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少女と嫌な日

 とても長らく続いたような気がする秋が終わりを告げて、肌寒い冬の季節がやってきた。

 しかし、秋を長いと感じられるのは犯魂の魔法を影響外にある者だけである。この事に関して、冥界の王・ハーデスから何度も苦言を貰っている少女だが、特に気にした風もない。

 少女が気になるのは彼の存在だけである。


 念願の、愛しの彼の家に住み込んで一緒に生活する事一ヶ月。

 新しい進展は何も無かった。


 彼は今頃、学校で巨乳女に捕まってるのかもしれない。

 そう思うと心がざわついていてもたってもいられないのだが、一度家を飛び出して彼の学校に行った事がある。

 その時は彼が少女をいち早く見つけて、帰るように命じ、家に彼が帰宅してから凄く怒られた。

 少女は出来る子だから、それ以来約束は守っている。


「少女。元気でやってるかしらーん?」

「あ」


 オレンジと白を中心に模様替えした少女の部屋に死神グリム・リッパーの友人が来た。

 真っ黒な髪を従えて虚空より現れる。友人は依然、家具選びで付き合って貰ったり、運ぶのを手伝ってくれた為に、こうやって家に誰もいないときには遊びにやってくるのだ。

 私の仕事も、だいたいこれぐらいの時間に済ませておく。


「まだ、何もしてないわよ……」

「あ、うん」


 サッとティッシュを引っ込めた。

 友人は苦笑しながら鎌を軽く掲げた。


「さて、行きましょうか」

「うん」


 少女も死神化して、手に冥界の鎌を具現化させる。

 そして、二人は大空へと向けて浮遊していった。




 ☆ ☆ ☆ ☆




「貴様、何者だ!?」

「逃げろーーッ!!」


 山奥にある研究施設のような場所。

 そこでは激しい激戦が繰り広げられていた。

 しかし、戦っているのは少女や友人ではない。人間と、人間だ。


 空中に座る少女と友人の真下を、黒ずくめの人間達が駆け抜けていく。その先は真っ白な服を着た男たちが逃げ惑っていた。

 一人の黒が白を喰らった。白い服は真っ赤な鮮血で汚れていく。

 そして、その体から浮かび出る魂。

 少女と友人はそれに近づいて、その魂を刈り取った。


「思ったよりも退屈ね。さっさと終わらせてくれないかしら?」


 友人のつまらなさそうな声に少し不愉快感を覚える。


「退屈ついでに、冥界にいない少女に最近の冥界での出来事を教えてあげましょうか?」

「お願い、します」


 友人はまた、空中に座って人差し指を頬に当てて考え事をし始めた。どうやら、何から話そうか迷っているようだ。


「そうね。最近、冥界に対する反逆者が増加している傾向にあるわ。一部では、地界や天界の代理人の姿もあるって言うし」


 「罪」と「悪」の代理人は、人界で悪魔と呼ばれる者。「心」と「善」の代理人は天使と呼ばれる者だ。天界と地界は常に戦争状態であるが、冥界に関しては不可侵だ。


 死神は「死」と「生」の代理人だ。つまり、敵対すれば「死」と「生」を操られる。

 どれだけ強大な力を持とうとも、寿命には逆らえないのだ。(『管理者』たるハーデス・ゼウス・サタンはその例外であるが)。


「私たちと敵対して、メリットなんて無い」


 そう答えられるのは他の生物とは一線を越える死神としての驕りか? 「死」と「生」の代理人である誇りか?


「そうね。まだハーデスも目的までは見定められていないもの。でも、実際に向こう側の組織に天使や悪魔の姿を見たって報告が絶えないのよ。ゼウスやサタンに追求しても、知らぬ存ぜぬだし。ただ、あの二神が嘘をつく必要が無いのは確かなのよね」


 実際、地界と天界の戦争の決着は付いていない。そこに、三大界の頂点ともいえる冥界が参戦すれば三つ巴なんて優しい展開にはならないだろう。死神側の一方的な虐殺。そして、この……少女がいるのだから。


 ふわりと浮かび上がってきた魂をまた、刈り取った。


「それに、少女を襲ったあの『ジャック・ランタン』と『ウィル・オー・ザ・ウィスプ』達。あいつが人界に自力で逃げ出す事は不可能。でもって、逃げ出したのならそのまま行方を眩ませればいいものの、わざわざ少女を襲いかかるなんてね」

「当て馬だった?」

「ハーデスはそう考えてる。ジャック・ランタンを連れ出した『何者か』は、逃げ出す協力するのを対価に『少女を殺せ』って言ってたのかもね。実際、数体程度ウィル・オー・ザ・ウィスプも逃げ出されたみたいだったし」


