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ひきこもり×ネトゲ

 ひきこもりである、水澤かなたは携帯電話を持っている。何世代か前の古い型だが、音楽などをダウンロードし、聴いたりするのに利用していた。

 尚、“電話”としての役割は皆無に等しい。アドレス帳に登録されているのは、幼なじみで同じひきこもりで隣に住む、相原みずきのPCのメルアドと、両親、みずきの両親と妹、掲示板で知り合ったメル友ぐらいである。

 一方、みずきはパソコンを持っている。父親が新型パソコンに買い換えた時に譲り受けた物だが、汎用性が高く、ネットゲーム等で楽しんだりしている。

 ちなみに、みずきの部屋にはテレビやゲームが無く、パソコンが置かれるまでは殺風景な部屋であった。なので、以前はみずきが、ゲーム機があるかなたの部屋に入り浸る事が殆どであった。今はかなたがネットを観るために、みずきの部屋に居ることも増えてきている。携帯でのネット利用は何かと不便だ。特に動画関係。


 宝石を散りばめたような星々が夜空に煌めいている時刻。ドラ○もんが放送中な時間帯。

 かなたは辺りを警戒するように顔だけを出して視線を動かしながら、勝手口から出てきて、水澤家と相原家を繋ぐ扉を開け、相原家の敷地に入る。

 そして相原家の勝手口を開け、入っていく。物音を立てぬ足取りと、人目に付かぬように警戒する姿はさながら空き巣のようであった。

 持たされたカットフルーツをみずきの母親に渡して、かなたは階段を上がり、みずきの部屋へと向かう。本来はフルーツを持ってくように頼まれただけだが、部屋にも訪れるのが一連の流れのように染み着いている。

 さすがに女性の部屋なので、かなたはノックをする。過去にノック無しで部屋に入って、着替え現場に遭遇したというハプニングはないが、マナーである。

 ちなみに、逆にかなたの着替え現場をみずきが目撃したことはあるが、互いに何事もなかったように時間は流れた。

 返事はないが構わず、かなたはドアを開ける。元よりみずきは滅多に返事をしない。入るなという時だけ、言葉が返ってくる。

 みずきの部屋は、かなたの部屋と同じくらいの広さだが、テレビやベッドがない分僅かながら広く見える。暗さを好み、電灯を点けない主義のかなたと違い、部屋は白熱灯で明るかった。

 みずきはかなたを一瞥した後、机上に置かれたパソコンの液晶モニターに向き直る。

 かなたは無言で肩越しに画面をのぞき込むと、頭上に名前を浮かべたキャラクター達が、一匹の魔物に襲いかかっている姿が映し出されていた。画面右下には『うはっwおkwww』などの難解な用語が流れるウィンドウがあった。MMORPGというやつで、いわゆるオンラインゲームである。

 単調に魔物を倒す姿を尻目に、かなたは本棚から適当なマンガを手に取り、壁際で畳まれた布団をソファー代わりにし、読み始めた。

 しばし、部屋から人の声が消えていた。

 マウスがカチカチと鳴る。

 キーボードがリズムよくカタカタと打たれ。

 ページをめくる度に紙が擦れる音が聞こえ。

 液晶モニターのスピーカーからは重苦しいBGMと、効果音が断続的に流れていた。


『エクスカリバーオンライン』

 壮大な世界観を元にしたそのゲームは、全国のネットゲーマーが一挙に集うMMORPGである。無職無収入のみずきがプレイしてる事でお分かりだろうが、基本プレイ無料だ。しかし、その出来は有料に勝るとも劣らない。戦闘システムもさることながら、まるで仮想のファンタジー世界で生活してるような感覚に囚われるシステムも盛りだくさんで、ハマると抜け出せず、幾多のネットゲーム廃人を産みだしている問題作だ。

 ちなみに現在画面に映っているのは、とある狩り場で、無限に湧き出るモンスターを倒してレベル上げをしている場面だ。

 六人のパーティで各自、戦士や魔法使いや僧侶とバランスが良い。モンスターを苦もなく狩っているのだが、画面に派手さはなく単調だと誰の目も分かる。だが、それを補うかのようにメンバーは絶えず会話で盛り上がっている。


くわた『昨日の、おんけい! 誰か観た?』

やまくら『見たお』

しのづか『フレアいきま』

なかはた『こっちじゃはいらねーww』

はら『テラワロスwww』

ミズキ『見てないー。忘れてた』

くわた『ミカエルたんには萌えたww可愛すぎw』

しのづか『メテオいきま』

やまくら『俺はミュエルがよかたwツンデレ萌ユルスww』

なかはた『こっちじゃはいらねーwww』

はら『パネエwww』

くわた『体力がwミズキたん回復おねー』

ミズキ『うい』

くわた『ありー』


「何で、ドラ○エの復活の呪文のような名前の奴ばかりなんだ?」

 漫画を読み終え、暇になったかなたが画面を見て聞いた。

「たまたま思い付いたからじゃない?」

「誰が?」

 たまたま、頭に浮かんだんです。

「この人達は全員ヒキなのか?」

 みずきはかなたに振り返ることなく画面を見たまま、

「多分ね。自己申告だけど、いる時間的にもそうだと思う」

 どのキャラも四六時中ネトゲ内で活動してるかと思うくらい、同じように昼夜問わず活動したりするみずきが接続してるときに居ることが多い。

「全員女キャラだが、中身はどうなんだ?」

「男」

「なるほど」

 みずきも含めパーティは全員女キャラで一見すると華やかだ。このゲームは装備品によってキャラの外見が変わるのだが、中身が男と言われたキャラは何故だか露出度が高い。ミズキはローブを着ているが、他はビキニアーマやら、ミニスカやらである。


