ひきこもり×テレビ
「……帯じゃま」
「アナログだからしゃあないやん」
「どうして大阪弁?」
日本のどこか、大阪かもしれないし北海道かもしれないし、沖縄かもしれないし、津軽かもわがんね。
とある家のとある部屋には二人のひきこもりがいた。
一人は男で、名を水澤かなたという。普段、顔を覆うまで伸びた髪は、最近床屋に行ったため今は短くなっている。
もう一人は女で、名を相原みずきという。漆黒の艶のある髪は滝のように膝下まで伸びており、今は一つに束ねられ長いポニーテールになっている。
二人は幼なじみという関係で、家も隣通しのため、互いに部屋をよく行き来したりする。今はかなたの部屋に居り、カーテンを閉め切られ、電気も点けておらず、テレビの光だけが二人を不気味に照らしていた。
14型のブラウン管テレビは、地デジ化推進の為、上下に黒い帯が出ており無理矢理16:9の画面比にされている。その所為でただでさえ小さな画面が更に圧迫されてしまっていた。(この話は2010年秋に書いた)
テレビではクイズ番組が映っている。
「かけら」
『欠片』の読み方を出題され、淡々とみずきは答える。実につまらなそうに。
「そういや、昔、コレ“けっぺん”て読んでたな」
かなたは自らの恥ずかしい間違いを晒す。作者の話ではないんだからねっ!
テレビでは、その読み方をまるでワザと間違えてると思えるくらいの、おかしな答えをしてタレント達が爆笑している。
「バカブームも中々無くならないよね」
「飽きさせないように、次々と新しいの出てきてるからな、元木とか」
「モ○娘。みたいな感じ?」
「まあ、そうかもな」
「それにしても、バカすぎ。私でも分かる問題なのに。高校出てるのに」
「ボケる役割があるんだろ。キチンと答えるクイズ番組は他にいくらでもあるわけだし」
「ん。でもつまらないね」
「そうだな」
かなたがチャンネルを変えると、音楽番組が放送していた。
「48人って多すぎるよね」
テレビでは司会者の横にズラリとアイドルグループが整然と並び、着々と人気が出て、今日初めて音楽番組デビューを果たしたバンドが画面外に押しやられている。
「とにかく人数多ければ、どれかが好みに当てはまって、ファンを獲得できるってことだろ」
「かなたはメンバー分かる?」
「いや。まあ、数人は……だが、前田とか篠田とか、カープかと思ったね」
「興味ないと全く覚えれないものだしね。格ゲーのキャラ名とコマンドなら48人以上覚えれるけど」
「俺も、初代ポ○モンの名前なら今でも言えるんだがな」
「でも、よく人気出るよね。曲だって秋○康が作詞した、ウケるような歌詞並べただけなのに」
「それが世の中の流れなんじゃないのか。以前は秋葉系がファン層だったみたいだが、今は一般にも浸透してるし」
「最近はアニソンもランク上位入ってるけど、一般には受け入れられてないよね」
「まあ、一般に匹敵するくらいオタクの購入者がいるってことだろ」
「AKBはオタク層と一般層両方あるから売れてるってこと?」
「さあな。よく分からん」
またチャンネルを変えると、お笑い芸人がネタを披露する番組を放送していた。
流行語大賞にノミネートされるような一発ネタを持つ芸人が、ワンパターンなネタを披露しては流れていく。少し前の流行は短い時間内でネタをする番組であったが、最近一気に減った。
「ツマんない」
みずきに一蹴され、またチャンネルが変わると、名のある歴史学者が新事実と表して、過去の戦国時代を語っている。
「……落ち武者みたいな髪」
みずきの呟き通り、歴史学者の頭髪は薄く、肌色の頭皮に髪の毛が散らばっているように見える。
「カツラじゃないだけマシじゃないか。潔いな」
「それって、×××××の話? 掲示板なんかで言われたりして――」
まるで放送禁止用語を聞いたかのようにかなたは、わざとらしくせき込んで話題を変える。
「伊達政宗か。やっぱり民法だとコレ使われるんだな」
テレビでは伊達政宗の話題が始まり、番組セットの大型ビジョンには、教科書の肖像画でなく、戦国時代を元にしたアクションゲームの政宗が映る。英語混じりで話す方。
「ウケがいいんじゃないの。ゲストも“自称”歴史好きな女性タレント集まってるし」
「こういう扱われ方されるのも、萎えるな。ゲームの内容無視だし」
「それにしても、こういうの観ると何が正しい歴史だか分かんなくなりそう」
「まあ、興味ないし、過去がどうだろうと別に……な」
「私たちは振り返っても、いい事なかったしね」
……少し部屋に沈黙が訪れ、かなたがチャンネルを変えると、ニュースで、人生絶好調な笑顔をカメラに向ける家族連れが映っていた。帰省するとのこと。
黙ってかなたはテレビを消した。