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第60話 帰ってきたあわわ人形!

 俺の目の前では灯里ちゃんが発声練習をしている。

 現在は箱根ダンジョン第一層入り口階段のすぐ脇だ。


 皆LD配信者なのだろう。周囲では同じように発声練習をする配信者たちの声が飛び交っている



「ティアちゃーん!」


 準備が済んだようで、灯里ちゃんはLDカメラを起動しながらこちらに合図を送ってくる。


 俺もそれに応えて一つ頷き、心の準備をする。


 (一応、カメラ映えする八方美人(アイドルスマイル)は使っておいたけど……やっぱり断るべきだったかなぁ)


 頬を撫でる風がやけに冷たく感じる。これから始まるとある試みに対し、緊張からか、喉の奥がキュッと鳴った。


「いや……引き受けた以上、全力でやるのみだ」


 自分に言い聞かせるように呟き、覚悟を決めて灯里ちゃんの隣に並び立つ。



「それじゃ配信するね。ティアちゃん、準備はいい?」


「う、うん。いつでも」



 俺の返事を聞いて灯里ちゃんは頷いたあと、LDカメラを配信モードへ切り替えた。

 その途端、灯里ちゃんはパッと配信者の顔つきに変わった。

 

「はい皆さんこんあか〜!」


「こ、こんティア〜……」


「あかりと〜?」「ティ、ティアのー!」

 「「LD配信のお時間だよ〜!!」」



 練習通り、左右対称の決めポーズ。カメラのレンズを見据え、火が出るほど恥ずかしいのを堪えて全力のウィンクをブチかます。



 (――や、やっぱり恥ずかしい!! 折角だからって頼まれたけど、安請け合いするんじゃなかったかも……)


 配信者って凄いんだな……

 心臓がバクバクと暴れまわっている俺とは対照的に、まるで照れていない様子を見せる隣の灯里ちゃんへ、俺はそっと心の中で称賛を贈った。



 とはいえ、コメントは結構な勢いで流れているので、恥のかき損でないのが唯一の救いだろうか。

「ティアちゃん!?」「きゃわすぎ!!」「2人ともマジ可愛い」


 ……しかし、俺を褒める文字を目にするたびに少しずつ顔の火照りが引いていき、代わりに妙な高揚感が湧いてくるのは何なのだろうか。


 配信は恒例のオープニングトークへと進み、灯里ちゃんの新衣装を褒める声が聞こえたり、その流れで新衣装スパチャという謎文化に発展したりと大騒ぎだ。



「えへへ、今日はサプライズコラボだからみんな驚いたでしょ! ……と、いうことで! 今日は更新されたばかりの30層へ向かいまーす!」


「い、いえーい」


 ハイテンションで空に手を突き上げる灯里ちゃんに倣い、俺もぎこちなく拳を上げる。


 熱気に当てられたせいか、それでも少しずつこの空気感にも慣れてきた気がする。……気がするだけかもしれないが。



「それじゃティアちゃん。今回もお願いします」


 トークが一段落すると、灯里ちゃんがトテトテと近づいてくる。


「う、うん。どうぞ」


 くるっと背中を差し出すと、彼女の細腕が俺の首筋に回された。


 もはや彼女の配信でのお家芸だろう。コメントも「おんぶきたー!」「美少女トレイン再び」など盛り上がっている。


 (……なんだ美少女トレインって)


 そんな呑気なことを考えていた、次の瞬間。


 ――むにゅんと。久しく忘れていた、驚くほど柔らかい重みが俺の小さな背中に押し当てられた。



「ふわ!?」


「え、どうしたのティアちゃん! 私、変なとこ掴んじゃった!?」


 これから始まる全力疾走の衝撃に備えてだろう。

 分厚いジャージ越しではなくなったせいか、ぎゅっとしがみついてきた灯里ちゃんのふくらみは、今までの比ではないくらいダイレクトに主張してきた。



「だ、大丈夫だから! それじゃ行くよー!!」


 仕方がないこととはいえ心臓に悪すぎる。

 沸騰しそうなほど真っ赤になった顔を冷ますように、俺は過去最高の出力で箱根ダンジョンを駆け抜けた。



★✫★✫



――箱根ダンジョン 地下29F



「はいとうちゃーく!」


 全力疾走のおかげか、到着する頃には顔の熱もすっかり引いていた。


 30層へと続く下り階段の前。石造りの壁には松明の火が揺れ、パチパチとはぜる音が響いている。



「ありがとうティアちゃん! それにしても、ティアちゃんもLDカメラを使ってたなんて驚いちゃった」


 慣れた手つきで背中から降りた灯里ちゃんが、俺の頭上で浮遊するカメラを見上げる。


「といっても、これはマッピング用なんだけどね。配信に使う予定はないよ」


「う〜ん……ティアちゃんが配信者になったら、絶対にトップライバーになれると思うんだけどなぁ」


 まるで勿体ないと言わんばかりに腕を組む灯里ちゃん。

 それに合わせてコメントも「激しく同意」「推し確定」などと、賛同の声が多く上がっているが、愛想笑いで誤魔化しておく。

 他にも「どこまでマッピング埋まってるの?」などもあるが、60層までだよ。なんて言えるわけもない。


 (灯里ちゃんには悪いけど、絶対向いてないと思うし、何より放送事故の香りしかしないからなぁ……)



