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悪役令嬢は玉座を望まない ―溺愛宰相と築く、破綻寸前国家の再建録―  作者: 花菱エマ


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第27話 「選ばれなかった未来」

 退位の発表は、正午に行われた。


 玉座の間に集められた重臣、貴族、民の代表。


 エドガーは王冠を戴いたまま立っている。


 その姿は、まだ王だった。


「本日をもって、私は王位継承権を放棄する」


 ざわめきが広がる。


「国家の安定を最優先とし、王弟アルベルト殿下へ継承を委ねる」


 形式は整っている。


 声は震えていない。


「財政再建は、顧問リゼリア・アストレイアに一任する」


 視線が一斉に向く。


 リゼリアは一歩前に出る。


 何も言わない。


 ただ、頭を下げる。


「私は未熟だった」


 エドガーは続ける。


「理想を急ぎ、支えを軽んじた」


 沈黙。


「だが、この国を愛している」


 最後の言葉。


 王冠が外される。


 その瞬間、王ではなくなる。


 拍手は少ない。


 だが罵声もない。


 静かな終わり。


 式が終わり、人々が散る。


 玉座の間に残るのは、リゼリアとエドガーだけ。


「これで、君は満足か」


 問いは責める響きを持たない。


「満足ではありません」


 正直に答える。


「ですが、必要でした」


「合理的だな」


「ええ」


 沈黙。


「私は君を愛していた」


 唐突な告白。


 だが過去形。


「知っています」


「今もか」


 視線が交わる。


「尊敬しています」


 それ以上でも以下でもない。


 エドガーは小さく笑う。


「選ばれなかった未来だな」


「未来は、選び直せます」


「君とではない」


「はい」


 残酷なほど静か。


 だが嘘はない。


「三年後、私は胸を張れるだろうか」


「努力次第です」


「君は厳しい」


「契約ですから」


 最後まで変わらない。


 エドガーは玉座に背を向ける。


「私は、学び直す」


「ええ」


「今度は、光に頼らずに」


 その言葉に、わずかに目を細める。


「期待しています」


 それは本心だ。


 エドガーは去る。


 扉が閉まる。


 広い玉座の間に、一人残る。


 王のいない空間。


 重い静寂。


 やがて背後から足音。


「終わったな」


 カイルの声。


「ええ」


「後悔は」


「ありません」


 少しだけ間を置いて。


「痛みはあります」


 正直な言葉。


 カイルは隣に立つ。


「あなたは選んだ」


「ええ」


「国を」


「制度を」


 灰色の瞳が柔らぐ。


「私ではなく」


「あなたは並ぶ相手です」


 静かな宣言。


「守られる存在ではない」


 沈黙。


 カイルは小さく笑う。


「難しい女だ」


「合理的です」


 窓から光が差し込む。


 王冠はすでに別の手へ渡る。


 だが国はまだ揺れている。


「これからが本番だ」


「ええ」


 退位は終わりではない。


 始まりだ。


 選ばれなかった未来は消えた。


 だが選び直した未来が、ここにある。


 冷酷令嬢は、玉座ではなく制度を選んだ。


 そして物語は、次の章へ進む。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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