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05

気が付いたらmob狩りもせずに崖を飛び降りる主人公に。

どうしてこうなった。

 色々と回り道をしたが、今俺の目の前にはあの崖がある。

 3分の1位の高さまでは克服した崖だ。逆に言えば、


「減速しながらなら――耐えられる!」


 という事だ。

 叫び、俺は崖に身を投じる。そして、崖を蹴り、離され過ぎないように手を添え、崖を滑り降りるように落下していく。

 ガリガリゴリゴリと手足が削れる錯覚を得るが、気にしない。

 内臓が持ち上がるような浮遊感を楽しみ――


 ぐしゃり。私は――――――死んでない!


 HPは残り1割を切って真っ赤に染まっているが、それでも0にはなっていない。

 足は有り得ない方向に曲がっているが、もう見慣れているので適当にバンテージを巻く。

 そしてポーションを一気飲み。

 バンテージの効果でじわじわ回復していくHPゲージを見ながら、ポーションをもう一瓶呷る。

 と、そこでふと気付いた。


「あれ? 俺、HP上がってね?」


 この『久遠の幻想』において、全てのステータスは可視化されていない。

 STR、VIT、AGI、INT、MND、DEX、LUKが有るには有る。

 だが種族特性以外でそれらを上げるには、装備補正か所持スキル補正しかない。

 現在の値がいくつかを知る術はプレイヤー自身にも無いのだ。「鑑定」の上位スキルあたりで見れるのでは? ともっぱらの噂だが。

 そしてHP、MPについてはバーが有るだけで数値という概念そのものが無い。

 その筈だが……


「ひょっとして、HPにもスキルと同じで熟練度的な物が有る……のか?」


以前ひたすら飛び降りてた時には微量ずつ過ぎて気付かなかったのだろうが、初めてバンテージを巻いた時に比べて、回復量が明らかに少ない。

使っているバンテージは同じなのだから、回復量が少なくなっているという事は無いだろう。店売りと合成で差が出る事もあるまい。

という事は、相対的に回復量が少なく見える――要するに俺のHPが増えているという事になる。


「ふむ。攻撃力と防御力すら隠されてるこのゲームだと、PvPとかやったら見世物にはなりそうだな」


『何だあいつ、初期装備なのに異様に硬いぞ!?』

『実はあれ、初期装備と同じ見た目の凄い装備なのか……!?』


 みたいな感じで。それはそれで面白いかもしれないな。『久遠の幻想』に今のところPvPは実装されてないけど。


「と、馬鹿なこと考えてる間に回復したか。それじゃ、登りますかねー」


 HPバーが全快した事を確認し、俺は崖に向き合う。

 出っ張りの位置なんてもう覚えきった。目を瞑っていても登れるわ!


「よっこらせ、っと……」


 ひょいひょいと、軽快に登っていく。確か前回の限界は崖の中腹辺り、15m付近だった筈……。

 目測でこの崖は20mほどの地点を目標とし、えっほえっほと登っていく。

 そして、そろそろ飛び降りようかと思った時、ぴろん♪という電子音が聞こえた。


「ん? 何だ?」


ステータスを開くと、新しいスキル「素登り」が増えていた。


―――――――――――――――――

素登り:

 素手で何かをよじ登る際、STR・AGI・DEX上昇

―――――――――――――――――


 STRは体を支える力、AGIは登る速さ、DEXは出っ張りに上手く手足をひっかけるのに重要だ。

 パラメータ補正が明記されたスキルを入手するのは初めてだ。

 これはスキル補正値に期待が持てる。

 『久遠の幻想』では、パラメータ的なスキルでもアクティブスキルでもパッシブスキルでも、スキルを所持しているだけでパラメータに補正が入るのだ。

 説明文に明記されてる以上、恐らくは非発動時でも補正は入る筈。

 入らなかったらネタスキル過ぎるからな!


 しかし今の俺にはネタスキルでも有用すぎる。スキルを取得した瞬間から目に見えて登るのが楽になってるし。

 まぁ、すぐ飛び降りるんだが。


「そぉーれぇー」


 パッ、と、四肢に力を込めて今までひっついていた崖を突っぱねる。

 重力に捕われ、自由落下を始める俺の体。

 数秒間の心地よい浮遊感を味わった後、ぐしゃりと着地する。

 そして、またバンテージとポーションを使用する。

 登り、飛び降りる。登り、飛び降りる。登り、飛び降りる。


 もしこの場に誰かが居たなら、俺の正気を疑った事だろう。

 俺も正気だったなら、俺の頭を疑った。

 だが残念な事に、今の俺は正気じゃなかったりする。



   ◆◇◆◇◆


「くく……。くはは……。はぁーっはっはぁー!!」


 溜まらず高笑いが出てしまう。

 今、俺は崖の底に居る。HPは1割を切った。しかし、生きている。重要なのでもう一度。生きている。


「崖よ、俺は克服したぞ!!」


 バンテージを巻きながら、ポーションを飲みながら崖に向かって指を突きつけ、きっぱりと言う。

 そう。俺はついにやったのだ。

 崖のてっぺんから華麗に大分し、死なずに着地したのだ。


「HAHAHAHAHA!!」


 今、俺のテンションはMAXだ。脳内麻薬ドバドバ垂れ流し。

 しかし、ふとバンテージを巻く手を止める。


「これで、勝ったと言えるのか……?」


 俺の目に映るのは、ひしゃげた足。バンテージとポーションの効果でみるみるうちに治っていく足。


「これが、着地した、と言えるのか……?」


 自問自答。答えは直ぐに出た。


「いや、言えない! こんなボロボロの体で崖を克服したなんておこがましい!」


 ガバッと立ち上がる。足はもう治った。HPも全快している。


「ノーダメで着地してやんよ!!」


 俺は目に闘志の炎を燃え滾らせ、崖を再び登り始めた。

 スキル「素登り」を持っているおかげで、スルスルと崖のてっぺんまで辿り付くのにそう時間はかからなかった。


「I CAN FLLLLLLYYYYYYY!!!! YEAHHHHHHH!!!」


 そして、無駄に後方宙返りを決めつつ崖を飛び降りる。

 落下中は手足を縮め、くるくると回る。

 そして地面が近づいた時、四肢を広げ、足を地面に向け、


 ぐしゃり。






■現在のステータス

―――――――――――――――――

名前 :ナオキ

クラス:シーフ

スキル:短剣Lv5

    探知Lv56

    鑑定Lv56

    落下耐性Lv98

    ポーションLv95

    バンテージLv95

    合成LvMAX

    採取LvMAX

    ―――――

    バックスタブ

    採取術

    ―――――

    合成の心得

    素登り

    ―――――

    暗殺の極意

―――――――――――――――――

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