第56話 魔法少女といえば……白い雪?
――箱根ダンジョン 地下55F
昨日は結局、美味しいものを食べれば元気が出るよ!
という碧依の鶴の一声によって、昼食会が始まった。
料理上手な自慢の妹と、実家がカフェで手慣れている灯里ちゃん。
そんな最強コンビから繰り出される手料理は、文字通り幸せの味で満ちていた。
そうして楽しい昼食会後にお開きとなり、その翌日、またしても碧依の登校中に箱根ダンジョンで探索を進めている。
「しかし、よくよく考えたらもうずっと一人なんだし……あのスキルを使ってみるべきか?」
周囲に鋭く目を光らせながらも、思考の半分は別のことに割いていた。
実を言うと、ずっと忘れていたスキルがある。
忘れていた――と言うよりは、人目がある場所では使えなかったと言うべきだろうか。
「鬼が出るか、蛇が出るか……まあ、出るのはアレだと思うけど、問題は大きさだな」
この55層なら、確実に他の探索者はいない。
先ほどから入念に索敵しているが、モンスターの気配がちらほらあるだけで、やはり探索者の姿はない。
ならば絶好のタイミングだろうと、ずっと温めていたスキルを使用することに決めた。
「ふぅ……」
足を止め、深く深呼吸をして意識を集中させる。
一拍置いてゆっくりと目を開いた俺は、正面に右手をかざし、そのスキルワードを紡いだ。
「いくぞ! マスコット召喚!!」
――その瞬間、向けた掌の先からカラフルで複雑な魔法陣が展開された。
大気を震わすような重厚な振動のあとに、その魔法陣からニョキッと、白い塊が飛び出てくる。
「キューイ!」
現れたのは、全長三十センチほどの小さな龍だった。
想像していたような巨体ではなかったことに心底安堵しながら、俺は改めて目の前の存在を見つめる。
その姿は細長い竜タイプではなく、四足歩行タイプの龍というのが適当だろうか。
柔らかそうな毛並みはただただ真っ白で、ふわふわ浮いている姿からは雪を想像させる。
「さ……触ってもいいか?」
「キュイ」
言葉が通じているのか、パタパタと小さな翼を動かして俺の側までやってくると、愛らしく頭を下げてきた。
恐る恐る指を伸ばして触ってみると、鱗のようなものは見当たらず、とてもふわふわしている。
「キュイ〜」
撫でている手が心地いいのか、猫のように目を細めて喉を鳴らしている。
「か、可愛いな……おまえ」
「キュイ?」
これがもし全長ウンメートルもあったらどうしようかと思っていたが、マスコットというスキル名に偽り無しだ。
「しかし、こうなると名前が欲しいよな……」
呼び出した以上、やはり名前が必要だろう。
腕を組んで考えるが、こんなダンジョンのど真ん中で悠長に考えるわけにもいかない。
「……とりあえずキューちゃんでいいか? あとでちゃんと考えるから」
「キュイキュイ!」
ひとまずは便宜上として、分かりやすい名前を付けることにした。
鳴き声から取ったそんな安直な名前にも、当の本人は嬉しそうに声を上げて俺の頬に擦り寄ってきた。
「あはは! くすぐったいってば」
こんなに可愛いならもっと早く使えばよかった。
そんな後悔を抱きつつ、俺は周囲をパタパタと旋回するキューちゃんを連れて探索を再開した。
★✫★✫
――箱根ダンジョン 地下58F
順調に階層を下げていた俺たちの前方に、紫色の巨大な蛇が出現した。
LDカメラが【ウィスプサーペント】と識別したその個体は、まだこちらに気づいていない。
「敵影あり! キューちゃん、やっちゃって!」
前方のヘビを指差しながら、俺の頭の上に乗っている龍――キューちゃんに指示を出す。
小さな口をカパッと開くと、その奥にシュンシュンと光の粒子が収束していく。
「キューイ!!」
愛らしい鳴き声が響くと同時に、バスケットボールほどの白光の弾丸が放たれる。
背後からぐんぐんと迫りくる白弾に気づかないそのヘビは、無防備な背中にその一撃を受けた。
「――ギ!?」
バシンッ! と激しい衝撃に身を悶えさせながらも、相手はまだ健在だ。
振り返ったヘビは怒りに満ちた表情でこちらを睨みつけてくる。
「ん〜、やっぱり一撃は無理か……」
それでも決して無視できないダメージなのは明らかだ。ウィスプサーペントはフラつきながらも、ウネウネと複雑な軌道で地を這い、肉薄してくる。
「ギシャア!!」
射程に入るなり、牙を剥いて俺の喉元へと跳びかかってきた。
「キューイ!」
その牙が俺の白い肌へ届く直前、もう一度キューちゃんが鳴くと、今度は俺を囲うように光の障壁が張られた。
「ギシャ!?」
――キンッ! と高い音が響くと同時に、光の壁に触れたウィスプサーペントは弾かれるように吹き飛んだ。
それでもすぐに体勢を立て直し、今度は長い身体を使って障壁ごと潰すように巻き付いてくる。
「――ギ?」
だがそれでも、俺を包む光はびくともしない。
締め付け攻撃に自信があったのか、呆気にとられたような声を出すウィスプサーペントを見上げながら、トドメの指示を出した。
「終わりだ! キューちゃん!」
「キュイ!」
障壁に巻き付いたままの無防備なヘビに向かって、至近距離から光弾が放たれる。
この障壁は外からの攻撃は通さないが、内からの攻撃は素通りさせる優れものだ。
「――ギシャアアアアア!?」
その一撃を受け、断末魔を上げたウィスプサーペントは黒い靄へと霧散していった。
「よしよし、えらいぞキューちゃん」
「キュイキュイ〜」
戦闘終了のご褒美に、頭の上に乗ったままのキューちゃんを撫で回す。
こんな調子で、55層からここまで連戦して分かったことは二つだ。
キューちゃんは攻撃より防御が得意ということと、とても可愛いということだ。
一撃で倒せるモンスターもいれば、先ほどのように二撃以上かかることもままあった。
その反面、光の障壁――防御結界とでも呼ぶべきか。
その結界の防御力は、ここまでのどんなモンスターの攻撃にもびくともせず、まさに鉄壁と表現するのにふさわしいだろう。
「あ、階段みっけ」
キューちゃんの戦闘スタイルを分析しながら進んでいると、下へ続く階段を発見した。
「次は59層か……」
次の階層で終わりか、それともSランク帯の60層まで続いているのだろうか。
「ここまで来たらとことん付き合ってやるさ! な、キューちゃん」
「キュイキュイ!」
この相棒と一緒ならどこまででも潜れるだろう。
決意新たに、俺はキューちゃんを頭に乗せたまま、迷わず階段を下りていった。
いつも読んでくださりありがとうございます!
魔法少女には欠かせないマスコットがついに登場しました!
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