表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Passionate Sympathy  作者: 梅衣ノルン
第2章 Precious Sensation
18/44

>>>>>>>>>>The Blue Side 2>>>>>>>>>>

☆登場人物☆


・鎌谷善水……かまやよしみず

 高校二年生。男子。言動にやや冷たい部分がある。身長が高い。


・沢渡惟花……さわたりゆいか

 謎の少女。長い銀色の髪を持つ。基本的に明るい。善水が大好き。身長が低い。


・水沢透……みずさわとう

 高校二年生。男子。サッカー部員。善水と仲が良い。髪は茶色。


・岡村美菜……おかむらみな

 高校二年生。女子。優しい性格だが、人には言えない趣味があるらしい。セミロングな金髪。


・????


・鎌谷善治……かまやよしはる

 善水の父。善水にとって反吐が出るほど嫌いな相手。NGOに所属している。


・????


・????


・????


・???


・和田霜……わだそう

 老婆。数十年前に、ある男性と不思議な出会いをする。


・長嶋悟……ながしまさとる

 NGO所属の男性医師。とある研究グループを自主的に立ち上げた。


・????


・??


 少女は今日も祈る。

 何十回と、彼女は私の前に膝をついては、手を合わせるのであった。

 信仰心の強い者が、神の存在を見ることができたのなら、全員そうするものなのだろうか。

 現代社会において、宗教は完全に追い詰められた。

 おそらく十年としないうちに、彼女の信仰もつぶされてしまうだろう。

 衛生も悪く、環境的・社会的不安定が長引いてきたこの地域も、やがてはインフラが整備される。それは抗うことのできない運命だろう。

 その結果、人類は宗教を求めなくなる……。

 なぜか?

 宗教とは、人の心のよりどころであるだけであったか?

