第63話 背中に全てを残して
「まずはお前たちの分断だ!」
石造りの床を蹴り、高速で駆け抜ける俺は、目の前の探索者をその凶悪なハサミで捕らえようとしているデザートスコルピに狙いを定める。
「はぁ!!」
肉薄した勢いを一切殺さず、真っ向からタックルを叩き込む。
「――ギッ!?」
ドゴォッ! と鈍い衝撃音が広間に反響し、重戦車のような巨体が壁際まで吹き飛んだ。
壁に叩きつけられた衝撃でパラパラと天井から砂埃が舞うが、奴はすぐさま身を捩り、どす黒い敵意を宿してこちらを睨みつける。
「……ギギギ!!」
「あかりちゃん、そっちはお願い! でも無理はしちゃダメだよ!」
やはり見た目通り硬いモンスターのようだ。肩に残る感触は、まるで鋼鉄の塊を打ったかのように響いている。
それでも分断するには十分の距離が開けただろう。
「うん! 任せて!」
灯里ちゃんの頼もしい声を背中越しで受け、俺は壁へと吹き飛ばしたデザートスコルピに向かって距離を詰める。
「ギシャア!」
俺の接近を拒むようにハサミを連続で振り回してくる。
「うん。……見える」
デタラメに振り回されたハサミを全て目で見て避けていく。
右からの横薙ぎを、上体をわずかに反らして風が頬をかすめていくほどのギリギリで回避する。
直後に放たれた正面への刺突は、円を描くようなステップで軽やかに受け流す。
「ギギ……」
奴の動きが、一瞬だけ止まる。
よく見れば、その自慢の外殻には無数の亀裂が走り、動くたびにポロポロと硬質の破片がこぼれ落ちていた。
「さっきのタックルで結構ダメージが入ってたみたいだな」
徐々に精彩を欠いていく連続攻撃の隙間を縫うように、一気に距離を詰める。
「ギィ!!」
――刹那。
これまでの鈍重さが嘘のような速度で、奴の尻尾の先端が跳ねた。
空気を震わせ、どろりとした紫色の液体が放たれる。
「甘いっ!」
鼻を突く刺激臭を察知し、即座に真上へ跳躍して避ける。
着弾した液体が地面を焼き、ジュッと嫌な音を立てる光景を眼下に収めると、思わず冷や汗が流れた。
「ギギィ!」
空中に逃げた俺を逃すまいと、今度は尻尾先端の巨大な針を刺すように突き出してきた。
「その尻尾は最初から警戒していたんだよ!」
「――ギィ!?」
空中で身体を鋭く一回転させ、向かってくる針の側面を、旋回する脚で強く蹴り弾いた。
そのまま着地した勢いをバネに変え、一気に拳が届く距離まで肉薄する。
「こいつで終わりだ!」
俺の全力で放たれた正拳突きが、奴のヒビ割れた外殻にメキメキと音を立てながら容赦なくめり込む。
瞬く間にデザートスコルピの身体にヒビが広がっていき、やがて完全に砕き散った。
「ギシャアアアア!?」
大きな断末魔が広間を揺らし、奴は黒い靄となって消えていく。
「――あっちは!?」
その様子を最後まで見届けずに、急いでもう一体のデザートスコルピの様子を見る。
「やあ! ……か、硬い!」
「君、下がって! ファイアストーム!!」
灯里ちゃんの刀が火花を散らして弾かれ、彼女が後退した直後――
巨大な炎の嵐が奴を飲み込んだ。
救援に入った女性探索者の切り札だろう。髪が焦げるような熱波がここまで届いた。
遠目から見てもかなりの威力なのが見て取れる。
(おお! やったんじゃないか!?)
救援に向かいかけていた足が一旦止まる。
――だが、炎の嵐が解けた途端、奴は凄まじい勢いで先ほどの魔法を放った女性に肉薄した。
「……そんな!? 私の切り札なのに!」
「ギシャア!!」
衝撃波のような叫びとともに放たれたハサミが、女性を捕らえてしまった。
「きゃあああああ!!」
(――って、見てる場合じゃない!)
