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ひきこもり×RPG(2)

 仕方なしに旅に出ることになったカナタは隣町に続く道を歩いていた。

 不本意ながらも魔王の復活を阻止するという大役を担ってるとはいえ、その方法が分からないため、とりあえず町へと行き情報を集めることにした次第である。

 もっとも、カナタの住んでいた村は大陸の端に位置するため、どちらにせよ隣町のある方向に行くしかないのだが。

 隣町のまでの街道は林を切り開いて綺麗に整地されており、空から見たら一面の緑の中に茶色の線がなだらかにうねりながら走り、村と町を繋いでいるのがよく分かるだろう。

 人を襲うような獣やモンスターの姿もなく、カナタは散歩気分で街道を歩いていた。このままのペースなら日没までには余裕を持ってたどり着けると考えていると、壁に衝突した。正確にはそんな感覚があっただが。

「なんだ?」

 ぶつけた頭をさすりながらカナタは怪訝そうに目を細めて前を見る。しかし、果てなく続いていそうな道しか見えない。

 おそるおそる手を前に出してみる。すると、壁に触れたようにひんやりとした感覚がしっかりとあり前方に何かがあるのが分かる。

 カナタはぺたぺたと前方を適当にさわっていく。その動作はまるでパントマイムのようであり、小箱でも置いとけばささやかな小銭くらいなら入れてもらえそうだが、生憎芸ではない。

 確かにそこには透明な壁が存在していた。

「これは困った」

 カナタは壁の前で立ち尽くしていた。

 乗り越えようと飛び跳ねてみても高さが足りず、左右に隙間でもないかと壁伝いに移動して調べても徒労に終わる。

 石を投げたら何故か壁をすり抜けて向こう側に飛んでいく。背中にさげた勇者の剣を引き抜いて壁に振り下ろしても空を切り裂くだけであった。

「仕方ない帰るか」

 カナタの諦めは早かった。姉の罵詈雑言が待ちかまえるのが想像できたが、見えない壁があるため旅は頓挫。むしろ旅を続けられない恰好の理由ができて壁に感謝したい気分であった。

