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第69話 ここはどこだっけ?

「…………あ、え?」


 予期せぬ場所から登場した碧依の姿に、俺はフリーズするように固まってしまう。


 ダンジョン帰りで少し頬を上気させた彼女の視線が、灯里ちゃんに手首を掴まれている汗だくな俺へと注がれた。


 そんな風に剥製と化している俺を見つけた碧依は、途端に目を見開くように息を呑む。



「か、か、か……」


 かと思えば、突然碧依が壊れた機械のように、唇を震わせながら同じ音を連呼し始めた。



「か?」


 友人のおかしな様子に灯里ちゃんが首を傾げていると、何かに弾かれたかのように碧依がこちらへと飛んできた。



「可愛い〜っ!!」


「――うひゃあ!?」


 両手をガバッと広げた妹にダイブされた俺は、思わず仰け反るが、ティアの体幹は転倒を防いでみせる。


「この可愛い子、灯里ちゃんの知り合いなの!? うわあ! 可愛いなぁ……!」


 目と鼻の先まで触れる距離まで近づき、これでもかというくらいに俺の顔を観察しながら破顔する。


 妹から向けられた言葉に、なぜか自分が褒められたかのように灯里ちゃんが誇らしげに胸を張った。



「そうだよ! ティアちゃんって言って、私の命の恩人なの!」


「――え、命って……?」



 灯里ちゃんは俺との出会いから、今日起きたイレギュラーも含めて、かいつまんで碧依に話した。



「……そっか。そんな大変なことがあったんだね」


「うん。だから私が今ここにいるのは、ティアちゃんのおかげなの」


「あ、そういえば自己紹介がまだだったよね。あたし、桃谷碧依って言います! あたしもティアちゃんって呼んでもいい? あたしのことも碧依って呼んでほしいな!」


 話を聞いていただけだった俺に、碧依はペコっとお辞儀をしたあと、距離を詰めてきてギュッと俺の両手を握ってくる。



「う、うん……よろしくね、碧依ちゃん」


 同年代だとここまで距離が近くなるのかと、妹の意外な一面に圧倒されてしまう。


 戸惑いながらも自己紹介を返していると、隣にいる灯里ちゃんはキョロキョロと首を左右に振りながら、誰かを探すような仕草を見せた。



「そういえば碧依ちゃんがいるってことは、お兄さんも一緒にいるの?」


 (ナイス灯里ちゃん!)


 いま一番聞きたかった俺の疑問を代弁してくれた灯里ちゃんに、心のなかでサムズアップを向けた。


 我が妹はバツが悪そうな顔をしながら、手を合わせるように灯里ちゃんに懇願する。



「実はお兄ちゃんには内緒で来てて……お願い! あたしと会ったことはお兄ちゃんには内緒にしてて!」


 灯里ちゃんは少し逡巡する素振りを見せたあと、友人からの頼みは断れないのか、やがて頷いた。



「うん。それはいいけど、碧依ちゃんはソロで潜ってたの?」


「それなら大丈夫だよ! お兄ちゃんにパワーレベリングしてもらったから! 30レベルまで上げてもらったんだよ」


 少し心配を乗せた声色で碧依の身を案じてくれた灯里ちゃんに、妹は片腕をむんっと掲げて可愛らしくウィンクをした。


 結局、学校が始まるまでにコツコツレベリングをした結果、碧依のレベルを30まで引き上げることに成功していた。



「30レベルまで!? すごい! 私と一緒だね!」


「そうなんだ! じゃあ、あたしたちってレベリング仲間だね」


 二人が手を重ね合って喜んでいるが、俺は先ほどの碧依の発言を反芻していた。



 (しかしどうして内緒なんだ……? 探索者になったのは自衛目的がメインって言ってたのに)


 だが、知り合ったばかりのティアの立場で隠し事を聞き出せるわけもなく。

 そんな思考の対象である当の本人は、不思議そうな表情を浮かべながら俺たちを見てきた。



「それで、2人はこんなところで何をしてたの? あたしはいまからシャワーに行こうと思ってたんだけど」


「――あっ! そうだった! ほら、ティアちゃん、シャワー行くよ!」


 碧依の発言を受けて、思い出したように灯里ちゃんが俺を引きずろうとするが、やはり全力で抵抗する。



「あ、あうう……か、帰る」


「ええ!? そんな汗だくで帰るなんて絶対にないよ! ほら、行くよティアちゃん!」



 力の均衡が崩れた瞬間だった。

 空いているもう片方の俺の手を引っ張るように、碧依までもが参戦してきた。


 可愛い二人を振り払えるわけもなく、俺はズルズルと更衣室へと連れて行かれたのだった。



 ――だが、神は俺を見捨てていなかった。



「ええ、なんで今日に限っていっぱいなの……」


「うわあ……これは時間が掛かりそうだね」


 熱気と石鹸の混じった湿気を筆頭に、ドライヤーの音、ロッカーの開閉音、そしてひしめき合う人の気配。

 連れ込まれた更衣室内で、目を閉じている俺の耳に二人の落胆する声が入ってきた。


 どうやら今日は凄い人混みのようだ。目を閉じていても、この更衣室内にかなりの量の人がいるのが分かる。


 これ幸いと、俺は嬉々とした声色で残念がる。



「ああ〜、それじゃあ仕方ないね! ほらほら、2人とも着替えてきなよ。私は外で待ってるから」


 俺の心にもない残念そうな声を受けた灯里ちゃんは、数秒の沈黙のあとに、その口を開いた。



「……ううん、ここのシャワーは諦めるけど、ティアちゃん、ここはどこかな?」


「――へ? 禅問答……?」


 彼女の言葉の意味を噛み砕いていくが、よく分からなかった。

 隣にいる灯里ちゃんが、珍しくニヤリと、口角をつり上げたような気配を感じる。



「いまこそ、地元民の私たちにのみ許された特権を使う時だよ!」


 彼女の言葉の真意を悟ったのか、碧依が同調するように声を上げた。


「――あ、分かった! そういうことだね、灯里ちゃん!」


 そうして二人は息ぴったりに同じワードを叫ぶのだった。



「「温泉だー!!」」



 ――どうやらこの世界に、神なんていなかったようだ。

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