センター試験1日目 12:25
1人昼食を食べ終わり、お手洗いに行ってメイクを直した。マスカラもアイラインも水に強いものを買っているため、それほど酷い顔にはなっていなかったが、少し取れかけていたアイラインを引き直した。リップクリームもきれいに塗りなおした。
控室に戻ると、筆箱と受験票をもって受験会場へと向かった。今日、明日は閉まっている大学の食堂が私立高校の控室になっており、そのそばを通るとき、遠目に皆川君がいないか眺めてしまった。思い切り頭を振って気を取り直し、スタスタと早足に会場へ向かった。
会場の前で鉛筆を4本出して廊下にある荷物置き場に筆箱を置いた。それから会場に入り、次の国語に向けて机の上を整理した。
一段落つくと、頭の中には皆川君の顔と先ほどの森野さんという女の子と皆川君との会話が浮かんできた。走り去る前にちらりと振り返ってみた森野さんは、小柄でこげ茶の髪をカールさせた小悪魔系の可愛らしい女の子だった。平均より少し高めの身長で顔は十人並み、少し太めで不愛想な私とは正反対の、社交的で明るい感じの女の子。彼はああいった女の子らしい子が好みなのだろうか。だから、私を振ったのだろうか。そういえば、皆川君は私にはよく悪戯をしてきたし、いつもいつも二言も三言も多かった。でも、彼は私の友人で同じ部活の可愛い系の女の子にはしなかった。やはり私は彼に嫌われていたのかな。
「藍那ちゃん、早いね。」
「あ、うん、落ち着かなくて。」
皆川君のことを考えていると、いつの間にか時間がたっていたようで、綾子ちゃんに声を掛けられていた。綾子ちゃんは私の返事を聞くとすぐに自分の席へと歩いていった。続々と受験生たちが入ってきた。
今回の国語の試験は古典が少し難しかった。古文は曽我物語からの出典で思わず涙が流れてハンカチを使うことになったし、漢文は刺客列伝からの出典でこれまた結末が悲しくて泣いてしまった。今年の国語は受験生を泣かせたかったのだろうか。しかしそのおかげで、私は試験中に皆川君のことを思い出さずに済んだ。
今度は、さっさと受験会場を出て、荷物置き場で鉛筆にキャップをはめていった。そして、皆川君の後ろを歩いた。広いところに出て、人の波がばらばらになったところで、私は勇気を出して、皆川君に声をかけた。
「皆川君。」
期待と不安に鼓動が早くなる。振り向いた彼は…。
「誰?」
不思議そうにそう言い、細めの黒縁の眼鏡のずれを直しながら私をまじまじと眺めた。
「っ、もういい。」
私は手荒く彼を突き飛ばすと控室へと走った。彼はその場にしりもちをついた。幸いなことに他の人に被害はなかった。私が人のいないほうへ彼を突き飛ばしたからかもしれないが。
「待って。おい、待てって。」
彼の呼び止める声が聞こえたが、無視した。どうして。どうして忘れてしまったの?”君のことはずっと忘れないよ”そう言って、手紙にも書いて、私に残したじゃない。あれは嘘だったの?どうして?視界がにじんで前がよく見えない。きっと酷い顔になっている。最悪だ。
やっとプロローグまでやってきました。ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。これからも完結まで読んでやってください。