このままでは女性が真っ二つにされてしまう。
地面を爆破させるように蹴り、最短距離を突っ走る。
「くそ! 飯田を離せこんちくしょう!!」
仲間の男がハンマーを振るうが、奴はそんな攻撃などお構い無しにハサミを絞め続けた。
「どいてください!」
デザートスコルピを射程圏内に捉えた俺は、全神経を指先に集中させ、鋭利な手刀を振り下ろす。
「せいやっ!!」
繰り出された手刀は瓦割りの如く、デザートスコルピの太い腕を節から容易く断ち切った。
――パキンッ!!
澄んだ硬質な音が鳴り響いたかと思えば、探索者を捕らえていた太い腕が吹き飛んでいく。
「ギシャアアアア!?」
「これでトドメだ!」
腕を切り落とされ、悶絶する奴の横っ面に回し蹴りを叩き込む。
壁に激しく激突したデザートスコルピは、その衝撃で完全に絶命した。
「――あっ!」
空中に放り出された探索者は大丈夫だろうかと急いで振り返ると、空には二つの影があった。
「大丈夫ですか!?」
「は……はい」
空中でキャッチされ、お姫様抱っこの形で救出されていたのは女性探索者。そして彼女を抱えていたのは――
「あかりちゃんナイスキャッチだよ!」
「えへへ、これくらいはしないとね」
綺麗に着地した灯里ちゃんに近づいて合流する。
腕に抱えられていた女性はゆっくりと下ろされ、まるでお姫様のような表情で灯里ちゃんを見上げていた。
……気のせいか、女性の顔が赤くなっているように見えた。
その様子に苦笑しているのも束の間。突如として響いた地鳴りが全てを塗りつぶした。
俺たちが入ってきた通路から、尋常ではない数の足音と咆哮が聞こえてくる。
何事かと全員で通路の方に目を向けていると、ワラワラと追加のモンスターたちが大広間を埋め尽くす勢いでなだれ込んできた。
「――な、なんだこいつら!!」
「今度はなんなの!?」
「くそ! 本当にどうなってんだよ!!」
「もうダメだ……おしまいだ……」
「ティ……ティアちゃん」
「あかりちゃん、私のそばから離れないで!」
そのモンスターはどれも見覚えのある奴ばかりだったが、その種類が明らかにおかしい。
40層に出てくるハードシェルクラブに、50層に出てくるはずのミスティックオウルや、カルムマンティスまで様々だった。
「なんだよこいつら! なんで全部レベルが高いんだよ!!」
「Aランクモンスターも混ざってるじゃないか!」
「Cランクの私たちじゃ無理よ!」
「父さん……母さん……ごめん」
(どうする……この数は流石に厳しいかもしれない。逃げる……いや、こいつらは俺たちが入って来た通路から来たんだ)
逃げ道は塞がっている。なら先へ進むべきか?
――いやそれもダメだ、階段まではまだ距離がある。
とてもじゃないが、この場の全員で移動したんじゃ間に合わない。
俺が葛藤している間にも、次々とモンスターは増えていく。
「ギシャア!!」「ゴアア!」「キィ!!」
「き、きたぞ!!」
「くそが! やるならやってみやがれ!!」
「もう……ダメだよ……」
「最後まで諦めちゃダメ!!」
「わ、私も戦うよ!!」
「――っ注目の的!!」
モンスターたちが一斉にこちらへと向かってきた瞬間、俺は咄嗟に挑発魔法である注目の的を使用する。
全てのモンスターの殺気が、針のように俺一人に突き刺さった。
レベル差がありすぎる。このまま灯里ちゃんや彼らを戦わせる訳にはいかない。
「みんなはそこを絶対に動かないで!!」
「ティアちゃん!?」
全てを俺一人で受け持つと決め、大広間の中央へと躍り出る。
「こいっ!!」
モンスターたちが一斉に襲いかかってきたのは、俺の掛け声と同時だった。
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