第68話 な……なんでここに!?
「な……なんですって!?」
「先ほど申した通りだ。我々は箱根ダンジョン地下30層にて大量のモンスターと交戦した。その際、Sランクモンスターも混ざっていたが、どうにか討伐した」
田中さんの帰還スクロールによってダンジョン一層に戻った俺たちは、その足で退場ゲートの受付嬢さんに報告をしていた。
今は一番ランクの高い彼が代表する形で説明してくれている。
「なぜ30層にそんなモンスターが……間違いではないのですね?」
最初は怪訝そうな顔をしていた受付嬢さんだが、田中さんの報告を聞くにつれて、どんどん険しい顔つきへと変わっていった。
「うむ。この場にいる我々全員が証人であり、当事者だ。なによりLDカメラに全て映っているだろう。レベル付きでな……それと、繰り返すが既に討伐済みだ。その後30層を隈なく調べたが、異常はなかった」
「分かりました。――それにしても、突然のイレギュラーにも関わらず、Sランクモンスターを討伐したのは素晴らしいことです。さすがは今最も勢いのあるAランクパーティーの田中さんたちですね」
そんな険しい顔も、AランクパーティーがSランクモンスターを討伐したと聞いて少しほころんでいく。
だが、田中さんは眼鏡のブリッジをクイッと上げ直してから訂正するように首を横に振る。
「ふむ。そのことだが……どうせ黙っていても、配信のアーカイブが回れば分かることだから話すが」
一度言葉を区切り、田中さんは俺の顔を見てきた。
どのみち、もはや隠せないことだ。俺はそれに小さく頷く。
「確かに倒したことは倒した。だが、その功績は私たちではなく、そこにいるティア君一人によるものだ」
「――はい?」
田中さんが俺へと掌を向けながら受付嬢さんに説明するが、説明を受けた当の本人は、その内容にポカンと口を開け、目が点になっていた。
「か、確認いたしますが、そちらのティアさんがSランクモンスターを倒されたと……それもお一人でですか?」
「うむ。その通りだ。先ほども言ったが、LDカメラの映像を見れば全て分かることだ」
Aランクである田中さんの、さもありなんという断定的な口調に、受付嬢さんは手元の端末を叩き始めた。
「か、かしこまりました。それでは皆さま、事態が事態ですので、別室にて詳細なヒアリングをお願いいたします」
彼女がカウンター下のボタンを押すと、ほどなくして奥の扉から男性職員が駆け寄ってきた。
前回のスーツの女性が現れるかと思ったが、どうやらまた別の人のようだ。
受付嬢さんから引き継いだ男性職員は、俺たちを別室へと促すように移動する。
重厚な職員専用ドアの向こうへと案内しようとしたその時、田中さんが制止の声を上げた。
「ふむ、少し待ってほしい。彼女たちは今回の立役者であり、なにより一番疲弊しているはずだ。一刻も早く休ませてやりたい。今日のところは私たちと、最初に襲撃を受けた者たちだけでも事足りるだろう」
眼鏡をクイッと上げた田中さんが、俺と灯里ちゃんを気遣うように前に出てくれる。
別室へと案内しようとしていた職員は少し考える素振りを見せたあと、快く頷いてくれた。
「かしこまりました。そういうことでしたら、功労者の体調を優先いたしましょう。ではそちらのお嬢さん方はまた後日ということでよろしくお願いいたします」
そう言って俺と灯里ちゃんを残して、彼らはギルド職員専用のエレベーターへと消えていった。
「どうやら田中さんたちに気を遣ってもらっちゃったみたいだね」
「う、うん。私も報告なんて何話せばいいか分からなかったから、助かっちゃった……」
張り詰めていた空気が一気に抜けていく。
自然と顔を見合わせた俺たちは、そのまま退場ゲートを抜けたところで一息ついた。
灯里ちゃんと田中さんの配信は、ゲートに着いた時点で終了している。俺も衣装を日常用に戻していたが、戦闘の余韻はまだ身体に残ったままだった。
(今日はどっと疲れた……この身体でこんなに汗をかいたのは初めてだな)
ピンクの髪は首筋にべったりと張り付き、ブラウスの下で肌が服を吸い寄せる不快感に眉が寄る。
一刻も早く帰って風呂に飛び込みたい俺は、逸る気持ちを言葉に乗せた。
「それじゃ灯里ちゃん、今日はここで解散にしよっか。それと、ずらしてもらった報告だけど、明日は日曜日だし、用事がなかったら一緒に報告に行こ?」
「うん。それは私からお願いしたいくらいだけど――って、え!? ティアちゃんシャワー浴びないで帰るの!? すっごく汗だくに見えるよ?」
「大丈夫大丈夫。それじゃあまたね」
灯里ちゃんに手を振って入り口の方へと向かうと、彼女は驚くほどの力強さで俺の手首を掴み、グイッと引き寄せた。
「ダメ! 女の子がそんな汗だくなんて絶対ダメだよ! ほら、ギルドのシャワーだけでも浴びて帰ろ!」
こちらの手を取ったまま女子更衣室の方へと引っ張っていこうとする灯里ちゃんに対し、血の気が引くのを感じた俺は踏ん張って抵抗した。
「だ、大丈夫だよ。シャワーなら家に帰ってから浴びるから!」
それでも灯里ちゃんは断固として譲らない意志を見せるが、俺にも俺で譲れないものがある。
だが、彼女の細腕を無理やり振り払うわけにもいかず、途方に暮れていると、後ろからとても聞き覚えのある声がこちらへ向けて投げかけられる。
「あれ? 灯里ちゃん?」
その声は灯里ちゃんもよく聞き覚えがあるようで、驚いたように俺と同時に後ろを振り向いて、その人物の名を嬉しそうに呼んだ。
「碧依ちゃん! 碧依ちゃんも箱根ダンジョンに来てたんだ!」
一体どういう訳か、俺の天使な妹が箱根ダンジョンの退場ゲートから出てきたところだった。
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