 それではただの犬小屋だ。

 宗教は、家屋としての役割がある。もっとあたたかい何かが、そこにあるはずだ。

 人間でない私は、人間のことは理解しがたいが、輪をかけて理解できないのは、科学と宗教についてだ。

 決めた。

 少し旅をしてこよう。


 正確に言えば、私は、人間が暮らし生活している空間とは別次元にいる存在だ。

 そこからは、人間の空間のどこにでも一瞬で移動できる。

 三次元空間の任意の場所を、二次元の平面として取り出せるのと同じだ。

 まず、先進国と呼ばれる国へ移動する。

 地図も携帯もないから、ここがどこなのかもわからない。

 車はすごいスピードで走っている。私にはそう感じるだけで、その土地の人間にとっては至極当然のことなのだろう。

 人は濁流。建物は高山。

 情報などあっという間に広がる。

 ここは、ビルの中だろうか。

 数人の人間が紙束を持って集まって、何やら話し合いをしている。

 私は瞬間移動を、超小刻みに行った。

 いろいろな仕事をしている。

 機械を組み立て、人と話し合い、ただ小型機器の前で待ち続け、宇宙へ飛んでいき、今度は自動車を走らせて背景を更新し、スクリーンで発表し、種をまき、性行為をしていた。

 全員が全員、自分のすべきタスクを、淡々と消化している。

 共同作業は日常的にみられたが、仕事が済めば他人と化すパターンが多かった。

 それを見て、なんだか冷たさを感じた。その土地の人間の営みの、そのすべてが。

 これも、人間の側から見れば、何を馬鹿なことを、と思うだろう。当たり前のことを当たり前にこなしているだけなのだろう。

 人間のいう笑顔というべきか、そのような「身体や心の高揚の信号を示す行為」というものは、数え切れないほど私の目がとらえてきたことも、否定できない事実である。

 しかし、何かが足りないのではなかろうか。

 自分でもよく分からないが、数十年前まで存在して、現代のこの場所が失ったものというものは、限られてくる。

 それこそ、宗教、または、それに準ずる何か、だ。


 乾いた粉と空気が飛び交う場所へ、帰ってきた。

 今度は、戦闘が特に激しい区域へ移動する。

 所属のよく分からない戦闘員と、所属のよく分からない戦闘員とが、シンプルな銃撃戦を繰り広げていた。

 ほかにも、兵器の製造拠点や、捕虜の処刑所など、紛争に関わるスポットはいくつもあるが、とりあえずそれらは無視する。

 国の拠点のような場所へ行く。

 この宗教が国教だとしたら、純粋に、中枢部に関連資料が収められているだろうと、そう判断した。

 人でごった返している。

 相変わらず、誰からも見られない。そう思っていたら、数人の女性にあっさりと見つかった。

 宗教とは、それほど強い。

 私は瞬時に右手を、彼女らへ向ける。

 指先が黒光り、彼女らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 時の次元すら越えている以上、それをも操ることができる。

 文字通り、人間業ではない。

 あくまで人間の視点というものを肌で感じたいので、濫用は自分で禁じているが。

 一度に中枢部まで飛ぶ。

 そこには、数十冊の書物が納められていた。

 光を跳ね返すほど、全てに新しさが残っていた。

 一冊ずつ手に取る。

 歴史。教え。理論。沈黙の儀式について。余すことなく記載されている。

 それにもかかわらず、たった書物数十冊におさめられているのだ。

 歴史の浅さを物語っている。幼子の写真アルバムのように、まだまだ発達途上で、がらがらだ。

 ただしそれは、私がこれまで知っている宗教と比べて特殊だ、というほどではない。

 むしろ、時代が違えば、一地域で信仰される宗教としては、極めて自然に存在していけるものだろう。

 そう、時代が違えば。


 少女を、また見つけた。

 彼女の前で立ち止まると、少女は私の脇を通りすぎて、早足でどこかへ駆けてしまった。

 視野にとらえられるか、とらえられないか。その境界はとても不明瞭で、振動性が高い。

 少しだけ、彼女が気になった。

 ついていこうとする……やいなや、少女は突然きびすを返し、私の正面で膝まづく。

「ナティ……」

 今度は立ち上がり、石造りの建物のようにぴったり静止して、手を合わせてまた祈り始めた。

「今は、私が見えるの?」

「はい。ナティ様」

 大海原と、快晴の空との境界のように、境目は限りなく曖昧なのだ。

「あなたは、周りのお友達よりも、熱心に祈っているわね」

「……はい」

 ワンテンポ遅れた返事だった。

「元気が無いように見えるけど?」

「……いえ、私は大丈夫です。ナティ様は、大丈夫でございますか」

「……私は人間じゃあないもの」

 不思議な会話だ。

 そもそも、私は普通、人間とは会話できない。会話した記憶は、もうほとんど残っていない。

 孤独について。それだけの主題で、私は一冊書けそうだ。

「明日から、沈黙の儀式だそうだわね」

「……沈黙の儀式?」

「ああ、ナティスメティアのことよ」

「……ああ、はい。そうでございます」

 さっき聖書を見て、その名を知ったのだった。

「おい、ムンジャ。さっさと帰ってこい!」

 激昂した様子の大男が、こちらに向かってきた。

 少女(名はムンジャだろう)の小さな身体が、ぴくりと震える。

「彼は、父親なの?」

「……はい」

「では、私はここで失礼するわね。またの日で」

 私がそう言うと、ムンジャの顔は、たちまち崩れていった。

 しゃっくりのような嗚咽が、私の五感にしみついてくる。

「どうしたの?」

 私は尋ねるが、

「早く来いと言っているだろうが! 毎日毎日()()()()()()()ぶつぶつと気持ち悪い事をつぶやきやがって!」

 たちまち怒声が重なり、私の声は押し出されてしまう。

 泣くこと、そして祈ることしかできなかったムンジャは、ついにどの怒声のもとへ向かってしまう。

 呆然自失となる私。

 孤立という概念が、社会的合理性を伴ってある人物に植え込まれたという事実……。

 それが、この世界の世代交代の到来という可能性をもって、重大な転換点となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