 その気持ちを壁に一礼して形にし、踵を返すと人の姿が見えた。

「壁に困っているのかい?」

 農具を肩に担いだ中年男性がカナタに声を掛ける。

「いや、特には」

「この壁は勇者だけが通れないようになっている魔法壁でな、壊すにはこの壁の魔力を越える魔法を放てたないと無理だな」

「そうすか」

 興味のない適当な相槌を打つカナタに構わずに、農夫は話を続ける。

「そういやあ、村外れに魔法使いが住んでたなあ確か。人嫌いで、滅多に村に来ることもない変人という話だ。行ってみたらどうだ?」

 と、聞いてもいない情報を与えて農夫は透明な壁の向こうへと歩いていった。距離が離れてからカナタは舌打ちをし、

「余計なことを」




 カナタは来た道を引き返し、その途中、村にほど近い場所にある脇道に入った。

 カナタはこの先に魔法使いの家があると噂では知っていた。滅多に姿を見せないことから好き勝手な憶測が広まり、村では気味悪がられている。

 常に黒いローブを身に纏い、姿を見た者は不幸になる。

 家に篭もり怪しい研究に没頭している。

 興味本位で家に向かった人が帰ってこなかった。

 など、村では本当か嘘かも分からない噂を作り出し、魔法使いが村に現れても遠巻きに見て声をひそめる。

 しかし、カナタはそんな噂は全く信じてはいなかった。

 村外れに住み滅多に姿を見せることない。

 たったそれだけでよくもまあ、マイナスなイメージを膨らませることができるものだと冷めた目で見ている。

 わき道の左右には街道より多少木々の密度が濃く、生い茂る葉が陽光を遮って、昼間だというのに薄暗い。そんな道を進んでいくと一件の家が見えてきた。

 見た目はごく普通の一軒家だが、周囲の鬱蒼とした森のせいか、どことなく怪しい雰囲気が漂っている。カラスが羽ばたき枝葉をガサガサと揺らした。

 カナタはドアをノックする。

 しかし、返事はない。

 もう一度ノック。

 返事はない。

 もう一度。

 耳を澄ませても物音一つしない。

 留守を疑いつつもカナタは四度目のノックをし、

「お届け物です」

 宅配便を偽ってみた。

 やはり物音はなく、諦めて帰るかと姉になじられる未来を浮かべ、重いため息を吐いた。

 その時ガチャリと音がした。

 鍵が外される音の後、木が軋む音を立てドアが僅かに開く。その隙間から女性が半分を顔を覗かせ、半開きな瞳でカナタを見る。手に荷物がないのを確認し、

「…………嘘吐き」

 呪うような声でそう呟くとドアを閉じようとするのを、カナタは咄嗟に手で掴み止めた。

「ちょっと待ってくれ、俺は勇者だ」

 カナタはそう名乗ると、少しの間をおいてからドアが更に開き、女性の全身が露わになる。

 頭には先が尖った三角錐の形をした黒い鍔広の帽子をかぶり、そこから流れるような長い黒髪が膝下まであった。丈の長い漆黒のローブが全身を覆い、むき出しの肩と顔以外はほぼ真っ黒である。

 村では見ない格好をカナタはまじまじと見て、

「家の中でも帽子かぶってるのか」

 そんな感想を言った。

「…………」

 女性もまじまじとカナタの格好を見る。

 ちなみにカナタの服装は、地味な色をした布の服にズボン、そして姉にその方が勇者らしいと無理矢理着けられたボロいマント。そして背中には勇者の剣。

 そんな一目見ても、勇者じゃなく旅人が精々のカナタに

「…………入る?」

 女性は呟くような声でそう聞いた。




「確かに特定の人物や種族にだけ反応する魔法壁を形成することは可能。けど、強い魔力がないと難しいし、……そもそも貴方が勇者だという話は疑わしい」

 家にあがったカナタは、ここに来た事情を説明すると、女性は淡々と見解を述べた。女性はミズキと名乗った。

「それは俺にも説明しがたい。流されるままに勇者だということになった感じだし。……証明になるか分からんが」

 と、カナタは背負った剣を外してミズキの前に置く。何の変哲もなさそうな剣をミズキは石ころでも見るような無表情を向けてから、剣を掴み持ち上げようとする。

 しかし、一ミリも剣は持ち上がらなかった。

 少し沈黙した後、ミズキは両手で持ち上げようとしたが、剣はまるでテーブルにくっついているかのように持ち上がることはない。

 確かに勇者以外の者には、見た目以上の重量があるが、コハルは重いと言いながらも片手で持ってはいた。コハルの腕力は一般の枠を越えているため参考にはあまりならないが、全く持ち上がらなかったのはひとえにミズキの力が人並み以下だからである。

