第6話 相模原ダンジョンで力試し!
「太田教官。本日はありがとうございました。」
先ほどの体育館から隣の部屋に戻り、残るは太田教官から合格証を発行してもらうだけだ。
「うむ。こちらこそ、現役から離れて半年振りに筋肉の共鳴を覚えたよ」
ちょっと何言ってるか分かんないですねー。
太田教官は俺の名前が記載された、ダンジョン講座再受講結果証明書に合格の判子を押印し、手渡してくれる。
「よし、あとはこれを探索者カード交付窓口まで持っていくだけだ。場所は桃谷君が入って来た、その扉を真っ直ぐに進んだ突き当たりにある。混んでいなければ5分ほどでカードを再発行してくれるだろう。探索者として頑張ってくれ、応援しているぞ」
俺は合格証明書を受け取り、太田教官と握手を交わしてからその場をあとにする。
「ありがとうございます。それでは失礼します」
言われた通りに真っ直ぐ進むと、探索者カード交付窓口のカウンターが見えてきた。ちらっと周りを見るが、空いてるようだ。
俺はそのままカウンターの前に赴き、受付のおばちゃんに合格証明書を提出し、探索者カードの再発行をお願いする。
軽く会話を交わし、5分ほどで再発行が完了し、探索者カードと細い針を手渡してくれる。
「よし、それじゃ最後にコレであんたの血を一滴垂らしな。消毒済みだから、安心して刺しなよ!」
……忘れてた。そういえば最初に探索者カード取得した時も、血を垂らしたんだった。
俺は恐る恐る人差し指に針を刺し、指の先端からぷくっと出てきた血を一滴、探索者カードに落とす。
するとその血は瞬く間にカードに吸収され、跡も残さずに消えた。
「これで探索者カードの再発行は完了だよ。それじゃ頑張んなさいよ」
おばちゃんから絆創膏とエールをもらい、その場をあとにする。
これでようやくダンジョンに入れるようになった。
俺は早速、先ほどの入場カウンターまで向かい、受付嬢さんに探索者カードを見せる。
「お願いします」
「拝見いたします。――確認できました。無事に再発行できたんですね、おめでとうございます。ところでお客さまはソロで向かわれるのですか?」
受付嬢さんは、俺が一人だからか心配するように聞いてくれる。
先ほどの講座でもフォーマンセルが基本だという話だったしな。
「大丈夫ですよ。今日は本格的に潜りに来たわけじゃないので、ご心配ありがとうございます」
俺は心配はないと、無難に返す。
「かしこまりました。どうかご無理はなさらぬように、頑張ってくださいね」
受付嬢さんからも激励され、今度こそ入場ゲート中に入る。
業務マニュアルなんだろうけど、みんな応援してくれるのが少し嬉しい。
入場ゲートはまるで銀行の金庫扉のように頑丈で分厚い。これは万が一ダンジョンからモンスターが出てきたとしても、ここで堰き止める役目を持つからだ。
とはいえ、インスタントダンジョンを除きモンスターが地上へ出てきた例は、この三十年で一度もないが。
ゲート内を進むと、明らかに材質が違う巨大な階段が見えてくる。
ぱっと見はただの石造りな階段だが、正真正銘あれがダンジョンの入り口だ。
――さあ、行こうか。
俺は少し緊張した足取りで階段を下りていく。
十段ほど下りた辺りで、透明な膜のようなものに引っかかる感覚がある。
学者の研究ではこの膜が次元やら空間やらに干渉して、ダンジョンという巨大空間が形成されているらしい。
正直よく分からないが、探索者にとってこの膜の向こうがダンジョンである、という認識さえあればそれで良いと思う。
「お、膜を抜けた感覚が……っと、へえ、結構明るいんだな」
――相模原ダンジョン 地下1F
階段を下りきった俺は周りを見渡し、ダンジョン内が意外に明るいことに感心する。
「おっと、早速アレを使うか」
俺はポケットからスマホを取り出し、事前にダウンロードしておいたダンジョン攻略アプリを立ち上げる。
このアプリは政府が配布しており、今までの先駆者達の情報を基に作られている。
ここには全国各地のダンジョンデータが全て入っている。マップ構造は勿論、出現するモンスターも全てだ。
今潜っている相模原ダンジョンは、全22階層からなるCランクダンジョンだ。
因みに、三十年経った今でも全世界の首都ダンジョンが未だ攻略中である。
現在世界で一番進んでいるのはアメリカだ。確か68Fだったかな。
そして俺の手元のアプリにある首都ダンジョンというページには、63Fまでの情報が未完成だが載っている。
つまり日本は現在地下63Fを攻略中ということだ。場所は言わずもがな、東京ダンジョンだ。
「とりあえず、このマップを参考に人気がなさそうなところを目指すか」
俺はマップを相模原ダンジョンに切り替え、マップ端に小部屋があるのを確認し、ひとまずはそこを目標に歩きだす。
実を言えば、ステータスの検証という部分は太田教官との模擬戦で割と確認できたのだが、全力を出したわけでもなかったし、何よりティアの全力の確認が目的だしな。
そもそもステータスで判明していることと言えば、HP(体力)・MP(魔力)・STR(筋力)・DEF(防御力)・DEX(素早さ)・INT(知力)・LUK(幸運)と7項目がある。
それぞれの効果は大体字面の通りなのだが、例えばHPが0になったからといってその場で死ぬわけではない。
0になると気絶する。その場でバタンキューだ。
