第59話 新衣装は決意表明とともに
昨日、灯里ちゃんからダンジョンのコラボをお願いされ、迎えた翌日の土曜日。
春とはいえ、四月の朝はまだまだ冷え込みが強い。満開の桜も少しずつ散り始め、俺は白い吐息を流しながら桜が作るトンネルを歩いている。
舞い落ちる花びらを浴びながら、箱根ギルドの手前で待つ見慣れたツーサイドアップの女の子を見つけた。
「やっほー灯里ちゃん」
「あ、ティアちゃん!」
入り口手前で、かじかんだ両手を口元に当てていた灯里ちゃんに手を振って声を掛けると、彼女もこちらに気づき、パッと顔を輝かせる。
そのままお互い合流してから、暖房が効いたギルド内へと早足で入った。
「急に誘っちゃってごめんね。ティアちゃん」
「ううん。こっちこそ、待たせちゃってごめんね。それより、いつも灯里ちゃんの配信見てるよ! 収益化おめでとう!」
実は灯里ちゃんのチャンネル――あかりちゃんねるを登録してからは、寝る前に更新されていないかをチェックするのが習慣になりつつある。
そんな俺は、なんと収益化記念のコラボゲストという名目で呼ばれていた。
「えへへ、ありがとう! でも学校も始まっちゃったし、しばらくは週一くらいの頻度になっちゃうんだけどね」
当初の俺の読み通り、着々とチャンネル登録者を増やしていったあかりちゃんねるは、ついに収益化を達成した。
再生時間だとか、チャンネル登録者数だとか、色々と厳しい条件を乗り越えたのだから凄いことだ。
……再生時間に関しては俺の放送事故回がかなり手助けしていたみたいだが、灯里ちゃんのポテンシャルならそんなものがなくても近いうちに達成していただろう。
そんな俺は今日もしっかりとパンチラ対策をしている。
――もう二度と、あんな悲劇は起こさせないさ。
せっかくの格好いいセリフも、直前の理由で台無しではあるが。
などと、頭の中でバカなことを考えている間に更衣室に到着する。
「あれ? ティアちゃん、今回も着替えないの?」
更衣室に入っていく灯里ちゃんに手を振って送り出していると、彼女はこちらを振り返ってきた。
俺が今着ている服装はモンスター素材でも何でもないただの服だ。
それを知っている――というより、選んだ当人の灯里ちゃんが疑問を持つのも当然のことだろう。
「うん。灯里ちゃんが選んでくれた服だし、気に入ってるんだ」
ティアのスペックならペナルティを受けていても通常の服で十分すぎる。
もちろん気に入っているのも事実だけど。
「あ、えへへ……あ、それじゃ帰りに探索用の服を買おうよ! ちゃんとモンスター素材の!」
自分が選んだ服をまっすぐに褒められて嬉しいのか、灯里ちゃんは嬉しそうにはにかんだあと、とても魅力的な提案をしてくれた。
「ホント!? ありがとう灯里ちゃん!」
前言撤回。やっぱり普通の服は耐久性に問題があるから、破れてポロリ――なんて事態を防ぐためにも、やはりモンスター素材の服が必要だろう。
――べ、べつに実はまだ一人で女性用の服を選ぶのが恥ずかしくて買えなかった……なんて思ってないんだからね!!
