第50話 未踏領域の戦い
「暑い……階段どこ……?」
40層の砂漠をひたすら歩き続けて30分ほどだろうか、なかなか階段が見えない。
額には玉のような汗が浮いている。
「お茶もこれで終わりか……」
喉が渇いたのでアイテムボックスから水筒を取り出すが、最初はずっしり重かった水筒もすっかり軽くなっていた。
軽く振ってみるとチャプチャプと軽い音が虚しく響く。中のお茶はもうコップ一杯分で終わりだった。
「んぐ……ぷはぁ」
喉を潤したことにより元気が少し戻ってきた。
考える余裕が出てきた俺は今一度、自分が置かれている状況を見直す。
一度帰るのが賢明かもしれない。
とてもじゃないが、今の装備でこの広大な砂漠を攻略できる気がしない。
「出来れば今日中に50層くらいまで行きたかったけどな。――ん? 待てよ?」
(そういえば応接室での会話で、現在は35層が最前線みたいなことを言われたっけ……)
ふと、ダンジョンに入る前にスーツの女性との会話を思い出した。
あの言葉が事実ならば37層でお昼を共にした田中さんたちこそが、箱根ダンジョンの最前線である可能性が高いだろう。
それが意味するのは、この先は本当に誰もいないということだ。
探索者が誰もいないんだったら打てる手もある。
冷たいお茶を飲んだことにより、のぼせ気味だった頭にも冴えが戻ってきたのか、俺は解決法を思いついた。
「よし! 衣装選択――からの、浮遊する身体!」
衣装をデフォルトの魔法少女コスに戻したあと、すぐに浮遊魔法を発動して一気に浮き上がる。
「うひゃー! 楽ちんだー!」
俺が思いついた解決法とは、誰にも見られないなら魔法少女コスに戻して動き回ればいい……という至極単純なことだった。
目立ちたくないからって、何も誰もいない場所でまで衣装ペナルティを受け続ける必要は無かったんだ。
そのまま広大な砂漠を見下ろしつつ空を移動する。
地上で俺を苦しめていた熱気や、足を取られる砂の感触が嘘のようだ。
遥か下、豆粒のように見えるモンスターたちを眼下に収めて俺は涼しい顔で風を切る。
「お、あの辺はモンスターがうようよいるな……面倒だし鑑定だけして異常がなかったらスルーでいいか」
こうして安全圏から次々に鑑定をかけていく。
ミミズのようなサンドワーム、あのサソリはデザートスコルピで、それにさっきのアリジゴクはトラップアンターか。
あっちの大きくて目立つのは、ハードシェルクラブと表示される。
衣装ペナルティが解放された今のティアにとっては、MPなんてあってないようなものだ。
いつまでも飛べるし、どこまでも飛べるだろう。
「よーし! このまま一気に砂漠ステージとおさらばだ!!」
久しぶりの解放感に身を任せ、翼を広げるように両手を横に目一杯広げた俺は、ぐんぐんスピードを上げて黄金の砂海の上を滑るように空の旅を始めた。
★✫★✫
「あった、階段だ!」
俺は見つけた階段に向かって降下を開始する。
40層から空を飛び続けて、1時間足らずで一気に49層の階段前まで着いてしまった。
この結果は自分でも分かるほどの異次元の速さだ。
正当な手段で攻略する人には申し訳ないが、これも一つの手段だと、己の心の中で正当化しておくことにした。
因みにLDカメラは相当優秀なようで、空を飛びながらでもマッピングが問題なく出来たのには少し驚いた。
「次で50層……ギルドの計測はここまでだったな」
現在の技術で事前に判明できる深さは50層までだ。
ここから先はどこまで続いてるのか、誰にも分からない領域だ。
更に言ってしまえば、ここから先は実力的にはAランク帯となる。
俺は緊張と少しの興奮を顔に浮かべて階段をゆっくりと下っていく。
暗い階段の先に、出口が見えてくる。
――箱根ダンジョン 地下50F
