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約束  作者: 結美子
12/18

センター試験2日目 10:45

 会場では昨日と同じように机の上を整理した。

「藍ちゃん、皆川君見た?」

 真知ちゃんに隣から声をかけられた。

「え、あ、見てない。忘れてた。」

 何と言ってごまかそうか考えつつ、そう答えた。

「やっぱり。私さっき美城ちゃんに教えてもらってみたよ。」

 美紀ちゃんも真知ちゃんも即行動だもんなあ。これではいつまで逃げ切れることか。

「そっか。かっこいいでしょ。」

 私は、話題を微妙にそらせようとして言った。

「うーん、相変わらず藍ちゃんの趣味はちょっとわからないかなあ。」

 真知ちゃんに微妙な顔をされた。確かに私と真知ちゃんというか、私とその他の女子との間では趣味が違う。私があの先生かっこいいといえば、そうかなあと微妙な顔をされるし、他の子があの先生かっこいいといえば私はあまりかっこいいと思えない。そんなことがよくある。そういえば、中学時代、私が皆川君のことが好きだと知った綾子ちゃんと美城ちゃんもよく分からないといっていたな。

「そっか。まあ、また覚えてたら探してみる。」

 そう言って私は話を終わらせた。


 数学ⅠAの試験は、概ね解けた。得意の確率はいつも通りだったし、整数問題も最後まで解けた。データと必要条件十分条件のところは分からないところもあったけど、まあ、数点だろう。きっと90はあるはず。私は晴れ晴れとした顔でさっさと会場を後にした。3人は一緒に昼食をとると言っていた。私も誘われたが、私が一人のほうが落ち着けるからと言えば無理には誘ってこなかった。本当は皆川君のことを訊かれたくなかっただけなのだが。

「あの。」

 いきなり後ろから声をかけて肩をたたかれた。くしくもここは昨日私が皆川君に声をかけた場所。振り向かなくても誰に声をかけられたのかは分かっていた。何年も皆川君を思い続けていた私なのだ。たった2文字でも彼の声を聞き分けてしまう。もう一度話すチャンスかもしれない。でも、もう一度傷つく覚悟なんかできていなかった。もう一度誰なんて訊かれてしまったら、そうすればもう立ち直れなくなる。

「人違いです。」

 私は前を見たまま鋭くそう言い、逃げるように控室へと走った。声が涙声になっていないことを祈りながら。追いかけようとした彼は彼の友人たちに止められて足を止めたようだった。

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