第66話 本気のティア
「…………衣装選択」
俺は正面のデスリーパーを見据えながらスキルワードを唱えた。
その途端、石造りの大広間を隅々まで照らすほどの眩い光が俺の足元から立ち上り、周囲の空間そのものが淡いピンク色に染まる。
輝く星やハート模様の煌めきが身体中を包み込み、俺の体はふわりと宙へ浮かび上がった。
現在の服は粒子となって弾けるように消えていき、流れる星屑が俺の周囲を旋回していく。
どこからともなく現れた風に舞うリボンが、一つ一つ俺の手足を包み込み、ひとすじの光となって次々に衣装へと形を変えていく。
頭は紫のリボンで結ばれたピンクのツインテールに。
続いて黄色のラインが入った白のブラウス、紫のフリル付きミニスカート、肘まで覆う紫色のラインが引かれた白いグローブ。
そしてグローブと同じデザインのニーハイソックス。
ほどよく膨らんだ胸元にはターコイズブルーの宝石がキラリと光る。
そして両腰からお尻にかけて、切れ込みが入ったピンク色の腰マント。その内側は紫色で、まるで夜空の星々を散りばめたようだ。
次にリボンの付いた可愛らしい紫色の靴。お腹部分に紫色の大きなリボンがふんわりとあしらわれる。
最後に、俺を包み込んでいた光が爆ぜるように広がった。
――ふわりと、変身を終えた俺は空中から着地する。
「――ァァァ!?」
変身した俺を見た途端、デスリーパーは虚空から新たな鎌を再生成させて構え直す。
その顎はガタガタと震えているように見える。
「――アアアアアアアア!!」
奴が鼓膜を突き刺すような咆哮を上げると、いつの間にか下がっていたモンスターの大群が群れをなして向かってきた。
「なるほど、お前が指揮官のようなものか」
地響きを立てて迫る群れを前に一人呟いていると、背後から田中さんの呆然とした声が届く。
「ティ、ティア君! その姿は一体……いや、私も戦うぞ!」
俺は後ろを振り向き、制するように声を投げた。
「田中さんはそのまま皆さんを守っていただけますか? ――万が一にもそっちにモンスターを寄越すつもりはありませんけど、念のためにお願いします」
「な、何を言って――」
それだけ言い残して正面を向くと、すでにモンスターの大群が眼前まで迫ってきていた。
その光景を前に、俺はただ両手を前にかざした。
「……呼び覚ますは、三つの脈動」
竜姫魔法である一つを唱えると同時に、かざした両手から三色の魔法陣が出現し、目と鼻の先まで迫っていたモンスターたちを弾き飛ばした。
「個々の竜が持つ力は異なれど、竜姫の名の下で一つとなり、無尽の力を解き放つ」
赤、青、緑と、三色の魔法陣は脈動し、大きく広がっていく。
「――昇れ! 奔騰する三幻竜!!」
最後のスキルワードがキーとなり、それぞれ限界まで広がった魔法陣から三体の竜が飛び出した。
その体は、炎、水、風と全てがエネルギーで構成されている。
「……いけ!」
「「「ルゥゥォォォォォォン!!」」」
俺の指示に応え、それぞれ雄叫びを上げながら前方のモンスターたちへ向かっていく。
深紅の竜が口を開けば、石の床が溶岩へと変わるほどの超高熱が空間を焼き尽くす。
蒼穹の竜が天に鳴けば、絶対零度の氷槍が雨となって降り注ぎ、モンスターを氷の彫像へと変えていく。
そして翠緑の竜が駆け抜けた後には、すべてを切り刻む真空の衝撃波が広がった。
それぞれの竜が、大広間を戦場へと染め上げる。
そんな地獄の光景の隙間を縫うように、黒い影が俺の横をすり抜けようとするのが見える。
「超速移動!」
その姿が見えた瞬間、小さな炎の残滓を残しながら地面を踏み出す。
最大限まで強化された俺の素早さは、懲りずに田中さん達の方へ向かおうとしているデスリーパーへと、刹那の内に追いついた。
「――ァァァ!?」
「遅い」
驚愕に固まる奴のボロ切れを掴み、背負い投げの要領で石床に叩きつける。
ドゴンッ! と大きな衝撃音を上げながら、デスリーパーの体は地面を砕いてめり込んだ。
「――ァ!?」
呻く間も与えるつもりはない。腰を落とし、全力で拳を引いた。
「消えろ。爆発する拳!」
叩きつけられた拳が、着弾点から大爆発を引き起こし、大広間を激震が走り抜いた。
「――アアアアアアアア!?」
断末魔すら飲み込むほどの爆炎が吹き荒れ、デスリーパーはその身体を黒い靄へと変えていった。
「大分数が減ったけど……まだ多いな」
デスリーパーの靄を見届けたあと、前方の戦場に目を向ければまだまだ敵モンスターが多く残っていた。
三体の竜が圧倒的な力で暴れているが、ちまちま待っているつもりはない。
「超激の矢!」
スキルワードを唱えた俺の左手に、純白の光弓が顕現する。
おもむろに弦を引くと光の矢が形成され、輝く白い光が矢じりへと凝縮されていく。
輝く弓を引き絞ったまま、大きく跳躍した。
天井スレスレまで到達した俺は、眼下で逃げ惑うモンスターの群れを冷静に収める。
「……あの辺りでいいか」
弦を離した瞬間、シャンッと気持ちの良い音が鳴り響き、空から解き放たれた一筋の輝く光線が、群れのど真ん中へと放たれる。
光線が地面に着弾すると同時に、収束された光が一気に解放された。
――その瞬間、視界のすべてがホワイトアウトした。
「「「「「――グオアアアアアアア!?」」」」」
目を覆う光が炸裂し、耳をつんざく轟音と振動が、30層全体を揺さぶるように激しく駆け巡る。
……やがて光が収まると、そこにはもう、モンスターの影はどこにもなかった。
「……ふぅ。皆さん、大丈夫でした――か」
「「「「「…………」」」」」
熱を帯びた空気を吐き出しながら背後を振り向くと、全員が唖然とした表情でこちらを見ていた。
(――ま、不味い!! 完全に切れてやりすぎた!!)
