第7話 ティアのステータスと事件遭遇
「キャラクター選択」
相模原ダンジョン1Fの端にある小部屋で、小さく声が響く。
俺の目の前には、キャラクター選択のウィンドウが現れ、そのままティア・ロゼッティを選択する。
その瞬間、眩い光が俺の足元から立ち上り、空間そのものが淡いピンク色に染まる。
星やハート模様の煌めきが身体中を包み込み、俺の体はふわりと宙へ浮かび上がった。
弾ける星屑が俺の周囲を旋回し、身体そのものを創り変えていく。
どこからともなく現れた風に舞うリボンが、まるで意思を持つように俺の手足を包み込み、ひとすじの光となって次々に衣装へと形を変えていく。
頭は紫のリボンで結ばれたピンクのツインテールに。
続いて黄色のラインが入った白のブラウス、紫のフリル付きミニスカート、肘まで覆う紫色のラインが引かれた白いグローブ。
そしてグローブと同じデザインのニーハイソックス。
ほどよく膨らんだ胸元にはターコイズブルーの宝石がキラリと光る。
そして両腰からお尻にかけて、切れ込みが入ったピンク色の腰マント。その内側は紫色で、まるで夜空の星々を散りばめたようだ。
次にリボンの付いた可愛らしい紫色の靴。お腹部分に紫色の大きなリボンがふんわりとあしらわれる。
最後に、俺を包みこんでいた光が爆ぜるように広がった。
俺は片足を折り曲げながら上げ、片手を前に突き出し、もう片手で目の辺りに横ピースを作ってポーズを決める。
「天使☆爆誕! 輝け! 戦場のアイドル! ティア・ロゼッティ、ここに参上だよ!」
光が静まり、変身が完了する。
――いやなんでやねん!
急に変身バンクみたいなのが始まったから、ついノリで口上を垂れてしまった。
まさか毎回こんな変身じゃないよな?
ツッコミもそこそこに、俺はステータスを表示させる。
「ステータスオープン」
名前 : ティア・ロゼッティ
職業 :アイドル
クラン:未所属
レベル:603
HP :999,999+
MP :999,999+
STR :999,999+
DEF :999,999+
DEX :999,999+
INT :999,999+
LUK :999,999+
◆スキル
・アイテムボックス
・キャラクター選択【メイクアップ】
◆リンクスキル
・共有する魂【ソウルコネクト】
┗リンク先:【桃谷 天霧】
◆【アイドル魔法】▶(10+)
◆【竜姫魔法】▶(10+)
◆【天使魔法】▶(10+)
◆【生活魔法】▶(6)
◆称号
【戦場でもアイドル】
【竜巫女姫】
【天使な女子高生】
……うん。もう、ね。こういう時なんて言えば良いのか分かんない。とりあえず笑っとこう。
★✫★✫
俺は、目の前に浮かぶティアのとんでもステータスを呆然と見続けていたが、ふと、職業に目がいった。
「職業はアイドル、そういえばそんな設定だったな」
ゲームでのティアは普段は女子高生、裏の顔は今をときめくスーパーアイドル。という設定だった。
次にステータスをじっくりと見る。
「ステータスも全部カンストしてるし、+ってことは正確にはもっとあるってことだよな」
ティアのステータスの正確な値は、俺に反映されている分から逆算すれば正確な数字が分かるだろうけど、問題は四つの魔法だな。
▶表記の横の数字は魔法の数ってことだろうか?
