02
羊との戦闘を終え、ドロップアイテムをアイテムボックスに放り込んで直ぐ。
俺はステータスを開いていた。
というのも、羊との戦闘中にぴろ~んという電子音が聞こえていたからだ。
Lvが上がるには早すぎると思うのだが……。
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名前 :ナオキ
クラス:シーフ
スキル:短剣Lv1
探知Lv1
鑑定Lv1
落下耐性Lv1
バックスタブ
暗殺の極意
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果たして、ステータスウィンドウには見慣れぬ文字が増えていた。
一応短剣の経験値バーも伸びているのだがそれはさておき。
落下耐性というと、羊に掬い上げられて転がったあの時に身に付いたと考えるべきか。
「落下耐性」に意識を集中させる。
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落下耐性:
落下によるダメージを減衰させる
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説明文が簡潔過ぎる。が、こうとしか言えないだろう。
減衰率がどの程度のものかは分からないが、試しにどこかから飛び降りてみようか。
辺りをキョロキョロと見回すと、おあつらえ向きに数キロ先に崖があった。
そこまでダッシュする。
ひたすら走る。走る。走る。
そして、その勢いを保ったまま――
「うっひょぉぉぉ~い」
崖を飛び降りる。
ぐしゃり。私は死んだ。
◆◇◆◇◆
「さて、冷静になろうか」
目の前が真っ赤に染まった状態で蘇生した俺。HPは1しか残ってない。
見上げると、遥か彼方に俺が飛び降りた崖っぷちがある。
ステータスを確認してみるも、落下耐性の経験値バーは増えていない。
恐らく死んでしまうと無効なんだろう。
となると……しなない程度の高さから飛び降りる必要がある訳か。
考えつつ、アイテムボックスから最初から持っていたバンテージ、ポーションを取り出す。
どちらも回復系のアイテムだが、バンテージが時間回復、ポーションが瞬間回復となっている。
回復量はバンテージのが上なので、時間的余裕で使い分けるのだろう。
ちなみに正式名称は「初級バンテージ」「初級HPポーション」だ。
適当に左腕辺りにぐるぐるとバンテージを巻くと、すぅっと肌に吸い込まれてバンテージが消える。
代わりに俺の視界左上にあるHPバーの下に包帯マークのアイコンが点き、HPが徐々に回復していく。
続けてポーションの瓶を飲み干す。若干甘い風味もあるが薬臭かった。
そして、この行動でまたぴろ~んという電子音。
ステータスを確認すると、「バンテージLv1」「ポーションLv1」が増えていた。効果はどちらも回復量アップ。
「ふむ……。という事は、高所から飛び降りてバンテージとポーションを飲めば、効率よく3つスキルが上げられるな」
落下耐性が果たして何の役に立つのか、という事は既に俺の頭の中から消失していた。
俺の心には火が点いてしまっていたのだ。
上を見上げ、崖っぷちを睨み付けて宣言する。
「いつか無傷で飛び降りてやるからな!」
◆◇◆◇◆
そこからの俺の行動は、傍から見たら異常だっただろう。
まずは初期所持ゴールドを全て使い、初級HPポーションと初級バンテージをありったけ買い込む。
そして、崖の下まで一旦死にながら落ちると、一度座ってHPを全快させ、崖をよじ登る。
ある程度登ったらおもむろに飛び降りる。
着地し、変な方向に曲がった足にバンテージを巻き、ポーションを飲み干す。
そして、HPが全快したらまた登る。
それをひたすら繰り返した。
ポーションとバンテージが無くなるまで、ひたすら。何時間も。
ポーションもバンテージも無くなる頃には、崖の3分の1くらいまでは落下しても耐えられるようになった。
高さで行ったら3階建ての建物くらいだろうか? 恐らくは15m位。
ポーションもバンテージも無くなり、金も無い。このままでは落下耐性を鍛えるのの続行は無理だ。
となると……
「羊狩って金貯めてポーション買うか? いや、まてよ……」
それよりも効率的な方法がある。
薬草を採取して自分でポーションを調合してしまえば良いのだ。
調合スキルも採取スキルも上がるし、(採取にスキルが有ればだが)一石二鳥だろう。
「あ、バンテージどうしよ……」
羊毛から調合出来ないかな? それに俺は今無一文だ。
調合セットを買うだけの金も無ければ、ポーションのレシピを買うだけの金も無い。
「結局は羊狩るしか無いか……」
結局俺は消極的な理由でもって羊を狩りに草原へ戻るのだった。