第25話 「孤立する王」
三日後。
公開監査第二弾の会場は、前回以上の緊張に包まれていた。
貴族席は半ば戦場のようだ。
王弟派の面々は静かに座り、表情を崩さない。
民の代表は不安げにざわめき、聖職者は祈るように目を閉じている。
中央にはエドガー。
その隣にクラリス。
そして壇上に立つリゼリア。
「監査第二報告を開始します」
静かな声が響く。
資料が配布される。
「施療院資金の流れは、複数の政治基金を経由していました」
ざわめき。
「最終流入先はこちらです」
会場の中央に掲示された図。
矢印の先。
王弟派基金。
一瞬の静寂。
次の瞬間、怒号が上がる。
「捏造だ!」
「王家への侮辱!」
アルベルトはゆっくりと立ち上がる。
「証拠を」
穏やかな声。
だが緊張が走る。
「こちらに」
署名入り契約書。
資金移動の原本。
監査官による検証結果。
逃げ道は、ほとんどない。
「私は知らなかった」
アルベルトが言う。
「部下の暴走かもしれない」
「可能性はあります」
リゼリアは冷静に返す。
「だからこそ、公表しました」
会場の空気が揺れる。
エドガーがゆっくり立ち上がる。
「責任の所在は、調査委員会で明確にする」
低いが、はっきりした声。
「王家であっても例外はない」
ざわめき。
王弟派の貴族が叫ぶ。
「それでは王家の威信が!」
「威信は」
エドガーが遮る。
「隠蔽で守るものではない」
その言葉は、以前よりも強い。
リゼリアは横目で見る。
彼は逃げていない。
だが。
会場の空気は冷たい。
王弟派の視線は敵意を隠さない。
民の代表は困惑している。
王は今、孤立している。
監査が終わる。
会場を出る人々のざわめきは重い。
「殿下」
クラリスが静かに言う。
「支持基盤が崩れつつあります」
「分かっている」
短い返答。
リゼリアが近づく。
「ありがとうございました」
小さく言う。
「何に対してだ」
「逃げなかったことに」
エドガーは苦く笑う。
「逃げれば、君に軽蔑される」
「軽蔑はしません」
「だが失望はするだろう」
否定できない沈黙。
「……私は孤立しているか」
低い問い。
「ええ」
嘘はつかない。
「だが孤独ではありません」
視線を合わせる。
「選べば」
短い言葉。
エドガーは目を閉じる。
王弟派は明確に対抗姿勢を見せ始めた。
重臣の一部は距離を置き。
民の支持は揺れ。
光は、揺らいでいる。
夜。
王城の廊下でカイルが言う。
「退位は現実味を帯びた」
「ええ」
「止めるか」
「止めません」
即答。
「彼が選ぶこと」
リゼリアは静かに続ける。
「私は制度を整えるだけ」
灰色の瞳が揺れる。
「冷たいな」
「合理的です」
だがその声は、わずかに疲れている。
「疲れている」
「少しだけ」
正直に答える。
「それでも立つか」
「ええ」
迷いはない。
その頃。
エドガーは玉座の間に一人立っていた。
広い空間。
静寂。
「私は王だ」
小さく呟く。
だが今、その言葉は重い。
扉の外では、重臣たちが密かに動いている。
退位勧告の文案が、静かに作られ始めていた。
孤立する王。
揺らぐ王権。
そして。
冷酷令嬢は、最後の選択を待つ。
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