 60層なんてバレたらそれこそ大騒ぎになるだろう。

 話題を変えるため、俺は彼女の肩を軽くポンポンと叩いた。


「そんなことより、あかりちゃんは30層は初めてなんでしょ? ほら、意気込みとか言わないと」


「う、うん。普通は日帰りで来れる距離じゃないし、いつもは行っても20層くらいまでだったんだけど……ティアちゃんと一緒なら、どこでも絶対に大丈夫だって信じてるから!」


 カメラに意気込みを。という意味だったのだが、俺に向けて一切の曇りがない満面の笑みを向けてくれた。



「――も、もう! 私がいるからって、油断してたら足元すくわれるかもしれないからね!」


 それでも頼られるのは嬉しいもので、つい顔が緩んでしまう。

 そんな顔を見られるのが恥ずかしくなって、誤魔化すように顔を背けてしまった。



「えへへ、大丈夫だよ! 前回ティアちゃんにパワーレベリングしてもらったおかげで、30層くらいは私一人でも大丈夫なはずだから!」


 前回のパワーレベリングから、灯里ちゃんは自力で更に5レベル上げており、現在は35レベルになっていた。


 確かに彼女の言う通り30層くらいなら無理をしなければ問題ないだろう。



「それじゃ、行こう! ティアちゃん」


「うん。行こうか」


 俺たちは30層の階段をゆっくりと、されど自信に溢れた様子で下りていった。



――箱根ダンジョン 地下30F



「ティアちゃん、今のうちに前衛と後衛を決めておこっか」


 遺跡ステージに足を踏み入れたところで、灯里ちゃんがこちらへ振り返る。


 苔むした巨大な石柱が並び立ち、静寂な広間に彼女の可憐な声が響いていく。

 階段前はモンスターが出ないのでこうした会議を開くにはもってこいだ。



「そうだね――といっても、私たち二人とも前衛タイプだし……あ、それなら私が後衛に回るよ」


 衣装ペナルティ中の俺はもちろんだが、灯里ちゃんも剣士スタイルだからどちらも前衛に分類される。


 けれど、今回の探索の主役はあくまで灯里ちゃんだ。

 彼女に華を持たせるなら、俺が一歩下がるのが正解だろう。


「私は助かるけど、ティアちゃん大丈夫? いっそ二人で前衛もありだと思うけど……」


「へーきへーき! ちょっとそこで見ててね」


 何も考えなしに後衛を選んだわけじゃない。

 少し歩き、灯里ちゃんから十分に離れたところで止まる。


 おもむろに拳を引いて――全力で地面に叩きつけた。


「ふんぬ!!」


 ――バッコォォォォンッ!! と、鼓膜を(つんざ)く爆音が鳴り響いた。


 階層全体を揺るがすような強力な衝撃に、石造りの床が悲鳴を上げるようにヒビ割れていく。

 激しく巻き上がった土埃の中から、大量の細かい石ころが地面に噴き出してきた。



「わ、わわわ!?」


 灯里ちゃんは突然の大きな振動にも、耐えるようにバランスを取っている。

 そんな灯里ちゃんの様子を見ながら、俺は手頃な石を何個か拾い上げた。


 それを高々と掲げながら、彼女に合図を出す。



「あかりちゃ〜ん! 行くよー!!」


「へ!? 行くって何が――」


 俺は全力で、遺跡の一番奥にある壁目掛けて石を投擲した。

 美しいフォームから放たれた石は空気を切り裂き、轟々という風切り音を置き去りにして、目にも留まらぬ速さで部屋の奥へと消えていく。


 一瞬遅れて――スガンッ!! と大きな音が部屋全体に鳴り響いた。

 天井からはパラパラと、石の欠片が落ちてくる。



「どうかな、あかりちゃん! これなら……ってありゃ」


 これで問題なく後衛も出来るだろう。

 確認の意味も込めて灯里ちゃんの方へ振り返ったのだが、そこにいたのは懐かしきあの姿。



「あ、あわわわわわわわわ」


 ……あわわ人形再びだった。

いつも読んでくださりありがとうございます!


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