序 ~再生~
私の名前は田中、歳は21、職業フリーターだ。
高校を卒業して警備、ソーラーパネル設置、工場での塗工といくつか社員として働いた。
しかし、やりたかったわけじゃない。
自分のやりたい事を見つけるためにフリーターとして様々な仕事をすることに決めてから早数か月が経った頃の出来事だった。
その日は暑い日だった。
外に出れば蒸し暑く、室内にいても少し蒸し暑さがある。
仕事は休みでやることもなかった私は映画でも見ようとレンタル店に向かって歩いていた。
「あー、暑い」
一人でそう呟いた私は家から徒歩5分程度の場所にあるレンタル店に向かう。
ガソリン代はそれほど掛からないと言っても積み重なれば財布に痛い。
一種の節約の意味も合わせて近くには歩いていくようにしている。
たった5分程度の道のりでもあまりの暑さについ口から「暑い」という言葉が出てしまう。
しばらく歩いてレンタル店に到着した時、店内の涼しさは天国だった。
「涼しい~」
あまりの涼しさにやはり口から言葉が出てしまう。
涼しさを感じながら私はレンタルコーナーで映画を探すために移動する。
すると一人の店員が私に話しかけてきた。
「にぃに、今日休み?」
「え?ああ、うん」
話しかけてきたのは、このレンタル店で働いている私の従姉だった。
私より数か月先に生まれているはずなのに「にぃに」と呼んでくる。
確かに見た目だけなら私の方が背が高く兄のようだが、どうして「にぃに」と呼ばれているのかよく分からない。
「映画借りに来たの?」
「ああ」
「あまり面白そうなの入ってないけど」
新しい映画には確かに面白そうなものはなかった。
そもそも好きなジャンルの映画が全然ない。
「時間つぶし程度の暇つぶしだから」
過去に見た映画でも借りて見直そうと新作から旧作コーナーに移動しようとすると従姉がまた声をかけてきた。
その手には新作コーナーから持ってきたのか一本のDVDがあった。
「暇つぶしなら一つオススメがあるよ」
「オススメ?」
「そう、オススメ。店長一押し作品だからつまらないことは無いと思うよ」
どうやらいい暇つぶしになる映画らしい。
従姉から渡されたDVDを見る。
「・・・黒いな」
「うん、それタイトルがついてなくて」
「タイトルのない映画?」
「よく分からないけど、店長は一押しだって言ってたけど」
「そ、そうなんだ」
少しだけ警戒するが、どうせ暇つぶしだ。
つまらなくても映画は映画。
最低限は楽しめるだろうと思い、その黒いDVDを借りることにした。
新作ということだったが一週間借りれるらしく助かる。
「見終わったら感想聞かせてね」
「ああ、分かった」
新作DVD一本を持って自宅へ向かう。
また5分程、外の暑さに耐えなければならない。
自宅、それはマンションの一室だ。
部屋番号は204号室だ。
「ただいま」
誰もいないのについ「ただいま」と言ってしまう。
言う必要はないが、言わないよりも言った方がいいだろう。
すぐに借りてきたDVDを観る準備をする。
まず汗をかいたから軽くシャワーを浴びる。
次に部屋着に着替える。
炭酸のジュースとお菓子を用意する。
「うん、まぁ完璧だな」
腕組みして準備完了と頷いてDVDプレーヤーに借りてきた黒いDVDをセットする。
ソファーに腰かけDVDプレーヤーのリモコンの再生ボタンを押す。
入力待機画面から映像が切り替わる。
―――この時から私のフィクションは現実になったのだろう―――
―――いや、現実がフィクションになったのか?―――
―――もしかしたら今までが夢だったのかもしれない―――