04
すぐさま崖に向かおうとした俺だったが、ふと思い立って足を止めた。
そういえば落下耐性ばかりに気を取られていたが、俺には他のスキルも備わっているんだ。
試しに「探知」を発動させてみる。すると目の前に薄い幕かかったようになり、そこに黄色い菱形が沢山表示される。
菱形の下には「羊」「15m」と表示されているから、恐らくはmobの位置を表しているんだろう。
広い草原で手当たり次第に狩る分には必要性は感じないが、視界の悪い所での狩りや擬態するmobなんかを相手にするときには役立ちそうだ。
こういったスキルは低Lv時は役立たずに思えても、後々効いてくるものが多い。今のうちから上げとくべきだろうか?
そして、次に適当にその辺に生えてた草を摘み、「鑑定」を発動させる。
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雑草:
どこにでも生えている雑草
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と出た。試しにもう何枚か草を摘み、「鑑定」を発動。
結果、殆どは雑草だったが一枚だけ薬草が混じっていた。
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薬草:
そのまま使ってもHPが回復する。
ポーションの原料にもなる。
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ポーションの原料!
これで出費を減らせるかもしれん!
俺は崖に挑む為の準備期間を延ばす事を心に決める。
◆◇◆◇◆
辺りを散策しながら、「鑑定」「探知」を複合発動させる。
「探知」は対象を選択しないで発動させるとデフォルトのmob探知になるようだが、「鑑定」と組み合わせて発動するとまた違った結果となる事が分かった。
要するに、「薬草」を探したい、と念じながら「探知」を発動させると「薬草」の場所が探知されるのだ。
本来mob、NPC、PC、位しかない「探知」の対象を「鑑定」を噛ませる事で広げてやる、応用技だ。
俺がこれに気づいたのは全くの偶然で、まず、辺り一面の雑草・薬草ごちゃ混ぜな事にイラつき、手に取らずに「鑑定」したのが始まりだ。
手に取らずに「鑑定」が出来た俺は、次に何処にあるかをいちいち探るのが面倒で「探知」も同時に発動していた、という訳だ。
必要は発明の母。これは運営の想定内の使い方なのだろうが、便利な事この上ない。
何せ薬草の場所が辺りをぐるり見渡すだけで手に取るように分かるのだ。
俺は喜び勇んで薬草を採取していった。
数十分経ち、薬草のリポップ待ちが嫌でふらふら彷徨いながら採取していた時。俺はそれを見つけた。
視界を埋め尽くすような菱形の群れ。即ち、薬草の群生地。
俺は喜色満面、その只中に突っ込んでいき、ぶっちぶっちと辺りの薬草をちぎってはアイテムボックスへ、ちぎってはアイテムボックスへ。
そうして乱舞している内に、ぴろん♪という電子音が聞こえた。
何かと思いステータスを表示してみると、
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名前 :ナオキ
クラス:シーフ
スキル:短剣Lv5
探知Lv14
鑑定Lv14
落下耐性Lv23
ポーションLv37
バンテージLv37
合成Lv12
採取LvMAX
―――――
バックスタブ
採取術
―――――
暗殺の極意
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見慣れない文字が二つも増えていた。
「採取」はまだ分かる。自動取得されたものだろう。それが、MAXになってなにかアクティブスキルを身につけたという事か。
「採取術」に視点をフォーカスし、念じる。すると現れる「採取術」の説明ウィンドウ。
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採取術:
半径5m以内の指定した採取可能物を採取する
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「おぉぉー」
俺の口から思わず嘆声が上がる。コレは採取の効率が上がる事間違いなし。
早速俺は薬草の群生地の真っ只中へ赴き、「採取術」を発動させる。
念じるだけで良いのは重々承知の上だが、何となく発声を伴った方が楽なので俺は発声発動を好むのだ。
「採取術 対象:薬草」
そう発声すると同時。辺り一面が光に包まれた。
よくよく見てみると、辺りの薬草の一本一本が光り輝いている。
俺の半径5mにある薬草全てに影響は出ているらしく、蛍火のようなものを立ち上らせる薬草に囲まれるというのは、幻想的な光景だった。
「こいつぁ、綺麗だな……」
その呟きがトリガーとなったのか。光っていた薬草は、一瞬の内に掻き消えた。後に残るのは少々の雑草と土のみ。
「ふむ? という事は」
