ひきこもり×ひきこもり
空は晴れ渡り、太陽は高い位置にある。
なのに、その部屋は暗かった。
分厚いカーテンに陽は遮られ、六畳の部屋は、古めかしい小さなブラウン管テレビが放つ光しかなかった。
テレビ画面では、筋骨隆々な男と華奢な女性が向かい合う形で闘っていた。2D格闘アクションゲームである。テレビの前では二人が座り、不気味なテレビの光に照らされ、画面に集中している。
「暇」
ツマらなさそうに一人が言った。
女性の声。
手元では目に止まらぬ速さで、コントローラーのボタンを繰り、マッチョ男を動かしている。
「ああ」
一人が寝ぼけているような力のない声で答える。
男性の声。
手元ではカチカチではなくカカカとボタンを押す音がしている。画面では華奢な女性が宙に舞うマッチョに、攻撃を繰り出している。
「何かない?」
女性が聞いた。何かとは『暇を潰せる物』だと男性は考えなくとも分かる。それほどまで女性との時間は長い。
「ネトゲーはどうした」
男性が答えた。ネットゲームの略である。女性は一時期は寝る間を惜しんで勤しんでいたことがある。
「飽きた」
「そか」
画面ではマッチョが超必殺技を繰り出し華奢な女性が投げられていた。落ちた瞬間甲高い悲鳴を挙げ、マッチョは筋肉アピールをし、“YOU WIN”と文字が出ていた。
勝利した女性は、それでもツマらなさそうにコントローラーを床に投げだし、後ろに倒れた。頭の位置にはクッションが置いてある。クッションからはみ出した長い髪が床に広がった。
男性はゲーム機の電源を消し、テレビも消して、部屋は昼間ながら夜のように真っ暗になる。
「ねえ、どっか出掛ける?」
女性は天井を眺めたまま呟くように言った。
男性はベッドに半身を床に投げ出すようにもたれ掛かり、
「いったいどこにだよ」
まるでジョークでも聞くように鼻で笑う。
「ん、遊園地……とか」
男性は更に鼻で笑う。
「それは俺たちには最悪な場所だな」
「だね」
女性もフフっと笑う。表情は儚げになり、虚空を見るかのように天井のシミを見つめる。
「やっぱり、ひきこもりには部屋が一番だしね」
二人はひきこもりである。
男の名を水澤かなた。
女の名を相原みずき。
家は古い町並みが残る住宅街にあり、隣同士。近所付き合いも良好で、二人は物心付く前より双子のように四六時中いっしょにいる仲であった。
互いに人付き合いというのが苦手なため、学校では『あれ? こんな奴いたっけ?』と、時が過ぎて卒業アルバムを懐かしむように見ている同級生に言われてしまうくらい、目立たない存在だった。
友人もできず、半ば必然的に二人で遊ぶしかなく、もっぱら部屋でゲームやら、インドアな趣味で過ごしていた。
最初にひきこもりになったのはかなただった。学校に行かなくなり、家からも出ることはなくなった。それでも、みずきは部屋に来て、いつも通りにゲームで遊んだ。かなたもみずきと遊ぶときは普段通りに楽しく過ごせた。
二年後。みずきもまるでかなたのひきこもりが伝染したかのように、不登校になりひきこもりになった。
それでも二人の関係は変わらず。
むしろ、仲間意識、唯一の理解者という存在となっていた。
これは、そんな二人がどうでもいい会話を繰り広げる。
プロットも何もないお話である。