「これ、楽しいのか?」


 何気なく、延々とモンスターを倒す姿を見て放った、かなたの疑問にみずきの眉がピクリと動く。

「ん、まあ……ね」

 楽しいか。それはみずきにも分からずにいた。普通の一人用RPGとは違い、いくらモンスターを倒そうが一レベル上げるのに一日は当たり前。明確なストーリーがあるでもなく、ただ強くなって、レアアイテムを追い求めたりして、結局は明確終わり、エンディングがない。

「そか」

 言って、かなたは黙って画面を見続けている。

「でも、こうしてリアルタイムに会話しながらするのは楽しいかな」

 何も言わないその姿勢に、みずきはかなたに面白さを伝えたくなった。

 今までかなたは今のように、みずきがプレイしてるのを観ることはあるが、決して自らすることはなかった。以前それとなく勧めてみたが『別にいい』と一蹴。

 ネトゲ廃人なる言葉もある今、ネトゲに興味を示さないことは良いことだともみずきは思う。みずきも最近は起動する時間も減ってきたが、まだ完全に離れられてはいない。なのに、かなたは全く興味を示さないのが悔しかった。

「そうなのか」

「あと、レアアイテムとか手に入れば嬉しいし」

「確かに、それは嬉しいかもな。はぐれメ○ルからしあわせのくつを手に入れた時とかみたいなあの感じか」

「それにイベントなんかもよくあるし」

 エクスカリバーオンラインでは季節柄の企画イベントはもちろん、現実の祝日にちなんだものから、ゲームの世界観に合わせたものまで、最低、週に一回はイベントがある。どれも手抜きという印象も受けず運営の努力が窺える。

「へえ」

 と、かなたの言葉には感嘆の『か』の字もないような何もこもってない反応だった。ひきこもってはいるが。

はら『誰がうまいこといえとwww』

なかはた『はら急にどしたん?w』

「ねえ、かなた少し変わってくれる?」

「ん?」

 言いながら、みずきはキーボードを慣れた手付きでブラインドタッチで打つ。

ミズキ『ちょっと相方に変わります。三十分くらい』

 チャット画面に出されたミズキの発言を見てかなたは、

「相方?」

 と、怪訝な表情を見せる。

「お風呂入ってくるから。後よろしく」

 みずきはクルンと椅子を回転させて立ち上がり、タンスから着替えを取り出して、部屋から出ていった。

 みずきの家は、時間内に風呂に入らないと栓を抜かれ、再度沸かすことも禁じられている。

 かなたは、ふぅ……とため息を吐いて、まだ温もりが残るみずきの椅子に座り、画面に向きあう。操作はみずきのを見ていたため、すんなりと回復魔法を使って画面の中のミズキは支援を再開する。

くわた『ミズキたん? それとも相方なん?w』

 キーボードを人差し指でぎこちなくかなたは打つ。

ミズキ『みずきは今いないけど、相方ってなんなんすか?』

しのづか『ミズキに聞いたことあって、幼なじみのヒキだとか』

はら『テラ萌ユルスwww』

なかはた『幼なじみ萌えww良環境ウラヤマシスw』

やまくら『で、ミズキたんは今何を?w』

ミズキ『全く萌えませんよ』

ミズキ『風呂』

くわた『キサマはオレを怒らせたwww』なかはた『周りに異性が母ちゃんしかいない奴の気持ちが分かってたまるか(泣)』

はら『フロ!w キタ――――www』

しのづか『お前らちゃんと動け』

やまくら『クッ……その萌え撃はかわせん……グァァ!』

くわた『バカw想像しちまったww萌えたww』

なかはた『ハァハァ……』

しのづか『ここは変態の集まりか……つか、誤解されるだろ』

ミズキ『想像してるだけの方が幸せですよ』

やまくら『ではせめて簡潔な容姿だけでも教えてくれないか?w』

ミズキ『一目でヒキだと分かるような容姿。雰囲気的にも』

はら『ふいんきかw(何故か変換できない)』

くわた『では胸の発育はどうかね?wグヘへw』

なかはた『オレの妄想が絶好調になってきたwww』

しのづか『この会話、もしミズキが見てたらヒくだろうな』

やまくら『そもそも相方と代わったのが嘘だったりして……w』

はら『孔明の罠かwなまくらの考えは当てになんねw』

ミズキ『ダボダボな服着てるとき多いし、よく見たことはないから分からn』

くわた『そかwだが想像がひろがりんぐw』

なかはた『ヒンニューが好きだwww』

やまくら『まて……ミズキたんは自室にパソがある……てことは下着の入ったタンスもある……あとは分かるな?w』

はら『おまwナイスリードww』

しのづか『いい加減にしれ』

なかはた『問題は入浴時間だが……いけそうか?w』

ミズキ『みずききそう』

くわた『やべw流せw』

はら『ジャイアンツ愛』


 と、指示により一瞬でチャット画面は空白を連投されて、先ほどの会話は見えなくなった。かなたはチームワークに感心し、部屋に戻ってきたみずきに席を譲る。ほのかにシャンプーの香りがした。みずきのパジャマ姿にかなたは胸を一瞥し、機会があれば伝えてやろうかと考える。

「どう? 面白かった?」

 みずきが戻った旨を仲間に告げながら、かなたに聞く。

「んー。まあ、面白い奴らだな」

 言って、かなたは「帰るわ」と部屋を出ていった。



 尚、キャラ名は某球団とは何の関係もありません。




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