「……勇者だというのは少しは信じてもいい」

「そうか」

 カナタが剣を軽々と持って背中に戻すのを、ミズキは不思議そうに見ながら、膝の上の黒猫を撫でる。

「で、その魔法壁はどうにかできるのか?」

「解除の呪文か、魔法をぶつけて破壊すればいいけど……」

「じゃあ、何とかしてくれ」

 ミズキは黒猫に視線を落とし、考える間を開けてから、

「私は行かない」

 下を向いたままそう言った。

「いや、無理でもいいから一度やってみてくれないか?」

 カナタは必死に頼み込む。

 できたら無理な方がいい。それならば旅を止めざるを得ない理由として姉を納得させることができる。もっとも鉄拳の数発は覚悟しなければならないが。

「……私は、無理」

 しかし、ミズキは震えた小さな声で拒否する。

「何故だ?」

「…………」

「ミズキは人が苦手なのよ」

 カナタの質問に答えたのはミズキではない第三者の声だった。

 カナタが怪訝な表情で周りを見渡してると、俯くままのミズキの膝から軽やかに黒猫が飛び出しテーブルに座る。

 艶のある漆黒の毛色に満月のような金色の瞳。細く長いしっぽがテーブルの端からダラリと垂れる。

 唐突に目の前に座した黒猫とカナタの視線を合う。

「こんな場所で人と接することなく過ごしてたから、いつの間にか苦手になった。というわけ」

 少女といった風なその声は確かに目の前から聞こえていた。けれども、ミズキの声とは違うし、口は動いていない。

 そして、黒猫の口が動いている。それはつまり、

「猫が喋った」

 カナタの口調からは驚いた様子はなく、実にあっさりとした反応だった。

「もう少しは驚いてくれてもいいんじゃない……まあ、いいわ」

 黒猫は呆れたように言い、

「ウチはナナ。ミズキの使い魔をしてるの。ま、主従関係は薄いけど」

「使い魔?」

「魔道士が使役する幻獣」

 淡々とミズキは補足する。

「そゆこと。使役って言い方は好きじゃないけどね」

「へえ」

 やはりカナタの反応は至極薄い。

「急になに」

 ミズキはナナに言う。

「いい機会じゃない。これを機に人と関わるのも悪くないでしょ?」

「……勝手に決めないで」

 ナナはお手をするように前足でカナタを指し、

「だったら何で彼を家にあげたの?」

「別に……何となく」

「興味があったんじゃない? 勇者に。お母さんが言っていた昔話に出てきた勇者に」

 ミズキは亡くなった母親のよくしてくれた話を思い浮かべる。勇者とその仲間たちの物語。仲間には魔法使いもいて、自分を投影して物語に浸ったりもした。

「行ってみるのも面白いんじゃない? 力試しにもなるだろうし」

 ミズキは思案する間を経て小さく頷く。

「ん、ナナが言うなら……行ってみてもいいかも」

「決定ね。長い旅になるかもしれないし、準備はしっかりしなきゃ駄目よ」

「分かってる」

 そう言い、ナナの喉をくすぐるように撫でながらミズキは穏やかな表情を浮かべる。ナナもまんざらでもなさそうに目を細める。

 蚊帳の外といった空気を味わうカナタは頭を掻きながら、

「……なんで旅に出ることになってんだ……」




 やる気皆無な勇者に人嫌いの魔法使いに喋る黒猫。という一行は隣町への道を歩いていた。

 カナタは欠伸をかみ殺しながら。

 ミズキは黒いとんがり帽子を目深に被り地面に視線を落とし。

 ナナはちょこちょこと。

 特に会話もない時間が数十分過ぎた頃、カナタは壁にぶつかった。透明な勇者専用魔法壁である。

 ミズキとナナが振り向いて、カナタが壁に行く手を阻まれてる姿に気付いたのは、五十メートルほど過ぎてからだった。

「これね。ミズキ、分かる?」

 壁のある部分に前足を伸ばし、ナナは傍らに立つミズキを見上げる。

「ん、高い魔力の流れ。高度な魔法式を用いている」

「じゃ、消すのは難しいのか?」

「簡単」

 即答するミズキに、カナタは内心残念がる。

「多分、魔物が張ったものでしょうね」

 ナナは二、三歩後退しつつ魔力を分析した推測を述べる。

「魔物が?」

 カナタの知識としてある魔物というのは、獰猛な野獣といったもので魔法を扱うとは聞いたことがない。

「魔法を扱える魔物はそんなに多くはないけどね。そういう魔物は知能も発達してて人の言葉を喋ったりできるみたい」

「そうなのか」

「何よその目? まさかウチを魔物だとか思っているわけ?」

「違うのか?」

 冗談っぽく口元を緩め首を傾げるカナタに、ナナの毛が逆立ちフーっと威嚇するような息を吐く。

「ウチは幻獣よ。げ・ん・じゅ・う! 魔物なんかといっしょにしないでほしいわね」

「悪かった」

 カナタは素直に頭を下げる。しかし幻獣でも魔物でもどちらでもよく、単に喋る黒猫と思うことにした。

――パリン。

 と、ガラスが割れるような音がした。


「終わった」

 先端に海を思わせる蒼く透き通った水晶が付いたロッドを壁に向けミズキは、淡々と解除を終えたことを告げた。

「早いな」

 カナタは確認しようと手を伸ばす。壁に当たることはなかった。

「ミズキならこのくらい赤子の手を捻るくらい楽なことよ」

「凄いんだな」

「別に……」

 俯いて帽子の鍔で表情を隠し、ミズキは踵を返して早足で先へと行く。

「照れてる照れてる」

 楽しそうに笑いながらナナは後を追う。

 カナタは一度村の方向を振り向いてから、

「長くならなきゃいいが」

 そう愚痴のようにこぼして、二人の後を追った。




 少しして、カナタに魔法壁のことを教えた農夫と会った。

「どうやら、通ることができたようだな。そちらの魔法使いがやったのかな?」

 ニヤリとした目を農夫はミズキに向ける。舐めるような目つきだが、ミズキは怖がることもなく虚ろげな瞳で農夫を見る。

「アレを解除できるとは大した魔力だなァ。そうじゃないと面白くない……ヒャッヒャッヒャッ!」

 農夫は奇声のような高笑いを発した。明らかに声質が変化してるが、二人と一匹は冷ややかな瞳で見ている。

「驚いているなァ? そうさ、農夫というのは仮初めの姿でなァ……目ん玉ひん向いてよく見ているがいい!」

 沈黙を驚きと解した農夫はそう叫ぶと、まず人間らしい色をしていた肌の色が気味の悪い藍色へと変色し、耳が鋭角になっていく。口元には二対の鋭い牙が覗き、背中からは服を突き破って漆黒の羽が生えた。

