第73話 明かされる正体と……昇格?
「それじゃ行くよ、灯里ちゃん」
「う、うん。でもこんなの初めてだから、緊張してきちゃった」
昨日発生した30層でのイレギュラー事件。俺と灯里ちゃんは田中さんの計らいで報告を別日にずらしてもらっていたが、今日は改めて報告に来ていた。
こうしたケースは初めてだと言う灯里ちゃんの手を引いて箱根ギルドの中へと入る。
――ざわっと、ギルド内へと足を踏み入れた俺たちに、好奇の視線が一斉に向いた。
大規模なイレギュラーから一日経った今、すっかり話は広がっているようだ。
下手に話しかけられない内に、入り口近くのサービスカウンターに足を向ける。
「箱根ギルドへようこそ。何かお困りごとですか?」
「こんにちは。私たち、昨日の件でお話にきたのですが」
カウンターにいる受付嬢さんにイレギュラーの件で報告に来たと告げると、問題なく話は通っていたようで、すぐに案内がやってきた。
「お待たせいたしました。お久しぶりですね、ティア様」
「あ、この前の……」
微笑みながら俺たちの目の前に現れたのは、カラミティウルフの件の行方を教えてくれた、スーツを着た妙齢の女性だった。
「…………ほぅ。あかり様も中々の可愛さですねぇ」
「え? いま何か言いましたか?」
「いえ、何も申し上げておりませんよ? それではこちらへどうぞ」
到着早々、とても小さな声でぼそっと何かを呟いた気がするのだが、ティアの耳でも拾えなかった辺り本人の言う通り気のせいなのだろう。
彼女に連れられ、俺たちは前回の応接室へと通された。
「ふわあ……」
隣では灯里ちゃんが応接室のソファーの座り心地に、感嘆の吐息を漏らしている。
「ふふ、スリープビクーナを素材とした最高級のソファーですよ。お気に召しましたか?」
「――あ! す、すみません!」
頬を緩ませる灯里ちゃんだったが、スーツの女性の慈しむような視線に、顔を赤くさせながら座り直した。
彼女はその様子を見て一つ頷いたあとに、今回のイレギュラーに関する報告が始まった。
といっても、田中さんや最初に巻き込まれていたパーティー【紅蓮の炎】が余すことなく報告してくれていたため、実質ただの事実確認だった。
「……では、やはりティア様のステータスをお見せしていただくことは出来ませんか?」
「はい。ステータスの開示義務はありませんよね? 申し訳ありませんがお断りさせていただきます」
今は俺についての話になっている。
前回の配信を見て、ギルド側としては気になることが山ほどあるのだろうが、おいそれと開示する気はない。
一応、温泉の時に灯里ちゃんからスキルの有無の件を指摘されてから、新しく偽装したステータスは用意してある。
だがそれでも、考えなしに見せ回ってしまうと、いつかボロが出るのは灯里ちゃんで実証済みだ。ならば、見せる機会はなるべく減らしたほうが良い。
「分かりました。それを言われると、こちらとしても諦めざるを得ません」
俺の返答を予想していたのか、スーツの女性はさしたる様子もなく、あっさりと引き下がってくれた。
だが、彼女は手元のバインダーからカードのようなものを取り出し、机の上に置いて丁寧にこちらに差し出してきた。
「代わりと言ってはなんですが、こちらを受け取っていただけませんか?」
「これは一体――って、ええ!?」
そのカードを手に取った瞬間、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
それに釣られて灯里ちゃんも俺の手のカードを覗き込むと、大きな声を上げる。
「ティアちゃんの探索者カード? ……あれ、でもこれって!?」
灯里ちゃんの言う通り、渡されたカードにはティア・ロゼッティと記載されてある探索者カードだった。
それだけなら俺が今所有しているカードと同じだ。
違う点があるとすれば、このカードにはデカデカとSという文字が刻印されており、外枠がプラチナで覆われていることだ。
なにより、手触りが今までのカードと段違いに良い。
「それはティア様のSランク探索者カードになります。……といっても、現段階では仮発行なのですが」
「か、仮発行ですか?」
スーツの女性は、今度は書類を取り出して見せてくれる。
「はい。そしてこちらが、副ギルドマスターの私と、ギルドマスター両名からの推薦状となります。こちらを本部に提出し、無事に審査が通れば、晴れてティア様もSランク探索者となります」
――もっとも、すでに本部はティア様のあの獅子奮迅の活躍を知っておりますので、形だけの審査になりますが。
と、スーツの女性は最後に付け加えた。
(ていうかこの人、さらっと自分のことを副ギルドマスターって言わなかったか……?)
