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嘘の花束

「わたしはこの手紙の主への伝言を預かってきたのだけど」

手を広げてしまったらもう放たれた言葉は戻らない。すこし腹が立って、マノは強めの語気で言う。

「どうしてあなたが手紙の主のようにふるまって……」

エオリアの視線は、さっき開けた扉の向こうにあった。詰め寄った手前勢いを落とせなかったマノに変わって、ナダがつぶやく。

「いるのか、あっちに」

エオリアは視線を二人に戻して、あたまを下げた。

「ごめんなさい、悩みました、伝言を聞くまで。でもユーリエは手紙の主をいたわってくれた。だからたぶん、打ち明けたほうがいいのでしょうね」

すこしエオリアは首を傾げ、

「実は物語を書いていたのは、わたしのおじいさまなんです」

「おじいさま?」

ユールに聞いていたのは、物語はある少女の自伝のような物語であり、童話のような、少女小説のような、夢のある話だったと聞くが。

「ええ、おじいさまが、あの話を書いていました。だから、おじいさまは自分のお名前で発表することをせず、原稿をわたくしに代筆させていたの」

たしかに年配の男性が少女小説を書いて発表するなど、よい笑いものとなるような世界である。

「おじいさまはユーリエとのやりとりで物語を推敲したり直したり、ときにはあの台詞に文句を言うとは分かっとらん、と半日も愚痴をおっしゃって、それは楽しそうでいらしたわ」

マノとナダは、思い出のように語られるその語り口に少し予感をしていた。おそらく、

「そう、お気づきでしょう。おじいさまは、以前からお体を壊されていて」

「……」

「お体のために、物語をお書きになることはもう控えたほうがいいと、お医者さまに言われていたの」

ナダがどう言おうか迷っているところへ、マノが言った。

「ユーリエへ、なにか手紙か伝言をお預かりしましょうか」

エオリアが気づいて、うなづいた。

「ありがとうございます、聞いてきますね、お待ちください」


エオリアが奥の間に消え、二人は息をついた。

「誰と誰が文通していたんだろうな、これは」

「物語を書く少女とそれを楽しみにしている女の子、かしらね」

やれやれと、マノはため息をついた。顔の見えない手紙のやりとりで、自分を偽るのはやめようとも思ったようである。


「おじいさまがことばを伝えてほしいと、こちらへおいでいただけますか」

マノたちは奥の部屋に通されたが、ついたてが置いてあってエオリアの祖父の様子をうかがうことは出来なかった。大きなお屋敷の主は、病床にあることを人に見られたくないのかもしれない。

マノは手を包む形に広げた。

「おはなしください」

しわがれ気味の声が、嘘をついていた非礼を詫びる。続きが書けないことも、そして。


「……と、ここまでだ」

そう言われ、マノが手を握った瞬間、しわがれ気味の声は続いた。

「海辺のパン屋の夫婦には、せがれ一人であっただろうと記憶しているな」

二人は、ぐ、と言葉を詰まらせたのだった。少女はともかく、この辺りに昔から住む大人をだませるわけがなかったのだ、男性が苦手というエオリアがいまさら顔色を変えたが、二人は顔を見合わせるしかなかった。

だから手紙は偽りのない身分で書けと言うのだ。


見送りに出たエオリアに、ナダが聞いた。

「で、なんで俺はよかったわけ」

男性が苦手というなら、ナダが平気とはどういうわけか、確かに気になるだろう。

「ええ、マノさんのお連れでいらっしゃるから、その」

「違います」

要するに、誰かの恋人なら良いというわけか。それもどうなのだろうと思いつつ、二人は伝言を再びユーリに運ぶため歩き出した。


ことのは、めぐりて、ざれうた、はこびつ

ことのは、ゆらげど、いまかこ、うたいて


意味のあるような無いような、ふわふわとした歌がマノの周囲を取り囲む。半ば夢うつつのマノを先導しつつ、ナダがふと呼ばれた気がして振り返った。

エオリアの屋敷に居た侍女である。ずっと走ってきたようで、髪が振り乱れ怖いようである。

「どうした、忘れ物でも」

しかし、侍女のこの様子は少し忘れ物を届けに来た、というようではない。

「いいえ、いいえ、グレゴリオさまが、グレゴリオさまが」

グレゴリオというのは、エオリアの祖父の名前である、とマノたちは先ほど知ったばかりだ。

侍女は言った。

「急にご容態が変わられて、その、」

息を継ぐ。

「ユーリエさま、いえ、ユールさまにお会いしたいと……!」

ぐ、とマノは手を握りしめた。

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