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少女と絶望

「少女ー? ご飯は?」

「……………………………………………………………………………………いらない」


 とてつもなく長い沈黙の末、消え入りそうな声がドアの向こうから返ってくる。

 彼はため息を吐いて、少女の部屋から立ち去って行った。


 1月1日。

 これは一年に一度しか来ない。しかしそれは百回以上も繰り返された。

 それだけ、少女は世界を魔法でやり直した。


 一月が終わり、二月もそろそろ下旬に入る。

 雪解けと共に新たな花が咲き乱れ、春の到来を告げていた。

 しかし、少女はそのほとんどを自室のベッドの上で過ごした。


 『友人は戻らなかった』。結論を述べるなら、ただそれだけである。

 数千年も共にしてきた少女の胸には、穴が空いたように寒々としていた。

 どれだけ彼が少女に声をかけようとも、春のような暖かさは湧きあがらない。


 『別れは突然』なんて言うけれど。そんなことを考えたことがなかった。

 今、目の前で話していた大切な人が消えるなんてことが。

 そんなことが。


「……………………………………………………………………」


 少女は夜に何度も泣いた。

 自分という存在が、どこまで愚かだったのに気付いた。

 もっと話をすればよかった。

 彼の隣に真っ白なドレスを着て立つ少女の姿を見て欲しかった。


「………………………………………………」


 食事も喉を通らない。

 布団にくるまっても寒さが胸に渦巻いている。


「………………冥界図書館」


 スッと立ち上がる。

 友人は言った。冥界図書館に『  』の全てが書かれた書物があると。

 これを見れば、友人に出会える可能性が見えてくるかもしれない。


 そう思うと居ても立っても居られなくなった。

 少女は直ぐに死神化すると冥界を目指した。



 ☆ ☆ ☆ ☆





「どうしたの、朱火くん。思い詰めた顔をしてるよ?」

「あ、雪輪さん」


 僕が頬杖をついて窓の外をぼんやり眺めていると、雪輪さんが話しかけてきた。


「いや、ちょっとね。身内の事でいろいろと…………」

「あぁー、分かる! 私のところも、身内でゴタゴタがあって大変なのよ。奇遇ね」

「そうだね。僕も、妹がちょっと調子が悪いみたいで」

「んん? 待て待て、それは聞き逃せないぞ。あのお嬢さんのご機嫌を損ねるなど、変態紳士ロリコンの風上にも置けない奴だな! それでは真の変態紳士(ネオ・ロリコン)までの道は遠いぞ!?」

「うるせぇ、雨流。後、僕はロリコンじゃない」

「何々、朱火って妹がいたの?」


 そこに雨流と狭間が入ってくる。

 そうか、狭間はまだあった事が無かったのか。


「まぁね」

「あれこそ神に等しき美幼女! ゴスロリの似合う可愛らしいお方です」

「へぇ、もしかして髪の毛って金色だったりする?」


 あれ、知り合いだったんだ。


「勿論だとも! あれこそが――がッ!!!?」

「雨流うるさい」


 へぇ、と狭間は目を細めた。

 どうかしたのだろうか?


「いや、正月明けてからずっと部屋にこもっている出てこないんだ。理由を聞いても答えてくれないし。ご飯もあんあり食べてくれないし」

「それは心配ね。心当たりは無いのね?」

「うん。だから困ってるんだよ」

「また、朱火が何かやらかしたんじゃね? ほら、この前の――」

「雨流?」

「おっと、これは同士以外では話さない約束でしたな」

「じゃあさ、今日に家に行って良い? あの小さな娘でしょ?」

「そうだよ。別に良いけど」

「一緒に家に行って、遊ぼ?」

「あー、悪ぃ。俺、今日これからデートだわ」

「リア充め!」


 むかつくほどもてる狭間の申告に、変態紳士ロリコン一名マジギレ。


「じゃあ、来なきゃ良いじゃない」

「いや、それは駄目だ。明日にしてくれ、俺も行きたいから」

「おい、朱火が殺さんばかりのオーラを放ってるぞ!??」


 その矛先が自分に向いている事に気付いた狭間は慌てて反論する。


「たぶらかそうなんてしねーよ!? それならむしろ、雨流だろうが!」

「あ、きったねぇぞ狭間!! あ、ほら、こっちも睨みだしたじゃないか!」


 ワイワイガヤガヤ。


「そ、それよりも雪輪ちゃんのゴタゴタってなによ?」

「うちの巫女の一部が『神託を受けた』って騒いだだけよ。そんなことより、朱火くーん。狭間くんが手当たり次第に声をかけてきまーす」

「妹は良いけど、雪輪さんは良いよ」

「ええっ!!!」

「クソリア充共め!!」


 怒った表情で言い寄る雪輪さん、知らない振りして言い寄られる僕、毒を吐く雨流、それを見て笑う狭間。


 みんなのさり気ない気遣いが嬉しい。

 明日。少女は笑ってくれるだろうか?

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