センター試験2日目 14:55
控室に戻ると、私は化学の反応式をいくつか確認し、トイレを済ませて受験会場へと向かった。残り2つの試験に向けて机の上を整理した。
第一解答科目の生物は、植物のホルモンや、ウニの発生についての問いなどが分からなかったが、ある程度解けた。最後の第二解答科目の化学は時間との戦いだ。計算の遅い私にとって化学は計算問題でどれだけ速く解けるかで決まる。私は最後の試験に向けて深呼吸した。
化学の試験は何とかすべての問題に答えられた。何ヵ所か暗記の問題で分からないところはあったが、まあ概ね解けたといってよいだろう。みんな最後の試験が終わって肩の力が抜けたのか、少し気だるい雰囲気の中会場を後にした。
「七瀬。」
またもや私が皆川君に声をかけた場所で、彼に声をかけられ、肩をつかまれた。以前と同じ懐かしい彼の声。
「何?皆川君。」
私は振り向きざま、彼の頬をひっぱたいた。彼の驚いた顔。周囲の人の驚き、そして面白がる表情。
「私はあなたに用はないわ。」
私はそう言い切ると、足早にその場を去った。後ろからはひそひそ話の声が聞こえてきた。
「ちょっと藍ちゃん。」
綾子ちゃんの声に軽く顔を傾けた。
「何?綾子ちゃん。」
私は不思議そうな顔を作って綾子ちゃんを見た。綾子ちゃんは悪戯っ子の子供を見るような表情で、私に言った。
「皆川君と何があったの?」
予想はしていた問いだった。
「何でもない。」
私はそう言い捨てた。
「そんなわけないでしょ。」
もちろん綾子ちゃんがそれで納得するはずもなく、そう詰問した。
「何でもないって言ったら何でもないの。」
私はそう強い調子で言い、綾子ちゃんを振り切って控室へと走った。綾子ちゃんは諦めたのか、私を追いかけてはこなかった。




