体を向けた。

「脱・敬語を果たすために、下級生を追い回していました」

「それはまたとてつもなく迷惑な先輩で……」

「聞いてくださいよ。この娘、とってもかわいくないですか?」

「…………………………!」

 隣の女の子をさりげなくつかみとる惟花。

「とってもちっちゃいですし~」

「…………………………!」

 親愛なるあなたにこの言葉を贈る。お前が言うな。

「迷惑なことしてないで、さっさと美術室に行こうぜ……。あと二分しかないぞ」

「あ、そうでした! さっさと行かないと! それじゃあ後輩さん、さようなら!」

 ぴゅ~、と音を出しながら、惟花は走り去っていった。

「おい惟花、俺を置いていくなよ! 待て! あと、最後の方結局敬語に戻ってたぞ!」

「……」

「あ、ごめん。君は帰っていいよ。迷惑をかけてすまん」

「……」

 こく、とひとつ頷いてから、ぱたぱたと走っていった。

 終始無言な娘だったな。上級生に囲まれたら無理もないが。

「ん」

 彼女のポケットから、何かが落ちた。

 拾い上げる。それは手帳だった。

「これは返さねえと。でも今は時間がないから、昼休みにでも返さなきゃ。面倒くさい……。」

 自分のポケットにおさめようとしたとき、表紙がちらっと見えた。

 それを見て、俺は失礼ながら驚愕してしまった。

「古井秀理(ひでり)……」

 そして、その左側には、

「三年二組」

 と書かれていた。

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