INTも同じで、高いからといって頭が良くなるわけではない。魔法を使う時の威力が上がったり、逆に威力を抑えたりするような微調整が上手くなるのだ。
「まあ、HPが0になって、気絶してる間にボコられたら文字通りにお陀仏なわけだから、HP管理は最優先タスクではある。特にツノウサギにボコボコにされた俺は尚更だ」
何を隠そう、探索者になったばかりの俺はこの相模原ダンジョンでツノウサギに負けたことがあるのだ。
あの時は通りかかった探索者が気絶している俺をダンジョンの外まで運び出してくれて、死なずに済んだ。
実際にHPが0になった経験がある者としては、気を引き締めていきたいところだ。
なんて事を考えている間に、目的地の小部屋までやってきた。
辺りに誰も居ない事を確認し、モンスターが小部屋に入ってくるのを待つ。
実は途中で何体か見かけてはいたのだが、戦闘を誰かに見られても面倒なのでスルーしていておいた。
1Fとはいえ、道中ちらほら人影は見えたしな。
「丁度いいし、モンスターが来るまでの間にまずは今の俺の本気のステータスで、どれだけ動けるのかチェックしよう。50m走の時は試せなかったしな」
まずは素早さのチェックだ。ステータスを意識して全力で走る。
――その瞬間、まるで視界が引きちぎられたかのような速さで景色が流れていく
「ちょっ! はや!」
小部屋の広さは大体テニスコート1面分くらいの長方形で、目視で二十〜三十メートルだが、端から端まで一直線で走って1秒も掛からずに壁にタッチできてしまった。
「ここまで速いと思わなかった。でも反応はできたな。壁にぶつからなかったし、直前でしっかり止まって壁にタッチもできたし」
自分の速さに驚きはしたものの、しっかり体のコントロールができたということは、今のステータスが問題なく身体に馴染んでいる証拠だろう。
全力を解放しても悲しきモンスターにならなそうで本当に良かったよ。
なんて考えている間に、モンスターが姿を現す。
白い毛並みに赤い瞳、鋭そうな立派な角。そして全長六十センチメートル程の愛くるしい体躯。
忘れもしない、俺をボコボコのボコにしてくれたツノウサギさんだ。見た目は完全にフレミッシュジャイアントに角を生やしただけだが、その戦闘力は高い。
特徴としては柔らかく強靭な脚力を使い、目にも留まらぬ速さで飛び込み、そのまま相手の胸や喉元といった急所を容赦なく狙ってくる。
奴によって数多の初心者探索者たちは心を折られただろう。かくいう俺もその口だからな。
その慈悲の無さから探索者たちからは"初心者殺し"とも呼ばれている。
――もっともそれは全てレベル1基準では、の話である。
今の俺のとんでもステータスならきっと問題なく対応できるはずだ。
「向こうも俺に気づいたな……」
小部屋に入ってきたツノウサギは、俺に気づきぴょこぴょこと近づいてくる。
まずは相手の出方を窺う。睨み合う両者。肌にひりつくような緊張感。
……これは実戦だ。降参や参ったは通用しない。
俺の額から一雫の汗が頬を伝い、やがて顎から流れ落ちる。
――瞬間、ツノウサギが襲い掛かる! その狙いは真っすぐだ。ただ真っすぐに俺の胸を狙って跳んでくる!
俺はそれを…………
「おっと」
直前の緊張感が拍子抜けするような、軽い感じで身体を捻り躱す。
ステータスによって強化された身体能力はツノウサギの跳躍に軽く反応し、これまたすれ違いざまのツノウサギの両足を片手で掴んでみる。
キュイ!? っと驚くような悲鳴を上げるツノウサギを尻目に軽く振り回し、そのまま地面に叩きつける。
あまりの衝撃に、声を上げることすら出来ずに黒い靄と共にツノウサギの身体は消えていく。
「おお、あのツノウサギがこんなにも簡単に倒せるなんて、感無量だ……」
足元には紫色の小さな石と、一本の小さなツノが落ちている。ドロップ品だ。
紫色の石は魔石と呼ばれ、モンスターを倒すと落とす石だ。この石にはエネルギーが秘められており、現代科学では既に様々な用途に使用されている。
保有エネルギーの質や量は強いモンスターほど高くなる傾向とされている。
そしてこちらのツノは文字通りツノウサギのツノだ。
こうしたモンスターを倒すと落とす素材は、魔石同様様々な用途に使われる。
因みにドロップ品はモンスターを倒すと必ず落とすわけではない。完全に確率である。
詳しくは分かっていないようだが、弱いモンスターほど落としやすく、強いモンスターほど落としにくいそうだ。LUKの数値によって変わるのでは? という研究が進められているとニュースで言ってた気がする。
けれど、LUKはレベルが上がっても上昇率が一番低いステータスで有名だから、あまり気にする人はいないらしい。
よし、俺のステータスチェックはこんなものでいいだろう。
次は大本命ティアのステータスチェックだ。
実はまだ一度もティアのステータスを見てないんだよな。
正直、見るのが少し怖いけどそれ以上に楽しみだ。
俺は手を軽く握り、息を整える。
「じゃあいくぞ……メイクアップ」
そして俺は心臓の高鳴りを感じながら、ティア・ロゼッティに変身するワードを唱えた。
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※本日の投稿はこのお話でおしまいです。
明日も3話更新予定です。お楽しみください。




