第57話 マスコットの正体
――箱根ダンジョン 地下59F
「コアルーム……ではないか」
ゆっくりと下りていった先に続いていたのは、終点の広間ではなく、変わらぬ夜の森だった。
空を見上げれば、相変わらず三つの月が妖しく輝いている。
「時間はまだ少しあるな、どうしようか」
ここで一度スマホを取り出し時間を確認するが、碧依が戻るまで少し猶予がある。
少し悩んだが、探索を続けることにした。
「よし、行こうキューちゃん!」
「キューイ!」
すっかり頭の上が定位置になったキューちゃんを一撫でした俺は、60層への階段を求めて歩き出した。
――59層の探索を始めてすぐのことだった。
俺たちの目の前に一体のモンスターを確認する。
紫色の筋肉質な巨躯に、太く大きな手足からは鋭い爪が鈍く光っている。その最たるものは、頭部から生えたねじれた角だろう。
まだこちらに気づいていないようで、のっしのっしと、大きな足で闊歩している。
そのモンスターは、ハイデーモンをさらに巨大化させ、禍々しく進化したような姿をしている。
探索者の間――というより多くの人が知るモンスターだ。
「驚いた……こうして実物を見るのは初めてだな」
その昔、といってもほんの十年前。
インスタントダンジョンから溢れたモンスターの中でも猛威を振るった姿から、Aランクの中のAランク。特Aランクとして定義されている。
「一応こっちでも見ておくか、見透かす瞳」
視界の隅のウィンドウには、LDカメラの鑑定結果が表示されているが、奴に関しては自前のスキルでも見ておいたほうがいいだろう。
鑑定効果を付与された俺の瞳に、予想通りの情報が表示される。
名称 :デーモンロード
レベル:65
◆ドロップ品
・デーモンロードの魔石
・デーモンロードの捻角
・デーモンロードの呪血【レアドロップ】
「本当にデーモンロードか……59層だし出てきてもおかしくはないけど」
その純粋な戦闘能力の高さから、奴はAランクでは収まらないのではないか、といった話題が上がるほどだ。
それゆえに、デーモンロードはSランクへ上がるための壁と言われている。
表示された結果を見ていると、先ほどの鑑定スキルでも感知されたのか、ピタッと止まったデーモンロードがぐるっと首だけをこちらへ向ける。
「グルアアアア!!」
鼓膜を刺すような不快な咆哮を上げると同時に、巨躯からは想像もつかない瞬発力で向かってきた。
「キュイ!」
それに対応するように、即座にキューちゃんが白弾を放ってけん制する。
だが、奴は爪を縦に振るうことで光弾を容易く切り裂いてしまった。
分かれた光弾はデーモンロードの背後で爆発し、奴はその爆風すら利用する形でグンッと肉薄してきた。
「グルァア!!」
目と鼻の先まで一瞬で迫ったデーモンロードは、その凶爪を袈裟斬りに振り下ろす。
「キュ!」
――カンッ! とすかさず張られたキューちゃん印の鉄壁の防御結界が、凶悪な爪を見事に阻む。
「ッ!」
それを受けてすぐさま後ろに飛び跳ねたデーモンロードは、口を大きく開けるやいなや、大火力の火球を飛ばしてきた。
「グルア!!」
連続する猛攻。防御結界はそれすらも防ぎきったが――ふと、光の壁がノイズ混じりに明滅を始めていた。
「キュ……」
まるでそれと連動しているかのように、頭上のキューちゃんが苦しそうな声を絞るように上げる。
「キューちゃん!?」
慌てて抱きかかえると、白く小さな体は目の前の結界と同じように明滅していた。
――次の瞬間、ふっと光の粒子になって腕の中から霧散するように消えてしまった。
「ど、どうなって――――」
「グルアアッ!!」
キューちゃんが消えたと同時に結界も消滅し、奴の放った火球がこちらに飛んできた。
「うるさい!」
だがそれどころではない俺は、その火球をデーモンロードの方へ蹴り返す。
「――ッギアアアアア!?」
蹴り返した火球が奴に直撃し、自らの放った業火によって火だるまと化したデーモンロードは、耳障りな悲鳴を上げながら地面を転げ回る。
「だからうるさいって言ってるだろ!!」
「――――グギッ!?」
ようやく鎮火したのか、よろよろと起き上がったばかりのデーモンロードに、間髪を入れずアッパーを叩き込んで吹き飛ばす。