矢継ぎ早にどんどんと突っ込みたい情報が増えていったが、俺は一番聞きたいことを聞くために恐る恐る片手を挙げた。
「あの、Sランクって確か試験があるのでは? それに、そもそも私はCランクなのですが……」
「ええ、通常はありますよ。ですが、今回のイレギュラーの騒動の際に見せた、あの神の如きティア様を見れば試験なんて免除に決まっています。CランクからSランクへのランクアップなど世界初ですよ! やりましたね、ティア様!」
興奮するように、ふんすかと鼻を鳴らしながらこちらにグイッと顔を寄せてくる副ギルドマスターに、頭が痛くなってきた。
(あの時、みんなの前で力を見せた段階である程度の覚悟はしてたけど、まさかこんなに早く大ごとになるなんて……)
「け、けれど……面接とか、人となりもあるのでは? 強さだけでSランクが務まるとは思えませんが」
「それも問題はございません。今回の件で、すでに二度ほど探索者を救っておりますし、なにより箱根でのティア様の評判はすこぶる良いですよ! 至る所で人助けをしているティア様を見かけたと報告が多数入っております」
隣を見れば、灯里ちゃんも嬉しそうにうんうんと首を振っていた。
完全に受け取る流れになってしまっている。ステータスの開示を断った以上、こちらもいくらか譲歩するべきか。
「分かりました。謹んで、受け取らせていただきます……」
観念してカードをしまい込んだ俺を見て、大満足といった様子で笑みを浮かべていた副ギルドマスターだが、最後に一つだけと指を立ててきた。
「こちらが最後の話となりますが、Sランク探索者をお呼びして、箱根ギルドを調査してもらう運びとなりました」
今回の騒動はここ最近で一番大きなイレギュラーだったらしく、Sランク探索者に徹底的に調査してもらうらしい。
俺はまだ仮発行の身であるし、何より学生ということを加味して、その調査には加わる必要はないとのことだ。
(……別に学校には行ってないけど、ゲームの設定では15歳JKだから嘘ではないな。うん)
「これで本日のお話は以上となります。お二人とも、お疲れ様でした」
副ギルドマスターは恭しく頭を下げ、俺たちも立ち上がって頭を下げる。
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました!」
俺と灯里ちゃんは入ってきた時と同様に、灯里ちゃんの手を引いて応接室を出ていった。
「…………手を引く美少女二人も乙ですねぇ」
「――え?」
「気のせいでございますよ?」
……まだ何も言っていないのだが、背後から聞こえてきた声に振り返ると、あっけらかんとした顔で否定された。
今確実に何かを呟いたはずなのだが、嫌な感じはしなかったし大丈夫かと判断した俺は、ギルドの入り口に戻った。
「なんかどっと疲れたし、今日はもう帰ろっか」
クセの強い副ギルドマスターに翻弄されて気疲れしてしまった。
俺が入り口から出ようとすると、灯里ちゃんは手をぐいっと引っ張ってきて、顔を寄せてくる。
「ティアちゃん、30層へ潜るときに約束したでしょ! 終わったら一緒に買い物するって!」
「……あ」
色々問題が起こりすぎてすっかり忘れていたが、俺の探索者用の服を見繕ってもらうという約束をしていたのを思い出した。
「じゃあ行こ! ティアちゃんに似合うのいっぱい選んであげるからね! あとあと、ティアちゃんのSランク昇格祝もやらなきゃ!」
「……ふふ、ありがとう灯里ちゃん。でもSランク昇格は仮だからね?」
こうして、今度は俺が灯里ちゃんに手を引かれる形で、午後の日差しが差し込むショッピングモールへと、二人仲良く人混みに紛れていった。
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