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約束  作者: 結美子
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センター試験1日目 10:05

 会場に着くまでに皆川君には出会えなかった。会場、離れているんだろうか。そんなことを考えながら自分の席に着く。机の上に必要なものを並べていった。最後に腕時計を見やすいように置いた。

「あら、藍ちゃん、隣だね。」

 横を向くと、真知ちゃんが隣に座っていた。

「そうだね。頑張ろう。」

 そう言って私はゆっくりと息を吸った。

 入室完了の10時15分までがとても長く感じた。頭の中は皆川君でいっぱいで、日本史のことなんか全く頭になかった。


 日本史の試験は思い出せないところもあったが概ね解け、終わった。もちろんいつも通り20分程度余ったので、ゆっくり見直しをしながら、皆川君のことを考えていた。

 試験会場からゆっくりと出ると、奥の会場から皆川君の姿が見えた。私立梅谷高等学校のブレザーの制服、しかし、上着を脱いでカーディガンに緑のネクタイが見える格好になっていた。カーディガンはオフホワイト。中学時代、冬でも学ランを脱いでカッターシャツになっていたため、白いというイメージだったが、今でも白いようだ。

 声をかけようかと思ったが、もしかしたら彼のほうから声をかけてくれるかもしれない。一度気づいてくれるか待ってみようと、彼に背を向け、ゆっくりと歩き出した。彼と私との距離が少しでも縮まるようにとわざとゆっくり歩き、周りの人に私を抜かすように仕向けた。彼までの距離が縮んで、声がかかるかとどきどきしながら歩いていると、

「皆川君、さっきの日本史どうだった?」

「まあまあかな。森野は?」

 後ろから彼と可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。思わず立ち止まりそうになったがこらえて歩き続けた。どうして女の子と親しげに話しているの?前は、女の子に興味なんてなかったじゃない。それともただ単におしゃべりしているだけ?高校では恋愛はしないんじゃなかったの?あれは私を傷つけないように振るための嘘だったの?森野さんって誰?どうして、どうして、どうして…。彼に対する疑問がたくさん浮かんでくる。本当は今すぐ、彼の胸ぐらをつかんで訊きたい。でも、私は彼の彼女ではないし、問い詰める資格はない。私は彼らの声を振り切るように早足に控室へと歩いた。

 講堂の前には先生方が待っていたが、私は悔しさと悲しみと動揺とたくさんの感情が混ざって混乱しており、先生のほうを見向きもせずに控室へと入った。

 控室の自分の席に座り、大きく深呼吸をした。その時、ふと違和感を感じて頬を触ってみると、少し濡れていた。そこで初めて自分が涙を流していることに気付いた。もしかすると、先生方は、クラスメイト達は、私が日本史の出来が悪くて泣いていると思っているかもしれない。それでも、誰も声をかけてこないことが今の私には心地よかった。

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