センター試験2日目 07:50
今日も昨日と同じバス停でバスを降りた。
坂を上っていると、隣を車が走り去っていく。依然として雲が立ち込めて、あたりはまだ薄暗かった。
「おはようございます。鈴谷先生。」
「おお、おはよう。七瀬。はい、差し入れ。」
「ありがとうございます。」
今日は先生が生徒に飴の差し入れを渡していた。手の中の雨を見ると私の好きな桃味。今日の空模様に少し沈んでいた気分が浮上した。
「真知ちゃんおはよう。」
「藍ちゃん、おはよう。」
「隣、いい?」
「うん、いいよ。」
今日も真知ちゃんの隣に座った。コートを脱ぎ、座席にかけた。鞄とリュックを下ろし、リュックから化学の教科書を出した。最終確認だ。今日も皆川君のことが気になって集中できない。昨日はふわふわワクワクした明るい感じだったけれど、今日は、いじいじうじうじしてちょっと暗い感じ。
「はあ。」
思わずため息をつくと、
「藍ちゃん、ため息ついたら幸せ逃げるよ。」
いつの間にか隣に座っていた綾子ちゃんに注意された。
「はは、そうだよね。」
笑ってみたが、なぜか綾子ちゃんは真剣な目で私を見つめていた。
「藍ちゃん、何か私に隠してない?」
「隠してないよ。あれ、ちょっと昨日の試験について話したかっただけ。」
「そう。」
綾子ちゃんはまだちょっと疑わしいといった感じだったが、追及は終わった。終わった試験については話さないことと先生に幾度も言われてきたことだから綾子ちゃんも一応納得してくれたのだろう。まあ、試験について話したいっていうのもあったからまるきり嘘というわけでもないし。
私は昨日と同じように受験票などを準備した。皆川君からもらった手紙は、内ポケットから出そうと思ったが、なぜか入れていたいと思い、出せなかった。
「数学①を受験する皆さん、受験会場へ移動を開始してください。」
ちょうど準備が終わったときに。アナウンスが流れた。私たちは控室から受験会場へと移動を始めた。私は皆川君に会わないよう急いで控室を出て早足に会場へと向かった。彼に会わずに済んだ。




