ひきこもり×アニソン
「あ、ハ○ヒ」
「違う。これは平○綾の曲だ」
「どこが違うの?」
「……さあな」
「そか」
場所は水澤かなたの部屋。二人はわりかしかなたの部屋にいる方が多い。部屋はカーテンが閉め切られ、暗い。テレビの放つ明かりだけが不気味に二人を照らしていた。テレビの画面では、対戦型パズルゲームが映し出され、二人は巧みに連鎖を組み、一進一退の攻防が繰り広げられている。
が、音量は微かに聞き取れる程に絞られ、見た目はかなり地味である。そのかわり部屋ではラジオが流れていた。
アニメソングの特集番組で、年に一回ぐらいしか放送はないが、朝から晩までアニソンだけを流すという、歌といえばアニソンと答えるかなたには嬉しい番組だった。
みずきは歌はあまり聴かない質だが、かなたがみずきのパソコンで声優のネットラジオを聴きに来たりする影響で、アニソンをそれなりに聴いたりするようになった。
「あ、コレってオリコン一位になった」
「一位、二位に同時だ」
ラジオからは某軽音楽部をテーマにしたアニメの主題歌が流れてきた。
そのアニメ内のバンドが歌っている曲だ。
「最近は凄いよね」
「アニオタの力は凄まじいな」
「かなたはどうなの?」
「俺が買えるわけがないだろ。ただ流れてくるのを聴くだけだ。そして気に入ったのがあったらダウンロードしたりな」
「あの時のタ○リはどんな気分だったんだろうね」
このアニソン界――音楽界初らしいアニメのキャラクターが歌っている設定(実際は声優)の、いわゆるキャラソンが売上ランクの一、二位にランクインしたのを、某テレ朝系音楽番組で流れた。
「さあな。スルーしてたのは確かだが」
「でも、いい商売だよね。声優が歌ってれば何でも売れそうだし」
「ま、神曲とか言われてるのもあれば、駄目な曲もあるが……。ジャ○ーズの曲が売れるのと同じようなモンだろ。お互いに犬と猿のように毛嫌いするような対極な位置だとは思うが」
「でも、世間的にはジャ○ーズの曲を聴くのは普通で、アニソンはオタクだとオタク以外から毛嫌いされるよね」
「そうだが。既に世間から疎外されてるから関係ないが」
そんな会話を繰り広げながらも、画面では凄まじい速さで連鎖が組み上げられている。それをいつ崩すのかの駆け引きが勝負を分ける。実力的には二人は五分だ。
「あ、これ知ってる。アニメの方は観たことないけど」
「90年代だな。ミリオンヒットもした歌だ。この年代辺りから普通の歌手やバンドが主題歌歌うのが、多くなった気がする。るろ剣は面白かったな」
かなたがアニメへの思いに集中を欠く間に、テレビ画面ではかなたの場はお邪魔ブロックに埋め尽くされた。
「ん、そのアニメの頃って、かなた小学校低学年なのに、内容とか理解できたの?」
かなたはフッと鼻で笑う。本人はカッコいいつもりなのだが、ただ鼻から息が出ただけだ。
「確かに当時の俺は、ただ、技とか見てカッコイイとか思ってただけだったかもな。今の時代はCSで幾らでも再放送がある。それで話の深さが分かった」
「あ、これは有名だ」
このままだと、かなたのスイッチがオンになり、タイトルが『ひきこもり×アニメ』になりそうだったが、次に流れてきた曲は、某新世紀アニメの曲だった。
「最終回は賛否分かれるが名作だったな」
「当時、この辺りってテレ東観れなかったよね」
ちなみに作者の住む地方でテレ東が観れるようになった当時、少なくともエ○ァは終わっていた。
「CSがある。ま、当時の放送時間と家の夕食時が同じだったし、もし観れてたら気まずかったと思う」
「ふぅん。そうなの?」
「観たことなかったっけか?」
「うん」
「まあ、深夜アニメのようなシーンがあったんだ」
「そか。確かパイプ椅子に座って話してるんでしょ」
「最終回にな」
「なんかゼノ○アスっぽいね」
「次はコレか懐かしいな」
このままだと『略)×ゲーム』になりそうだったが、次に流れてきた某海賊アニメ(ハー○ックにあらず)の主題歌にかなたは心踊らせる。
「これはアニメ主題歌っぽいよね」
「まあ、アニソン歌手みたいな人だからな」
言って、かなたは歌い始めた。熱唱というほどでもなく、淡々という風に。それはジャ○アンほど音痴というでもなく、かといってシェ○ル・ノームのような歌唱力もない。どこを褒めれる訳でもなく貶せもしない、カラオケならば場が白けるような歌声である。
「カラオケ……行ってみたいな」
歌が二番に差し掛かり、歌詞を知らないかなたが歌うのを止めると、ボソリとみずきは呟いた。
「へ?」
かなたは心底意外そうな表情をした。ひきこもりからカラオケは遠く離れた位置にある。
「ん、思い切り歌いたいと思って」
「そりゃまあ、俺もあるな」
「かなたとだったらヒかれることもないだろうし」
その台詞を二次元にしか存在しないような美少女に言われたなら、かなたは萌えて床を転げ回るだろうが、言ったのがみずきなので、萌えはしなかった。だが、そのみずきらしからね台詞と、か細い声にかなたは少しだけドキッとし、コントローラーを繰る手が誤り連鎖を組み損なった。
「そういえば、みずきが歌ってるとこ見たことないな」
何気なく漏らしたかなたの言葉に、今度はみずきが誤り、ブロックを置く位置を間違え、連鎖の妨げになってしまう。
「ん。歌とか興味なかったし、……多分、下手だし……」
「いや、部屋で一人の時にアニソンを歌ったりしてんじゃないのか?」
「してない。……してんの?」
かなたは自滅するかのように支離滅裂にブロックを積んでいる。
「まあ、……たまに……な。ス○シカオとかその辺り……」
かなたは、実際キャラソン(女性)から、電波系まで幅広く歌っている。
「そか」
落ち着きを取り戻したかなたは、適当に積み上げられたブロックを消していく。その過程で連鎖が起き、みずきと五分の状態に戻してきた。かなたは決して初心者ではないがビギナーズラックである。
「例えば、カラオケに行ったとして、何を歌うつもりなんだ?」
「んー。水○奈々とか……」
「あー、みずきだけに」
「…………」
スルーされたかなたは傷ついた。
「星○飛行とか歌えば面白いかもな」
かなたはみずきが『キラッ☆』とポーズを決めるとこを想像した。明らかにキャラに合わないが、ギャップがいいと感じた。
「……なにそれ?」
「知らんのか?」
「うん」
「マク○スだぞ?」
「名前は知ってるけど、観たことない」
みずきはアニメに関して、深夜アニメも観たりはするが、かなたほど熱烈的ではない。
かなたが睡眠より深夜アニメを優先するならば、みずきは深夜アニメより睡眠やネトゲーを優先する。
「じゃ、シェ○ル・ノームも知らないか」
「地の精霊?」
「ランカも知らんか」
「…………」
部屋の空気が冷たくなるのを二人は感じた。生憎、この部屋には冷房はない。謎である。
「かなたはどんなの歌うつもりなの?」
「……カルマとかだな」
「それアニソンじゃないでしょ」
「いや、アニメ版のジア○スがあってだな、それでもOP曲だ。つか、何故アニソン限定な流れになってんだ」
テレビ画面では、勝敗が決してキリのいい対戦成績になり、二人は何を言うまでもなくやめる流れになり、コントローラーを置いた。
「……でも、行くのはキツいかな……やっぱり」
「……そうだな」