>>>>>>>>>>The Blue Side 2>>>>>>>>>>
☆登場人物☆
・鎌谷善水……かまやよしみず
高校二年生。男子。言動にやや冷たい部分がある。身長が高い。
・沢渡惟花……さわたりゆいか
謎の少女。長い銀色の髪を持つ。基本的に明るい。善水が大好き。身長が低い。
・水沢透……みずさわとう
高校二年生。男子。サッカー部員。善水と仲が良い。髪は茶色。
・岡村美菜……おかむらみな
高校二年生。女子。優しい性格だが、人には言えない趣味があるらしい。セミロングな金髪。
・????
・鎌谷善治……かまやよしはる
善水の父。善水にとって反吐が出るほど嫌いな相手。NGOに所属している。
・????
・????
・????
・???
・和田霜……わだそう
老婆。数十年前に、ある男性と不思議な出会いをする。
・長嶋悟……ながしまさとる
NGO所属の男性医師。とある研究グループを自主的に立ち上げた。
・????
・??
少女は今日も祈る。
何十回と、彼女は私の前に膝をついては、手を合わせるのであった。
信仰心の強い者が、神の存在を見ることができたのなら、全員そうするものなのだろうか。
現代社会において、宗教は完全に追い詰められた。
おそらく十年としないうちに、彼女の信仰もつぶされてしまうだろう。
衛生も悪く、環境的・社会的不安定が長引いてきたこの地域も、やがてはインフラが整備される。それは抗うことのできない運命だろう。
その結果、人類は宗教を求めなくなる……。
なぜか?
宗教とは、人の心のよりどころであるだけであったか?
それではただの犬小屋だ。
宗教は、家屋としての役割がある。もっとあたたかい何かが、そこにあるはずだ。
人間でない私は、人間のことは理解しがたいが、輪をかけて理解できないのは、科学と宗教についてだ。
決めた。
少し旅をしてこよう。
正確に言えば、私は、人間が暮らし生活している空間とは別次元にいる存在だ。
そこからは、人間の空間のどこにでも一瞬で移動できる。
三次元空間の任意の場所を、二次元の平面として取り出せるのと同じだ。
まず、先進国と呼ばれる国へ移動する。
地図も携帯もないから、ここがどこなのかもわからない。
車はすごいスピードで走っている。私にはそう感じるだけで、その土地の人間にとっては至極当然のことなのだろう。
人は濁流。建物は高山。
情報などあっという間に広がる。
ここは、ビルの中だろうか。
数人の人間が紙束を持って集まって、何やら話し合いをしている。
私は瞬間移動を、超小刻みに行った。
いろいろな仕事をしている。
機械を組み立て、人と話し合い、ただ小型機器の前で待ち続け、宇宙へ飛んでいき、今度は自動車を走らせて背景を更新し、スクリーンで発表し、種をまき、性行為をしていた。
全員が全員、自分のすべきタスクを、淡々と消化している。
共同作業は日常的にみられたが、仕事が済めば他人と化すパターンが多かった。
それを見て、なんだか冷たさを感じた。その土地の人間の営みの、そのすべてが。
これも、人間の側から見れば、何を馬鹿なことを、と思うだろう。当たり前のことを当たり前にこなしているだけなのだろう。
人間のいう笑顔というべきか、そのような「身体や心の高揚の信号を示す行為」というものは、数え切れないほど私の目がとらえてきたことも、否定できない事実である。
しかし、何かが足りないのではなかろうか。
自分でもよく分からないが、数十年前まで存在して、現代のこの場所が失ったものというものは、限られてくる。
それこそ、宗教、または、それに準ずる何か、だ。
乾いた粉と空気が飛び交う場所へ、帰ってきた。
今度は、戦闘が特に激しい区域へ移動する。
所属のよく分からない戦闘員と、所属のよく分からない戦闘員とが、シンプルな銃撃戦を繰り広げていた。
ほかにも、兵器の製造拠点や、捕虜の処刑所など、紛争に関わるスポットはいくつもあるが、とりあえずそれらは無視する。
国の拠点のような場所へ行く。
この宗教が国教だとしたら、純粋に、中枢部に関連資料が収められているだろうと、そう判断した。
人でごった返している。
相変わらず、誰からも見られない。そう思っていたら、数人の女性にあっさりと見つかった。
宗教とは、それほど強い。
私は瞬時に右手を、彼女らへ向ける。
指先が黒光り、彼女らはこちらへ向かって全速力で駆けつつ静止した。
時の次元すら越えている以上、それをも操ることができる。
文字通り、人間業ではない。
あくまで人間の視点というものを肌で感じたいので、濫用は自分で禁じているが。
一度に中枢部まで飛ぶ。
そこには、数十冊の書物が納められていた。
光を跳ね返すほど、全てに新しさが残っていた。
一冊ずつ手に取る。
歴史。教え。理論。沈黙の儀式について。余すことなく記載されている。
それにもかかわらず、たった書物数十冊におさめられているのだ。
歴史の浅さを物語っている。幼子の写真アルバムのように、まだまだ発達途上で、がらがらだ。
ただしそれは、私がこれまで知っている宗教と比べて特殊だ、というほどではない。
むしろ、時代が違えば、一地域で信仰される宗教としては、極めて自然に存在していけるものだろう。
そう、時代が違えば。
少女を、また見つけた。
彼女の前で立ち止まると、少女は私の脇を通りすぎて、早足でどこかへ駆けてしまった。
視野にとらえられるか、とらえられないか。その境界はとても不明瞭で、振動性が高い。
少しだけ、彼女が気になった。
ついていこうとする……やいなや、少女は突然きびすを返し、私の正面で膝まづく。
「ナティ……」
今度は立ち上がり、石造りの建物のようにぴったり静止して、手を合わせてまた祈り始めた。
「今は、私が見えるの?」
「はい。ナティ様」
大海原と、快晴の空との境界のように、境目は限りなく曖昧なのだ。
「あなたは、周りのお友達よりも、熱心に祈っているわね」
「……はい」
ワンテンポ遅れた返事だった。
「元気が無いように見えるけど?」
「……いえ、私は大丈夫です。ナティ様は、大丈夫でございますか」
「……私は人間じゃあないもの」
不思議な会話だ。
そもそも、私は普通、人間とは会話できない。会話した記憶は、もうほとんど残っていない。
孤独について。それだけの主題で、私は一冊書けそうだ。
「明日から、沈黙の儀式だそうだわね」
「……沈黙の儀式?」
「ああ、ナティスメティアのことよ」
「……ああ、はい。そうでございます」
さっき聖書を見て、その名を知ったのだった。
「おい、ムンジャ。さっさと帰ってこい!」
激昂した様子の大男が、こちらに向かってきた。
少女(名はムンジャだろう)の小さな身体が、ぴくりと震える。
「彼は、父親なの?」
「……はい」
「では、私はここで失礼するわね。またの日で」
私がそう言うと、ムンジャの顔は、たちまち崩れていった。
しゃっくりのような嗚咽が、私の五感にしみついてくる。
「どうしたの?」
私は尋ねるが、
「早く来いと言っているだろうが! 毎日毎日何もない場所でぶつぶつと気持ち悪い事をつぶやきやがって!」
たちまち怒声が重なり、私の声は押し出されてしまう。
泣くこと、そして祈ることしかできなかったムンジャは、ついにどの怒声のもとへ向かってしまう。
呆然自失となる私。
孤立という概念が、社会的合理性を伴ってある人物に植え込まれたという事実……。
それが、この世界の世代交代の到来という可能性をもって、重大な転換点となった。