誰に対して言い訳しているのか。あまりの嬉しさに、自分でも驚くほどテンプレのツンデレキャラみたいなセリフが心中で出てしまった。
「じゃあすぐに着替えちゃうから待っててね」
「ごゆっくり〜」
今度こそ更衣室の中に消えていった灯里ちゃんを、俺は上機嫌で見送った。
「お待たせティアちゃん」
「早かったね――って、その格好!」
しばらくして出てきた彼女を見て、俺は思わず声を上げてしまう。
目の前の灯里ちゃんはいつものジャージ姿ではなく、お洒落なカットソーに、ひざ丈のスカート姿だ。
正確にはコンプレッションウェアをインナーにカットソーを着ていて、下はひざ丈のプリーツスカートにハイソックス。靴はハイテクスニーカーだと言われたが、ほとんど分かっていない。
俺に分かるのは、可愛さを残しつつも、凄く動きやすそうな服装にまとまっているということくらいだろう。
「ついに初心者装備から脱却だね!」
「ありがとう! これもティアちゃんのおかげだよ!」
レベルが上がったおかげでモンスターからのドロップ品も色々と売れるようになり、こうして新調できたと、とても嬉しそうに話してくれた。
「だからこの服を一番最初に見せるのはティアちゃんって決めてたの。……どうかな?」
はにかみながら、裾を軽くつまんでくるりと一回転して見せる灯里ちゃん。
可憐に花が咲くような、その動きに合わせてプリーツスカートがふわりと宙に舞う。
だが、その無防備な光景に、俺の脳内には二度と起こすまいと、そう心に決めたばかりのあの日の悲劇がフラッシュバックした。
「灯里ちゃん。とっても可愛いんだけど、その……ス、スカートってちゃんとアレの対策してる……?」
思わず裏返った声で尋ねると、彼女は俺の心配を予見していたのか、悪戯っぽく微笑んだ。
「ふふ、大丈夫だよ。ちゃんと下に見えてもいいの履いてるから」
まさに鉄壁の布陣である。流石現役女子高生だと、俺は心の中で深く頷いてホッと胸をなで下ろした。
「でも、スカートはちょっと意外だね。灯里ちゃんのことだから、もっとカチッとした格好を選ぶと思ってたよ」
「えへへ、ずっとジャージだったからかな? やっぱり私も可愛いのがいい! ってなっちゃったの。それに、配信的にもスカートのほうが受けがいいみたいだから」
照れくさそうに頬をかく彼女は、配信者としての自覚を持ちながらも、すっかり等身大の女の子に見えた。
そんな様子を微笑ましく思いながら、俺たちは並んで歩き出す。
「そういえば、灯里ちゃんって私みたいにずっとソロの予定なの?」
ゲートへと向かう道すがら、ふと、気になったことがあり、今後の展望を尋ねてみる。
配信を見ていて分かったことだが、灯里ちゃんはパワーレベリングを果たしてからも基本的にソロだ。
臨時のパーティーを組むことはあっても、固定のパーティーはまだ組んでいない。
灯里ちゃんなら誘われていてもおかしくないと思うのだが。
「う〜ん、それなんだけど……ティアちゃんってどうしてソロなの?」
「私は、その方が色々と都合がいいって言うか――って、私のことより灯里ちゃんのことだよ! やっぱりソロは危ないと思うよ? これまで臨時で組んだ人で、誘いたい人とかいなかったの?」
一体どの口が危険性を説いているのだろうか。だがそれでも、妹の友人である彼女を放っておけないのは、これも兄心というやつなのだろうか。
「…………一応、誘いたい相手は二人いるんだけどなー? どうやら一人はソロがいいみたいだから誘うのは難航しそうだけど。もう一人は学校の友達だよ」
そう言って、灯里ちゃんはチラチラと露骨な視線をこちらへ向けてくる。
(……これって、俺の自意識過剰じゃなければ、恐らくその一人は俺――というかティアなんだろうけど。でも、もう一人の学校の友達って、まさか?)
思いついたもう一人の候補の可能性に冷や汗をかきつつ、俺は引きつった笑みを浮かべる。
「そ、そうなんだね。……上手く誘えるといいね」
「うん! 絶対、二人ともパーティーに入ってもらうんだから!」
ふんす、と気合十分に鼻息を荒くする灯里ちゃん。
その真っ直ぐで力強い瞳に、俺はそれ以上の追求を断念した。
そうして到着した入場ゲートを潜り、俺たちは再び箱根ダンジョンに足を踏み入れた。
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