序 ~夢~
頭を鈍器で殴られたようだった。
意識がハッキリしない。
視界がグラつく。
それでもどこかで冷静な部分があった。
―――目的地は分からない―――
―――目的地は分からないが行かなければならないというのは分かる―――
―――だから歩き続ける―――
体が重い。
肩が重い。
腰が重い。
足が重い。
ただただ重い体で歩き続ける。
息が苦しい。
喉が渇いて張り付いたように痛い。
胸が痛い。
心臓が体の外に飛び出してきそうなほど痛い。
腹部が痛い。
肺がつぶされるように痛い。
それでも足が止まらない。
―――苦しくても足が止まらない―――
―――ただ歩き続けて行かなければならない―――
―――目的も分からず歩き続けることに何の疑いもない―――
気分が悪い。
吐きそうだ。
全部ぶちまけて楽になりたい。
なのにぶちまくことができない。
体も気分も最悪だ。
―――目的地が近づいてくる―――
―――何故か分からないが分かる―――
―――同時に少しずつ頭も冴えてくる―――
頭が冴えてきてある事に気づいた。
私は、何か大事なものを忘れてきたと気づいた。
しかし、その大事なものが分からない。
それは何だったのだろうか?
考えようとするとまた頭に霧がかかるように思考できなくなる。
―――全部が面倒だ―――
―――考えることが、いらない―――
―――今はただ、歩き続ければいい―――
思考するのを諦めて歩くことだけ考える。
それだけが苦しみから逃れる方法だと信じて。
しかし、それは正しいことではないとも感じていた。
苦しみから逃れる方法はきっと無いのだろう。
―――あぁ、到着する―――
―――そうしたら考えればいい―――
―――何を?考える?どうして?―――
何かを、大事なものを忘れないように考える必要がある。
どうして分かる?
分からないけど、考えないと大事なものが無くなる。
何が無くなる?
分からないけど、無くしたらいけない何かが無くなる。
それは、とても嫌だ。
―――ああ、大事なものが無くなる―――
―――それは嫌だな―――
―――大事なものは、失いたくないな―――
気づけば体が楽になっていく。
息が出来る。
体が軽い。
気分も悪くない。
そして、大事なものも無くしていない気がする。
忘れ物はもう無いだろう。
―――これなら、大丈夫そうだ―――
―――忘れていたものは全て見つかっただろう―――
―――きっとこれで大丈夫―――
―――根拠は無いけど、これなら大丈夫―――
―――大丈夫?何が?何に対して?―――
考えが結論にたどり着く前に意識は一気に奪われた。
結論にはたどり着けないままだ。