俺は試しに一番数が少ない生活魔法をタップしてみる。
◆【アイドル魔法】▶(10+)
◆【竜姫魔法】▶(10+)
◆【天使魔法】▶(10+)
◆【生活魔法】▼(6)
・ウィンド
・ウォーター
・クリーン
・ティンダー
・ヒート
・ライト
「やっぱり、魔法スキルの数だったか。……てことは他の魔法は全て10個以上あるわけだな。よし、見てみるか」
骨が折れそうな作業だと覚悟しながら、俺は残りのアイドル、竜姫、天使をそれぞれタップしていく。
そして、あることに気づいた。
「あれ? ティアのスキル、全部知ってるぞ……もしかしてこれもゲームの設定通りなのか?」
そもそもティア・ロゼッティという女の子は、俺が製作した処女作である〚天使☆爆誕! 輝け! 戦場のアイドル!〛というタイトルに登場するゲームキャラである。
そこからきているなら、知っているスキルがあるのも頷ける。
「しかし昔の俺は気合い入ってるなぁ。スキルの数が尋常じゃないぞ。まあ処女作だったしな、売れると信じて、設定まで凝りに凝ったもんなぁ……」
その結果、売上0本の大爆死だったわけだ。
しかしそうなると、スキルの効果が俄然気になってきた。売れなかった原因は、返品理由に『デザインと動きが酷すぎて、何してるか分からない』といった内容が多数だったからだ。
そんなことを考えていると本日二体目のツノウサギが小部屋へ入ってくる。
ちょうどいいタイミングだ。早速使ってみよう。
「よし、どうせだから、派手そうなスキルを使ってみよう。……ドキドキしてきた。いくぞ! 超激の矢!」
天使魔法の一つであるスキルを叫んだ瞬間、白い輝きを凝縮した光の弓が俺の手に現れる。
そのまま光の弦を引いて狙いをツノウサギに定める。
弦を離した瞬間シャンと気持ちの良い音が鳴り、一筋の輝く光線がツノウサギへと放たれる。
光線がツノウサギに着弾すると同時に、目を覆うような光が炸裂し耳を劈くような轟音と振動が身体中を激しく駆け巡る。
「うおおおおおお!?」
俺は思わず耳を塞ぎしゃがみ込む。
轟音が鳴り止み光が収まると、そこにはクレーターが広がっていた。
「おお! 凄い! 凄いぞ!」
俺は興奮しその場で両手を突き上げた。俺が1人で作った酷い挙動のスキルが、こんなにもイメージ通りに再現されるとは思っていなかった。
なんならイメージ以上だった。
俺は興奮冷めやらぬままクレーターに近づくと、穴の真ん中に魔石が落ちていることに気付く。
取りたいが深さは目視で五メートルはある。諦めようと考えたが、すぐにとんでもステータスを思い出し、さっと回収に向かう。
「5mの深さも片足で着地! そのままジャンプでほいっ!」
魔石を回収した俺は、クレーターからジャンプで脱出する。
ヒラヒラとスカートを靡かせながら綺麗に着地した俺は、あることに気付く。
スカートの下……どうなってるのかな?
「いやいやいや、待ってくれ! 俺は変態じゃない! 純粋に気になるんだ! そう! 危機感という意味で!」
誰に弁明するわけでもなく、俺は早口で独り言をまくし立てた。
だって今は俺の身体だし、超絶美少女ですし!
こんな娘が、パンツをチラチラさせながら戦ってたら、周りの男からどんな目で見られるか、たまったもんじゃないよ! お子様の情操教育的に良くないと思うし! お子様なんてダンジョンにいないけどね!
徐ろにスマホを取り出した俺は、若干鼻息を荒くさせながらカメラアプリを起動する。
「確認は大事! そう、これは必要なことだから! 必要なことだから!!」
本当に誰に弁明しているのか、俺は恐る恐るスカートの中にスマホを差し入れる。
傍から見ればダンジョンの隅っこで変態な自撮りをしている残念美少女だが、誰も見ていないので良しとしよう。
俺は震える手でシャッターを切り、撮った写真を確認する。
――ゴクリ。
生唾を飲み込みゆっくり目を開けると、そこにはピンクの下着……ではなく、ピンクのアンダースコートらしきものが写っていた。
俺はスカートの中にへそ側から手を突っ込む。
うん。確かにアンダースコートの中にもう一枚ある。
というか、最初からこうやって確認すれば良かったかもしれない。
「ホッとしたような、しないような、アンスコって正直パンツと何が違うの?って思う派だしな」
とりあえず、パンツ問題は一旦アンスコ履いてるからセーフということで、スキル確認の続きに戻ろう。
★✫★✫
「ふう、こんなものかな……」
俺は4、5時間ほど掛けて、山ほどあったスキルの確認を終えた。
スキル確認に結構な時間が掛かってしまったけど、一つ一つ詳細画面を見たおかげで、大体の効果は把握することができた。