数秒後に、コトンと魔石が落ちてきたがそれどころではない。
「さ、マスコット召喚!!」
祈るように召喚魔法を唱えると、再び現れた魔法陣からニョキッと、キューちゃんが顔を出した。
「キューイ!!」
また呼ばれて嬉しいのか、先ほどの様子が嘘のように元気な姿でこちらに顔を擦り寄せてきた。
「キュ……キューちゃああん!!」
俺はスリスリしてくるキューちゃんを抱き寄せ、心から安堵した。
★✫★✫
「なるほど、こういうことだったのか」
「キュイ?」
俺の独り言にキューちゃんは首を傾げた。
先ほどのデーモンロード戦でどうしてキューちゃんが消えてしまったのか、その謎に当たりがついたところだ。
すでに60層へ続く階段は見つけていて、現在はその階段前のセーフティエリアを利用して検証をしている。
道中、デーモンロード以外にも【ミストウルフ】や【ムーンホーク】といったモンスターもいたが、早く階段を見つけたい一心で全て瞬殺したため、ほとんど記憶に残っていない。
「じゃあキューちゃん、そろそろ結界を解いて、今度はあそこの岩に向かって光弾を撃ってみて」
「キュイ!」
俺の指示に素直に従い、キューちゃんは輝く光の玉を大岩に撃ち込んだ。
直撃した途端、岩は大きな音を立てて破壊される――が、俺が見ていたのは岩ではなくキューちゃんだ。
見透かす瞳により、金色に輝く瞳がその様子を正しく写し出している。
「キューちゃん。苦しいかもだけど、今度はあの辺りにもう一発だけ光弾を撃ってくれる?」
俺の予想では、キューちゃんは次の行動で消えるだろう。
検証のために心を鬼にして過酷な指示を出す。
「キュ!」
それでも俺の指示に頷いてくれたキューちゃんは、光弾を追加で森の木に向かって放った。
「……キュー」
その途端、予想通りキューちゃんは明滅しだした。
そんな様子を鑑定効果を宿した瞳でしっかりと見ていた俺はここで確信した。
「やっぱり……MP切れか」
キューちゃんが光弾や防御結界を使う度に、MPが目減りしていた。
MPを代償に、スキルは発動される。
考えてみれば当たり前のことで、膨大なMPを持つティアには無縁だったが故に、完全に失念していた。
あとはこのまま消える姿を見るまでが検証だとは思うが、そこまで心を鬼に出来なかった俺はキューちゃんをそっと抱き寄せる。
「ごめんねキューちゃん。天使の右手」
天使魔法であるスキルワードを唱えた途端、俺の右手から淡い水色の光が湧き出て、キューちゃんを包み込むように広がっていく。
その光に包まれたキューちゃんは見る見るMPを回復していき、ものの数秒でマックスまで完全回復を遂げた。
「キューイ!!」
「ふふ、くすぐったいってば」
MPが戻ったおかげだろう。
明滅が完全に収まり、元気になったキューちゃんは大きな声を上げ、俺の頬に自分の頬を擦り付ける形でスリスリと甘えてきた。
こうして急に消えた謎が解けたのは良いのだが、それと同時に問題が二つも発生したわけで……
正確には問題と言うほどでもないのかもしれないが、見透かす瞳を使用している俺の瞳には、キューちゃんの情報が映し出されている。
名称 :キューちゃん
種族 :天竜
レベル:なし
HP :50,000
MP :20,000
STR :9,999
DEF :20,000
DEX :9,999
INT :20,000
LUK :9,999
やはり何度見ても、キューちゃんの名前がキューちゃんで固定されてしまっていた。
「ごめんなキューちゃん……あとでしっかり名前を考えてやるって約束したのに」
「キュー?」
本人はまるで気にしていないのか、可愛らしく小首を傾げてくれる。
そしてもう一つの問題とは……もう一度チラっとキューちゃんを盗み見るように覗くが、やはりこちらも見間違いではないようだ。
名前と同じで、何度見ても【天竜】とはっきり記載されてある。
――ティアと契約を交わし、その身に神の如き力を授けたとされる創まりの龍。
そういえばそんな設定だったなと、偉大なる天竜になんて可愛らしい名前をつけてしまったのだろうか。
そんな事実に俺は肩を落とすのだった。
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