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悪役令嬢は玉座を望まない ―溺愛宰相と築く、破綻寸前国家の再建録―  作者: 花菱エマ


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第21話 「裂け目」

 重臣会議は、静かに始まった。


 豪奢な円卓。


 その中央に座るエドガーの表情は硬い。


「本日の議題は、財政再建の進捗および王政への影響」


 クラリスが淡々と読み上げる。


 だが本音は別にある。


 ――責任の所在。


「支持率は三割低下」


「地方貴族の反発が拡大」


「施療院問題は収束傾向だが、信頼回復には時間が必要」


 数字が並ぶ。


 冷たい現実。


「……私は、退くべきだと言いたいのか」


 エドガーが低く問う。


 誰も即答しない。


 沈黙が答えだ。


「殿下」


 年長の侯爵が口を開く。


「王権の安定こそが最優先」


「私は不安定だと?」


「現状は」


 曖昧な言葉。


 だが明確な意味。


「財政顧問の権限拡大が、王権を侵食しているとの声もあります」


 別の重臣が続ける。


「リゼリア嬢の存在が、強すぎる」


 空気が張り詰める。


「彼女は職務を果たしている」


 エドガーの声が鋭くなる。


「だが民は、彼女を見ている」


「それは、私が至らぬからか」


 苦い問い。


 クラリスが静かに答える。


「比較されているのです」


 真実。


 残酷な真実。


 エドガーは目を閉じる。


 広場の光景が蘇る。


 石を受けても立ち続けた姿。


 自分は玉座に座っていた。


「……会議を終える」


 短く告げる。


 重臣たちは一礼し、退室する。


 部屋に残るのはクラリスだけ。


「退位を勧めるつもりか」


「今はまだ」


「だが、可能性はある」


「否定できません」


 静かな現実。


「私は間違えたか」


「理想は間違いではない」


 クラリスは言う。


「だが、支えを軽視した」


 沈黙。


「彼女を失ったことが、致命的だった」


 その名を出さずとも分かる。


 エドガーは立ち上がる。


「……話がある」


 その頃。


 別室ではリゼリアが再建案の修正をしていた。


 扉が開く。


「殿下」


 エドガーが入る。


 二人きり。


「……座ってくれ」


 向かい合う。


 距離は、遠い。


「重臣会議があった」


「存じています」


「退位の可能性が議題に上がった」


 静寂。


 驚きはない。


「そうですか」


「君は、どう思う」


 直球の問い。


「私の意見は不要です」


「不要ではない!」


 思わず声が荒れる。


「私は王だが、今は……」


 言葉が詰まる。


 リゼリアは静かに見る。


「殿下は、何を守りたいのですか」


「国だ」


「それだけですか」


 視線が揺れる。


「……光を」


「ミレイユ様を」


「そうだ」


「では、なぜ監査を止めようとしたのですか」


 静かな刃。


「彼女が傷つくからだ!」


「傷つかない光は、存在しません」


 言葉が重く落ちる。


「君は冷たい」


「ええ」


「だが君は、私を理解しない」


 その声には、怒りと悔しさが混じる。


「理解しています」


 即答。


「ですが、同意はしません」


 沈黙。


「君は国を愛していない」


 かつてと同じ言葉。


 だが今度は、迷いがある。


「愛しています」


 静かな返答。


「だから削る」


 視線を逸らさない。


「だから嫌われる覚悟をする」


 エドガーの拳が震える。


「私は……嫌われたくなかったのか」


 小さな声。


 自問。


「王は、愛される存在ではありません」


 リゼリアは言う。


「信頼される存在です」


 重い沈黙。


「君は、変わったな」


「いいえ」


 首を振る。


「変わる機会を得ただけです」


 エドガーは目を閉じる。


「もし」


 ゆっくりと言う。


「私が退位したら」


 視線を上げる。


「君は、どうする」


 迷いはない。


「制度を整えます」


「王妃にはならないのか」


「なりません」


 即答。


 空気が凍る。


「なぜだ」


「守られる立場では、足りないから」


 静かな宣言。


「私は並びたいのです」


 かつて望んだ未来。


 だが今、その隣は彼ではない。


 エドガーは苦く笑う。


「……遅かったか」


「選択は、いつもその時点での最善です」


 慰めではない。


 事実。


「だが、代償はある」


「ええ」


 扉の外で足音が止まる。


 カイルの気配。


 エドガーは立ち上がる。


「私はまだ退かない」


 低く言う。


「だが、覚悟はする」


 視線が交わる。


 そこにあるのは、敵意ではない。


 裂け目。


 かつての信頼の名残。


「……三年だ」


「はい」


「結果を見せろ」


「必ず」


 エドガーは去る。


 扉が閉まる。


 静寂。


 カイルが入ってくる。


「決裂ですか」


「いいえ」


 小さく首を振る。


「裂けただけ」


 完全には壊れていない。


 だが元には戻らない。


 王権と改革。


 光と影。


 裂け目は、広がり続ける。


 そしてその先にあるのは――退位か、再生か。


 炎は、中心へ近づいていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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