第19話 「嘘はつかない」
監査結果の公表は、三日後と決まった。
王城の大会議場。
貴族、商人、聖職者、そして民の代表。
すべてを集める。
「公開監査など前代未聞だ」
「王権の威信が傷つく」
反対の声は強い。
だがエドガーは、最終的に許可した。
「逃げれば、もっと傷つく」
低く呟いたその言葉は、誰に向けたものだったのか。
当日。
会議場は張り詰めていた。
リゼリアは壇上に立つ。
隣にクラリス。
少し離れてミレイユ。
エドガーは中央の玉座に座る。
「本日、施療院監査結果を公表します」
ざわめき。
帳簿が開かれる。
数字が読み上げられる。
「第三支部、架空人件費三名分」
「医薬品費の不当上乗せ」
「寄付金の一部が貴族連盟口座へ流入」
会議場が騒然となる。
「名を出せ!」
怒号。
クラリスが冷静に続ける。
「関与が確認されたのは、ルヴァン家および関連商会」
当該貴族の顔が青ざめる。
「証拠は!」
「こちらに」
書類を掲げる。
署名、取引記録、資金移動の証拠。
逃げ場はない。
「これは捏造だ!」
ルヴァン卿が叫ぶ。
「聖女様の名を利用するなど、私がするはずが」
その瞬間。
「利用されていたのは、私です」
ミレイユが前に出た。
白い衣が静かに揺れる。
「私は、あなたを信じていました」
静かな声。
「ですが、数字は嘘をつきません」
会議場が静まり返る。
「私は、何も知らなかった」
拳を握る。
「それでも責任はあります」
深く一礼。
「監査を受け入れます」
その姿に、民の代表がざわめく。
ルヴァン卿が後ずさる。
「殿下、これは――」
「調査委員会を設置する」
エドガーの声が響く。
「関与が認められれば、相応の処分を」
重い宣言。
ざわめきは怒号へ変わりかけるが、リゼリアが一歩前に出る。
「補助金削減は予定通り行います」
再び空気が凍る。
「不正があったからこそ、無駄を削る」
視線が集まる。
「削るという罪は、私が引き受けます」
低いが明確な声。
「ですが、嘘はつきません」
静寂。
「あなた方に約束する」
紙を掲げる。
「三年以内に国庫を立て直す」
ざわめき。
「三年後、施療院は今より健全にする」
その言葉は賭けだ。
だが迷いはない。
「もし達成できなければ」
一瞬、間を置く。
「顧問を辞任します」
会議場が揺れる。
重い宣言。
クラリスが横目で見る。
エドガーの拳が強く握られる。
「そこまで背負う必要はない」
低い声。
「必要です」
視線を返す。
「削ると決めたのは私」
沈黙。
やがて民の代表が立ち上がる。
「……三年だな」
「はい」
「見届ける」
小さな声。
だが広がる。
「見届ける」
「約束だ」
完全な支持ではない。
だが拒絶でもない。
会議は終了する。
ルヴァン卿は護衛に連行される。
会場のざわめきが遠ざかる。
控室で、リゼリアはようやく息を吐いた。
「無茶だ」
クラリスが言う。
「三年で再建は困難だ」
「不可能ではない」
「あなたは常に綱渡りをする」
「落ちない」
小さく笑う。
ミレイユが近づく。
「……ありがとうございました」
「あなたも」
短い言葉。
その時、扉の外でざわめきが起きる。
「何だ」
衛兵が駆け込む。
「ルヴァン家の私兵が城外で集結を」
空気が凍る。
「暴発か」
クラリスが呟く。
エドガーが立ち上がる。
「鎮圧を」
「待ってください」
リゼリアが止める。
「武力は最後です」
「だが」
「今はまだ、火は小さい」
視線が交わる。
判断の瞬間。
エドガーは数秒考え、命じる。
「説得隊を出せ」
武器ではなく、言葉で。
その決断に、リゼリアはわずかに安堵する。
嘘はつかない。
隠さない。
削るという罪を背負う。
だが、暴力には頼らない。
冷酷令嬢は、約束をした。
三年。
それは、彼女自身の試練でもある。
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