俺はアイテムボックスを開き、中を確認する。
中には薬草が152枚入っていた。
手作業で取っていたのが確か100枚くらいだったから、50枚ほど収穫できた事になる。
「これは楽だな」
ひとりごち、「鑑定」「探知」を発動させ、薬草のマーカーを表示させるとそちらへ赴き、歩きながら「採取術」発動。
自動的にアイテムボックスに入る薬草。
何だか楽しくなってきた。
「うひゃひゃひゃひゃー」
思わず奇妙な笑い声を上げながら、駆ける。森の中を縦横無尽に駆けずり回る。
俺の後には薬草は残らない。半径5mというのは意外と広い。薬草は群生地でも無ければそこまで密集していないからだ。
森の中を薬草のマーカーを頼りに走り回り、端から端へ行った頃には最初に収穫した薬草はリポップしている。
螺旋を描くように、円を描くように、8の字を描くように森の中を走り回る俺。端から見たら不審者丸出しだ。
所々にある倒木はジャンプで交わし、ノンアクティブな兎に遭遇してもステップで避けて無視。
ひたすらひたすら、走る。駆ける。疾駆する。
◆◇◆◇◆
「はぁ……。はぁ……。少し、冷静になろうか」
VRMMOとはいえ、走り回っていればそのうち疲労が溜まる。
スタミナ値が明確に設定されてはいない『久遠の幻想』においても、精神疲労は溜まるのだ。
俺は出てもいない汗を拭う動作をすると、深呼吸して頭を落ち着かせる。
どうも俺は熱くなると周りが見えなくなるというか……見境が無くなる。
「さて、薬草はどれだけ集まったかねーっと」
アイテムボックスを開き、薬草を目で探す。
薬草はすぐに見つかった。なにせ、自己主張が強かった。
99個スタック出来るアイテムボックスの中で、スロットを6つも占領しているのだから。
「……568枚、か」
やりすぎた。明らかにやりすぎている。
まぁ、反省も後悔もしないがな!
「では、さっそく合成しますかねー」
俺は両手に手袋を嵌め、レシピを呼び出す。レシピには「初級ポーション:薬草2枚」と記載されている。
「ん?そういえば」
レシピを眺めてふと気付く。そういえば、レシピの数がやけに少ない。
・初級バンテージ
・初級ポーション
・木の矢
・研磨(耐久値回復)
・石つぶて
の5個しかない。
「これはサービスレシピって訳か。レシピ屋とかドロップとかあるのかな?」
まぁ俺は合成を主体にする生産職になるつもりは無いからあまり興味は無いけど。
「それはそれとして、合成っと」
手袋の上から実体化させた薬草を両手に持ち、手を拝むように合わせる。
発光が終わって手を開くと、そこには赤い液体が入った小瓶。
「瓶とコルクは何処から……。いや、言うまい」
言って運営が合成素材を変更でもしたら面倒だ。「空き瓶」が必要なVRMMOも実在するしな。
「で、お次は自動合成っと」
合成タブを開き、手袋を納め、薬草を全て突っ込んで「全て合成」を押す。
何の感慨もなく数秒後には薬草は全て消え、代わりにアイテムボックスにはポーションと燃えるゴミが。
加えて、ぴろん♪という電子音
「ポーション267個と、燃えるゴミ17個か。成功率90%超って所かね?」
初級にしては上々な確率だろう。そして電子音を確認する為ステータスを開く。
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名前 :ナオキ
クラス:シーフ
スキル:短剣Lv5
探知Lv56
鑑定Lv56
落下耐性Lv23
ポーションLv37
バンテージLv37
合成LvMAX
採取LvMAX
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バックスタブ
採取術
―――――
合成の心得
―――――
暗殺の極意
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合成の心得:
合成時の成功率が基礎値の2倍となる
燃えるゴミを、錬金なしで再利用可能
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との事。枠が違うって事はこれはパッシブスキルか。
錬金なしで再利用、ってのが良く分からんが……。取り敢えず試してみるか。
手袋を再度嵌め直し、「燃えるゴミ」を一つ手に取る。すると、目の前に広がるウィンドウ。
そこには「初級ポーション」「初級バンテージ」の文字が。
これはひょっとして……。
俺は恐る恐る「初級バンテージ」を選択する。すると光りだす「燃えるゴミ」。
手を合わせると、発光が始まる。そして光が収まった時に現れたのは――。
「初級バンテージ……だと……」
これは何というか、凄いスキルだろう。「合成の心得」が有れば、失敗率がそもそも少ないのに、失敗してもやり直せるのだ。
生産職人から「燃えるゴミ」を買い取って、何か有用な物にするという錬金術も使えるのでは……!
レシピについてちょっと真面目に調べてみても良いかもしれない。
最後にナオキ自身がステータス見てるので、舌の根も乾かぬ内に「現在のステータス」割愛。