「あ、えっと」
この空気はどうすればいいのか、悩みに悩んだ俺は、大きく息を吸う。
「――――えへっ!」
とりあえず八方美人をフル稼働させた全力の笑顔とウィンクを振り撒いた。
(や、やっぱり苦しいか……?)
一拍遅れて、男性陣が一斉に腕を空に突き上げた。
「「「「おおおおおおおお!!!!」」」」
しっかりとポーズを決めながらウィンクしたのが効いたのかは不明だが、男衆が大きな声を上げながらまるで勝鬨を上げるかの如く騒ぎ出した。
「ティアちゃんこんな強かったんか! Cランクって絶対ウソやろ!? ホンマ人が悪いで〜?」
「ふむ。さすがの私も驚かされてしまったよ。まるでSランク探索者の戦闘のようだった……いや、それすらも超えていたように見えたよ」
「め、女神様だ……」
「いや、天使様だろ」
「いいや違う、ティア様だ!」
それぞれが生き残った喜びを噛み締めながら、思い思いの言葉を投げかけてくる。
「ティアちゃ〜ん!!」
「え? うわっ!? あかりちゃん!?」
男性陣の光景に頬を搔いて苦笑していると、灯里ちゃんがロケットのような勢いでダイブしてきた。
「ちょちょ、ちょっと!? 苦しいよ!?」
凄まじい衝撃を体幹の強いティアの身体は難なく受け止めるが、灯里ちゃんは息つく暇もなくギュッと抱きしめてきた。
「あらあら、微笑ましい光景ね」
そんな俺たちを優しい眼差しを向けながら近づいてきた七海さんは、俺の体に手を当てヒールをかけてくれた。
七海さんにお礼を言ったあと、いまだ抱きついたままの彼女の頭に手を当てて優しく撫でる。
「ごめんね、守れなくて」
デスリーパーの攻撃から守れなかったことを謝ると、顔だけガバッと跳ね上げた灯里ちゃんは、ここぞとばかりに反論する。
「それは違うよ!! 私がここに来たいって言ったんだから! それに私だって探索者だから、そんな可能性があるのもちゃんと理解してたよ……だから、謝るのは私だよ」
そう言って、灯里ちゃんは再び俺の胸元に顔を埋めてしまった。
どうしたものかと困り果てていると、田中さんが注目を集めるように手をパンパンと打ち鳴らした。
「とりあえず、今はこの場から離れることを優先しよう。全員私の側に来てくれ! 帰還スクロールを使う!」
「ま、待ってくれ! まだ仲間がいるんだ」
「この騒ぎの前に急に消えちゃって……」
「……ふむ? 詳しく話してくれ」
田中さんがスクロールを取り出そうとしたところで、最初に襲われていた探索者たちが次々と事情を説明していく。
話を聞くにどうやら元々は五人パーティーで、戦闘の直前に一人が消えたそうだ。
その際、消えた仲間の足元に、一瞬だが紫色の魔法陣のようなものが浮かんだのが見えたらしい。
その直後にデザートスコルピに襲われて、そこを俺たちが駆けつけた……とのことだった。
「全員、一塊になってそれぞれ注意深く行動してくれ」
俺たちは全員でこの階層を隈無く探したが、消えた探索者の姿はどこにもなかった。
「……これ以上の捜索は無理だろう。二次災害を招く可能性もある。辛いかもしれないが、受け入れてほしい」
首を横に振りながら重々しく告げる田中さんの言葉に、四人は唇をかみしめながらも、絞り出すように頷いた。
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