腕と足
車の残骸からはい出て道路に仰向けになってから自分の体の異常に気付いた。
四肢の感覚が無かった理由もこれが原因だったのだろう。
腕と足があり得ない方向に曲がっていた。
「えっと、落ち着け。これは、何かの、何だ?」
落ち着いているつもりになっても向いてはいけない方向を向いている腕と足を見る度に混乱してしまう。
何が一番混乱するって、痛みが無いことに一番混乱している。
おかしいとしか言えない。
普通、よく考えなくても普通、こんな方向に向いたら痛いって誰でもわかる。
そもそもこんな方向を向いたら動かそうとしても動かないんじゃないか?
しかし、この腕と足を動かしてグシャグシャになった車から這い出てきたのは事実だ。
「あ、あれだ。アドレナリンが分泌されて一種の興奮状態によって痛みを感じていない」
いいや、それは無い。
いくらアドレナリンが分泌されたとしても限度がある。
どう見てもそんなものが通じるレベルじゃない。
ではどういうことだろうか?
「フフフ、わけ分からんね。考えても分からん」
考えても分からない。
そもそもこれで痛みを感じないなら好都合だ。
これで痛かったらきっと死ぬほど痛い。
とりあえず、痛くないなのはいいがこの足で歩けるのか?
いつまでも地面に転がっているのはあまりいい気分はしない。
「よっと」
立ち上がろうと道路に手をつく。
しかし、曲がった腕ではうまく体を起こすことができず倒れる。
もう一度道路に手をつく。
体を起こそうとするがまた倒れる。
立ち上がるのは難しい。
それから何度も立ち上がるために挑戦するが上手くいかない。
やはり変な方向に
曲がった腕では立ち上がれそうにない。
「くそう!せめてちゃんとした方向に曲がってくれれば!」
イライラして言ったその言葉である事を思いついた。
違う方向に曲がってしまったなら、元の方向に曲げなおせばいいではないか。
少し痛いかもしれない。
実際は無茶な考えだろう。
だが、全然痛みを感じていないなら案外うまくいくかもしれない。
腕を元の方向に曲げなおすために地面に腕を押し付けるように体をそらす。
体をねじるようにして腕を地面に押し付けて方向を元に戻せばいい。
「ふぅ、よし!」
少しだけ気合を入れて一気に地面に押し付けた腕に体重をかけながら体をねじる。
―――クギィ!―――
凄く嫌な音と感覚に痛みは無いが顔が歪んでしまう。
一呼吸おいて腕を見る。
「よし、上手くいったな」
腕がちゃんとした方向を向いていた。
ちゃんと指を動かしたり手を握ったりできる。
問題ない様だ。
「よし、反対側もだ」
片手が元に戻ったら反対の腕を元に戻すのは簡単だった。
元に戻った腕で曲がった腕を元の方向に引っ張ったら簡単に元に戻った。
そこまでやってからあり得ないことだと考えた。
「なんだか、映画かゲームみたいだな」
そう言いながら次は足を見る。
腕が曲げなおして元に戻るなら足だってそれでいいんじゃないか?
状態を起こして足に両手を伸ばす。
そして、力を入れて足を思いっきり曲げる。
「ふんっ!」
―――ゴギィ!―――
とても嫌な音がした。
痛みは無いが変な感覚がある。
しかし、足は問題なく動いた。
しばらくその場で腕を回したり足を動かして異常がないことを確認してから立ち上がる。
問題なく立ち上がれた。
「普通だったら吃驚人間コンテストで優勝だよな」
冗談のように聞こえるが、実際本当に出来るだろう。
そう考えながらとりあえず自宅に向かうことにした。