 その異形な姿はまさしく魔物に分類される姿であった。

「オレはシルヴァ。魔王様直属の部下だ。聞いておののくがいい!」

 名乗ってシルヴァは不敵な笑みを浮かべ下品な声で高笑う。

 特に驚愕もなく、三人は小さな輪になりヒソヒソと話し出す。


「どうするべきだここは?」

「驚いてあげといてもいいんじゃない、可哀想だし」

「……任せる」

「俺がするのか?」


 輪が解け、カナタが代表して一歩前に出た。

「あー、まさかあの農夫が魔物だったとはー、こいつは驚いたなー」

 それはやる気の欠片も感じない棒読みの台詞であった。

「わざとらしいなオイ!」

「驚けという方が無理な話だろ」

「何故だ? オレの変化は完璧なはずだ」

「いや」

 カナタはシルヴァの頭を指さし、

「その頭の触覚、全く隠れてなかったし」

「え?」

 ヒューと木枯らしのような一筋の風が吹き抜けた。

 農夫の姿をしていた時から、頭のデコから伸びる二本の触覚が丸見えだった。この世界にそんな人間がいるというのはカナタの記憶の中にはない。


「…………見破っていたとはな。さすがは勇者の力を持つものといったところだなァ……ヒャハハ」

 苦し紛れにシルヴァは言うが、声に勢いがない。魔物の中でもエリートで自身もそれを誇りに思い生きてきた彼は、人間変化のミスにかなりのショックを受けていた。

「勇者は関係ないな」

「ウチも分かってたし」

「……そっちのミス」

 冷静な指摘にシルヴァのエリートとしてのプライドが傷つけられたが、そこはエリート。咳払い一つで落ち着きを取り戻し、

「勇者を村から出すなというツマらん任務。暇つぶしに、魔法使いを連れてこさせたが、まさかオレの魔法壁が壊されるなんてな。

 ま、魔法壁なんざなくても、オレがここを通さないがな。ヒャッヒャッヒャッ!」

「死亡フラグ」

 ミズキは呟いた。

「死亡フラグ?」

 振り返ってカナタは訊く。

「……ん、古い本で読んだけど、ああいうキャラがああいう台詞言うと、死ぬ」

 おざなりな説明にカナタはよく分からず首を捻る。その説明を聞いていたシルヴァは自身溢れる高笑いを発し、

「オレが死ぬだァ? とんだ戯れ言だな。死ぬのはオレじゃなく、お前らだろう? ――まずは貴様からだなァ!」

 と、いきなりシルヴァは鋭利な爪の生えた人差し指をカナタに向けた。

 カナタは身構えて剣を抜こうと背中に手を回すよりも早く、シルヴァの指先から発された野球ボール大の赤い光弾が命中するほうが先だった。

「……クッ!」

 光弾はカナタの胸に直撃し、それこそ剛速球を受けた衝撃によりカナタは後方へと吹っ飛ばされ地面に体が叩きつけられる。

 カナタはせき込みながらも起きあがると、片膝を付き顔を上げた。

「結構丈夫じゃない。アレを直撃して立ち上がれるなんて」

 ナナが感心したように言った。

 まだ、姉の鉄拳の方が凄まじい。カナタはそんなことを思いつつも、身体中の痛みに顔を歪める。

「やるじゃねえか。だが、もう一発――今度は加減はしないぜ! ヒャッハー!」

 シルヴァの指先がカナタを捉え、再び赤い光弾が生まれる。しかし、すぐには放たれず少しずつ光弾の大きさが増していく。

 ピンポン玉。

 サッカーボール。

 大きさは更に増していき、シルヴァの体半分を覆い隠す大きさになっていく。