 今度浮かび上がってきたのは黒側の魂だった。それを冥界の鎌で刈り取った……その時だった。


「ん? この気配……」


 同じタイミングで、二人は眉を潜めた。


死神グリム・リッパー?」


 逃げ惑う白側から突如、死神化の力が発せられた。

 白い死神は鎌を振るい、決められた人間以外の黒を殺害し始めた。


「これは許されない越権行為だわ。直ぐに制圧しないと……って少女?」

「え、うん。分かった」


 一瞬だけぼんやりと、()()()()()()()()()()を想像した少女だが、直ぐに頭から消した。


「そこまでよ、貴方は規定されていない屍を築いたわ。これは冥界と他二界の協定を覆す越権行為よ。今すぐここで冥界送りにしてあげるわ!」

「なっ!? クソが、ついてねぇな。しかも、『化け物』もいるじゃねぇか!?」


 白の死神が慌てて鎌を構え直した。

 もちろん、ここにいる者には見えていない次元で私たちがいるのだが、白の死神は人界に留まったままだ。


「なんだコイツ!? やたら強いと思ったら、空中から鎌を出しやがったぞ!?」

「怯むな! 殺せ!」


 人間が白の死神に向かって襲いかかる。そいつらを鎌で一薙ぎして、壁に吹き飛ばした。

 一人、当たりどころが悪くて死んでしまう。少女は慌ててその魂の回収に向かった。


「これ以上の死ぬはずのない者を殺すのはやめなさい!」


 友人が鎌を振り回して白の死神を襲う。


「はぁ!? なーにが、『死ぬはずのない者』だ!!」


 ふざけた口調の白の死神がつばぜり合いをしていた友人の腹を蹴り飛ばした。


「あ、ぐっ!?」

「はははははは!!! どうした、どうした!? 冥界ってのは『少女』がいなけりゃ、貧弱揃いか!?」


 あからさまな挑発に友人が顔をしかめる。

 友人も決して弱い訳ではない。ただ、白の死神の方が上手なだけ。


「うらうらうらうらうら!!!!!」

「た、待避! ここは回り道して、他の場所を制圧するぞ!」


 少女は現れる魂を刈り取るのに必死で、白の死神の横暴を止める事が出来ない。

 いくら冥界で最強と呼ばれようとも、少女は一人で、手は二本しかないのだ。


「はっ!!」


 なんとか持ち直した友人が白の死神に切り込む。それを軽くいなそうとした白の死神は……それを無視して、黒を殺した。

 ザシュッと音が聞こえて、白の死神が膝を付く。


「まさか、貴方は反逆組織の一員?」

「あー、そういや最近、そんなのが出来たんだっけか?」


 膝をついてもなお獰猛な瞳は失わず、真下から友人を睨みつけている。


「残念、違うな。俺は、俺の力を、俺のために使ったまで」

「何をバカな事を?! ただの自己満足で人間を殺したとでもいうの!!!」


 怒りを露わに怒鳴る友人。しかし、それすらも白の死神ははねのけた。


「何を正義面してやがんだ死神!! 死神は「死」の代理人だけじゃねーだろ!! 人間をかどわかすと言われる悪魔も! 人間を守ると言われる天使も! 人界などそっちのけで自分の為に戦争を起こして、挙げ句人界も巻き込んだ戦争なんぞにまで手を出しやがる!」

「それは人界と地界、天界の話でしょう!? 冥界は関係無いじゃない!!」


 そう。

 そう、言い切った直後。白の死神は表情を失った。


「はは、なるほど。やっぱり死神ってのはこんな奴らばかりなんだな。反逆したくなる気持ちも分かるわ」


 そう言って、膝を付く白の死神に黒の人間が襲いかかった。それを白の死神が殺す。もちろん、規定されいない人間だ。


「これ以上の横暴は許さないわ! 冥界送りにして……!」


 そう言い掛けた直後、白の死神は口から血を吹いて倒れた。

 最後の盾を失った白の人間は黒の人間に犯されていく。



 そして、研究施設は血に染まった。



 ☆ ☆ ☆ ☆




 友人と別れて、自宅に戻る。

 白の死神の戦闘があったために、少し遅くなってしまった。早く、彼に会いたい。


 そうやって帰ってきたのだが。


「あら? 今日は朱火くんは笹船さんの家にお邪魔してるわよ」


 彼の母にそう言われて、脱力する。

 今日は、何となく彼に甘えたい気分だったのに。



 甘えて、何もかも忘れたい気分だったのに。


 今日は、ちょっぴり嫌な日だった。

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