07
いつものように崖を飛び降り、いつものようにポーションを飲み、バンテージを巻く。
いつものように崖を登ろうとした所で、ぴろん♪という電子音。
「ん? 何だ?」
ステータスウィンドウを開いてみると、ポーションとバンテージのLvがMAXになっていた。
覚えたスキルは2つ。
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ポーションの心得:
飲んだポーションのレシピが分かる
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バンテージの心得:
巻いたバンテージのレシピが分かる
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となっている。つまりは利きポーションと利きバンテージか。
材料当てとか、ゲーム終盤では重宝しそうだな。
そして、バンテージLvがMAXになった事で、もうバンテージの回復時間を待つ必要が無くなった。
浴びるようにポーションを飲んで、HPを全快させたら飛び降りれば良いのだ。
というか、最早落下耐性Lvも99になっている。崖から飛び降りても削られるHPは2割程度だ。
「もうポーションがぶ飲みする意味も無いかー」
呟きつつ、崖を登り始める。スルスルと登る内、楽しくなって鼻歌を口ずさむ。
ぴろん♪という電子音。
見る間でもなく「歌」習得だろうが、「歌」ってどんなスキルなんだ? と疑問に思ったのでステータス確認。
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歌:
歌う事によって様々なバフ・デバフを付与する
威力小
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吟遊詩人の「歌唱」の下位互換って所か。全クラス使える弱・状態変化系ね。
しかも歌Lv1だと具体的にバフかける歌は覚えないという仕様らしい。
もう少しLv上げないと駄目かー、と嘆息。鼻歌を継続する。
そうして崖の天辺まで登り。
「多分……これで俺はお前を超えられるだろう」
予感を胸に、両手を広げてゆっくりと倒れこむように落下。
落下中にふと思い立って頭から落ちてみる事にする。
ぐしゃり。
【クリティカル!】
という文字が頭の中を瞬いた。足で着地した時の2倍はダメージがある。
しかし、俺の頭の中にはぴろん♪という電子音。
「落下耐性がMAXになったか……」
ステータスを確認するも、特に新たなスキルは獲得していない。
がっかりしつつも、一応落下耐性の説明文を確認する。
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落下耐性(MAX):
落下によるダメージを減衰させる
100m以下の落下ダメージ無効
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……マジか?
思わず説明文を二度見する。というか、説明文ってLv上がる毎に変化していくのを今知ったぞ。
まぁまぁ落ち着こう。HAHAHA、と外人笑いをして落ち着きを取り戻す俺。
「試せば分かる」
呟き、再度崖を登る。先ほどの倍以上の速さで崖を登ると、ポーションをがぶ飲みし、HPを全快させる。
「HPゲージ良し」
HPゲージを指差し確認し、全快である事を確認。
そして、飛び降りる。
すたっ。
「……ぉぉ? お、おぉぉぉ!?」
俺の口から妙な声が出る。
いつもとは、まず効果音からして違う。肉がひしゃげ骨が砕ける音がしなかった。
俺の五体は満足です。
そして、HPゲージを見る。
「……1mmたりとも減ってない」
眼前のHPゲージは満タンのまま、1ミクロンだって減っちゃいない。
それはつまり。
「遂に……。遂に、俺はお前を克服したぞ!! 真の意味でなぁ!! はーっはっはぁ!!」
崖に指を突きつけ、哄笑する。
やった。遂にやり遂げたのだ。
俺は、この忌々しい崖を完膚なきまでに克服したのだ。
「はっはっは……」
哄笑が、段々と小さくなる。
冷静になってしまった。なるべきじゃない、冷静になってしまったのだ俺は。
ついついアドレナリンの指し示すまま、胸の高鳴りの思し召しで崖に挑戦し続け1週間ほど。
「……俺は何をやってるんだ?」
手に入れた物:プライスレス
◆◇◆◇◆
「まぁ、楽しめたんだし良いか!」
からりと気持ちを切り替えて次の楽しみを見つけようと村をぶらついている。
思えば、俺はシーフなのにmob狩りを殆どしていない。短剣Lv5だし。
「そろそろmob狩りでもしますかねー」
ひとりごち、村にある道場を目指す。そこに居るスキル商人に会う為に。
スキルの値段的に、ポーションとバンテージをそれぞれ10個残して売り払っとこう。
道場は、木造のこじんまりとしたものだった。門下生らしき子供のNPCがみんなで正拳突きなどをしている。
「はっはっは! 入門希望者かね?」
「いえ、スキル買いに来ました」
そう答えるとそのNPCは明らかに落胆したようだった。
「そうか……。入門希望じゃない、か……」
がっくりと肩を落とし、ぶつぶつと何かを呟き始めるNPCをよそに、俺の目の前には購入ウィンドウが表示される。
ズラーッと表示されるスキル一覧の中から、お目当ての「ジャンプ」「ステップ」「ダッシュ」を探し、購入チェック。お値段はそれぞれ500G。
購入ボタンを押す前に、ラインナップをもう少し見ていく事にした。
「へぇ。魔法系もここで買えるのか」
魔法系統は門外漢だったが、初期クラスで魔術師を選ばなかった場合は、ここで救済があるようだ。
ここで買わなかった場合、杖を持って神殿で数時間瞑想しなければならないと掲示板で見た。
「取り敢えずはシーフを極めるかなぁ。回復魔法は取っておいても良いだろうけど」
と、ここでプレイ開始前に見た公式HPの情報を思い出した。
公式HPは驚くほど情報が少なく、初期選択クラスとその特徴、スキル説明しかなかった。
しかしその中の上位クラス説明の所で、確かシーフの上位クラス、アサシンの前提スキルに言及があった筈だ。
「えーっと……。確か隠蔽と歩法だったかな」
アサシンは短剣Lv30と、探知・鑑定・隠蔽・歩法がそれぞれLv20必要だった筈だ。
探知・鑑定は採取の時に余裕で上回っているが、隠蔽・歩法については習得すらしていない。
名前からして隠れたり忍び足したりしてる内に習得するんだろうが……。
「面倒だし買っちまうか」
即決即断して、隠蔽と歩法にも購入チェックをつけ、(お値段はどちらも2500G)ウィンドウ下部にある購入ボタンを押す。
おぉぅ、残金が4桁切った。先に余剰ポーションとか売っといて良かった。
スキル商人NPCは未だに暗い顔でぶつぶつと何事か呟き続けていたが、購入自体は無事出来たので無視して踵を返す。
さて、mob狩りに行くかー。っと、その前にスキル習得せねば。
アイテムボックス内には購入したてのスキルスクロールが入っている。
それをぽんぽんとタップしていき、スキルを習得する。
ついでにそれぞれの説明文も読んでおいた。
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ジャンプ:
ジャンプ力に補正がかかる
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ステップ:
ステップの際、より機敏に動ける
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ダッシュ:
走る速度に補正がかかる
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隠蔽:
気配を消す
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歩法:
特殊な足運び
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隠蔽と歩法は、Lv1からアクティブスキルを覚えられるようで、それぞれ
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ハイディング:
モンスターに発見され辛くなる
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忍び足:
足音が消える
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といった具合になっている。ゲームの定番として、隠蔽はそのうち姿も消せそうだなー。
歩法とかも、色々種類がありそうでワクワクしてくる。
さて、ではそろそろ――狩りの時間だ。
次回からmob狩り・他プレイヤーとの交流を予定しています。