この場で試せないスキルもあったけど、面白いスキルが山程あったな。
その効果を実際にもう一度見てみるか。まずはアレから確認だな。
「ステータスオープン」
俺はスキル効果の確認のために、ステータスを表示させる。半透明のウィンドウが俺の目の前に現れる。
名前 : ティア・ロゼッティ
職業 :高校生
クラン:未所属
レベル:30
HP :3,747
MP :1,578
STR :2,250
DEF :2,021
DEX :1,914
INT :2,000
LUK :346
◆スキル
無し
「うん、ちゃんと設定した通りに機能してるな」
これは、百の仮面【ペルソナヴェール】というスキルを使用した結果だ。偽装、隠蔽系のスキルで、ステータスの数値や表記を自由に書き換えられるようになった。
この状態でも本来のステータスを維持できているのは既に確認済みだ。
それに、この数値なら万が一、ステータスを見せる場面になっても大丈夫だろう。
「とりあえず、ステータスを公開しているインフルエンサーさん達のステータスを参考にさせてもらったけど、どこからどう見ても、立派な中堅探索者のステータスになったな」
ステータスをチェックし終えた俺は、次のスキルを確認する。
「このスキルも面白いんだよな、浮遊する身体」
スキル名を呟いた途端、俺の身体がふわっと浮かび上がり、空中を優雅に飛び回る。
「空中移動もだいぶ慣れてきたぞ。気持ち良い〜!!」
エンジェルリフトは空を飛ぶスキルだ。ちなみに天使の羽は生えていない。
急上昇、急降下、急加速、急停止と、一通り試し、思い通りに飛べるようになったことを確認したところで、小部屋にツノウサギが入ってきた。
俺は空を飛んだまま、ツノウサギに気づかれないよう、その背後へと綺麗に着地を決める。
「ほい、デコピン」
ツノウサギは、背後からの俺のデコピンに気づかず、その一撃で靄となり消える。……正確にはデコではなく、後頭部だったけど。
靄が晴れると、そこには小さな魔石が落ちていた。
「また魔石だ、ラッキー!【アイテムボックス】」
俺はアイテムボックスを使い、魔石を放り込む。
アイテムボックスは文字通り、アイテムを収納するスキルだ。
ボックスと言っても実際は箱ではなく、闇の空間のようになっていて、そこに入れる形だ。
ちなみに収納している数がウィンドウで表示される。
――アイテムボックス
・ツノウサギの魔石×50
・ツノウサギの角×12
「いまので魔石が丁度50個か」
この検証の間に、結構な数のツノウサギがやってきたので、全て倒していたらこんな数になった。
アイテムボックスがなければ、この魔石をすべて持ち帰ることはできなかっただろうから、とても重宝するスキルだ。
ただ、アイテムボックスはまだ存在が確認されていないスキルなので、人に見られないように工夫する必要はあるだろう。
そして、ツノウサギの魔石でも、五十個もあれば結構な額になる。
この喜びを表現するにはこのスキルがもってこいだ。
「とびっきりの〜! 八方美人!」
アイドルスマイルと叫んだ瞬間、何も起こらない。
――わけではなく、俺はスマホをインカメラモードで起動し、さまざまな角度から写真をパシャパシャと数枚撮る。
俺は一つ一つ写真を確認する。そこに写っていたのは、笑顔弾ける天真爛漫な超絶美少女だ。
他にもニヒルな笑みや、顔を上気させ、はにかむような笑みだったり、無表情であるはずなのにどこか目を離せなくなる姿だったり。
要するに、とんでもなく写真映えするスキルだ。
光源も用意せず、それもダンジョン内で撮った写真とは誰も思わないだろう。
「SNSをしない俺が、これほど完璧な自撮りを撮れるなんてな……しかし本当に美少女だな君は」
最高に輝いている自分の写真を見つめていると、夕暮れ時のいい時間なのに気づく。
「もうこんな時間か、十分検証もできたし、そろそろ帰るか」
俺はそのまま小部屋から出て、来た道を引き返す。
暫く歩いていると、帰り道も後半に差し掛かった辺りだろうか、通りがかった横の小部屋からドスドスと何かが当たるような音と同時に悲鳴が聞こえた。
少し気になったので、俺は小部屋の影から頭だけを入れ、中の様子を窺うと……
「ええええ!?」
高校生くらいの若い女の子が、複数のツノウサギにドスドスと体当たりされて、まさに気絶した瞬間の現場だった。
読んでくださりありがとうございます。
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※本日も3話投稿予定です。お楽しみください。