 しかし、カナタは光弾の発射軌道からは逃げなかった。いや、逃げきれなかった。先のダメージが体の自由を奪っていた。

 片膝を付いた姿勢のまま、カナタはまだ大きさを増していく血のように赤い光の球を見る。これに当たればひとたまりもない。

――覚悟を決めるしかないか。

 そう心中で呟き、カナタは目を閉じる。すると不思議な感覚がした。背中から何かが語りかけてくるような。カナタは無意識に勇者の剣に手を掛ける。

 触れた瞬間温かい感触がした。

 不思議と力が溢れてくる。

 体の痛みも消えた。

――いけるかもしれない。

 危機的状況で湧く勝利への確信。カナタは柄を強く握り、鞘から光が漏れ出している勇者の剣を引き抜き――


「フレア」


 風に掻き消えてしまいそうな小さなミズキの言葉。それを聞いたシルヴァは一瞬小首を傾げたが、すぐにシルヴァの表情は驚愕に染まる。

「なっ……無詠唱で――」

 それがシルヴァの最期の言葉となった。

 真紅の炎が一瞬でシルヴァを包み込み、メラメラと朱く燃える大玉の中へと消える。

 この時点で内部は超高温になっており、普通の生物は灰しか残らない。

 だかさらに、追い打ちとばかり大玉の周りに無数の炎の槍が生み出され、まるで箱に剣を突き刺して脱出するイリュージョンのように四方から串刺しにする。

 そして、ウニのようになった炎の大玉は風船のように膨張していき――爆発した。

 のどかな草原に轟音が響きわたった。

 爆破が生み出した衝撃波により木々の葉が吹き飛び、むき出しの枝をさらし、炎の欠片が雨のように降る。幸い木々には届いていないが、カナタの位置には届き、慌てて範囲外まで後ずさる。

 ミズキとナナは防護魔法壁により炎は届く前にかき消されている。


 シルヴァのいた場所には黒く焼けた地面と、焦げた臭いしかなかった。




「何だ今の魔法は?」

 まだフラツく足取りでミズキへと近寄り、早速カナタは訊ねた。

 剣の光は治まり、妙な感覚もなくなってしまっている。

「フレア」

 それが何なのか聞きたいとカナタがツッコむ前に、ナナが代わりに答える。

「炎系呪文の一種よ。ミズキのオリジナルだけどね。魔法ランクだと上級くらいの威力になるかしらね」

「あれが上級なのか」

 カナタが見たことのある攻撃呪文というのは、手のひらサイズの火球を飛ばしたりする基礎魔法だけで、上級の派手で威力も絶大なのを見たのは初めてだ。

「そ。上級呪文を扱える魔道士も数少ないんだけど、無詠唱で放てるのはもっと少ないの」

「意外と凄いんだな」

 ミズキを見て何気なく言った感嘆の言葉に、心外そうな表情になりミズキは鋭さのある瞳で、

「基礎呪文しか扱えない奴が魔道士を名乗るのはおこがましい」

 淡々と言って、先へと歩いていく。

 カナタは黒い髪が覆う背中に、

「回復魔法は使えるか?」

 ジンジンと痛む身体を癒してもらえるか訊くが、

「使えない」

 ミズキは振り返らず答えた。

「そうか」

 カナタは仕方ないと、やくそうがあったはずと背中のリュックを抱え持ち、中身を探りながら歩き出す。


 空に浮かぶ太陽を見て、街まで日暮れには間に合わなそうだと思いつつ。




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