「……これは、20層の森?」
階段を抜けた先は、静かで暗い森だった。
この既視感のある光景に、俺は少し首を傾げる。
「いや、でも明るさの加減が――――」
――20層の暗い森と少し明るさのコントラストが違うと感じ、空を見上げた時だった。
そこには三つの月が浮かんでいた。
赤い月、青い月、白い月。
どれも大きな満月に輝いていて、その混ざり合った怪しくも幻想的な光が、50層の夜の森を静かに照らしている。
その幻想的な光景にどれほど目を奪われていたのだろうか、吹いた風が俺の肌を撫でるのと同時に、ようやく我を取り戻す。
「……よし、探索してみるか」
砂漠ステージとは違い、見晴らしが悪いのでここでは素直に地面を歩くことにする。
探索を始めて5分ほど経った頃、リンリンと心地よい虫の音に耳を傾けながら歩いていると、目の端にキラリと光る物体が映った。
「――あっぶな!?」
反射的に屈んだ俺の頭の上を、鋭い白刃が風切り音を上げながら通り過ぎる。
すぐさま白刃が飛んできた方向に目をやると、またしてもキラリと光る。
――その瞬間、今度は二本の白刃が飛んできた。
俺はその軌道を冷静に見極め、体を左右に揺らして最小限の動きで躱す。
不意打ちには驚いたが、今のティアならば見てから十分に避けることができる。
すぐさま先ほど光った場所へと駆け出し、その正体を拝む。
「お前だな!」
「クケケ!」
三十メートルほど走った先にいたのは、紫色の身体を持った二足歩行のモンスターだった。
小さくも太い手足からは鋭い爪が鈍く光っていて、特徴的なのは頭から生えた小さな角。
「見透かす瞳!」
まずは敵の正体を掴むために鑑定魔法をかける。
金色に輝く俺の瞳に、奴の情報が写し出された。
名称 :ハイデーモン
レベル:56
◆ドロップ品
・ハイデーモンの魔石
・ハイデーモンの硬爪
・ハイデーモンの小角【レアドロップ】
「ハイデーモンか――っむ!」
「ケケ!」
鑑定の結果を見ている間にハイデーモンが動き出し、その太い手を前にかざし、何やら呟くと煌めく白刃が飛んできた。
「おっと」
正面からのそれをひらりと踊るように回って躱し、攻撃後の隙だらけな姿を晒している奴に向かって肉薄する。
「これで終わ――ッ!?」
拳を引いたその瞬間、空から真っ赤な光が凄まじい速さで俺目掛けて飛んでくる。
「うお!?」
――ズガンッ!
弾丸のように飛んできた赤い閃光を紙一重で横に跳んで躱すと、さっきまで立っていた位置に大穴が空いている。
その穴から赤い光がすぐに上空に昇ったかと思えば、凄まじい速さで再度こちらへと落ちてくる。
――ティアの高い反応速度はその姿を正確に捉え、瞬時に見透かす瞳を使用する。
名称 :リトルデーモン
レベル:50
◆ドロップ品
・リトルデーモンの魔石
・リトルデーモンの尻尾
・リトルデーモンの小翼【レアドロップ】
(リトルデーモンか……文字通り小さい悪魔だな)
ハイデーモンを一回り小さくしたような体躯を持ち、その身体は炎に包まれ、激しく燃えている。
火だるまで突っ込んできた小悪魔をバックステップで躱すと、キラリと煌めく白刃が横から十字状に二本飛んでくる。
「――いつの間に!?」
水平に飛んできた白刃を、限界まで上体を逸らしたブリッジで回避し、続く一本を地面に付けている両手を弾かせ、バネのように跳んで鮮やかに避ける。
すぐさま立ち上がると、また空から赤い光が落ちてくる。
弾丸のように飛んできた小悪魔をバク転で避けた俺は、片手を空に掲げる。
「これ以上好きにさせて堪るか!! 自由自在のリボン!」
息つく暇のない連撃の隙を縫うように、アイドル魔法の一つであるスキルを発動させる。
掲げた俺の右手には細いスティックが顕現され、その先端にはキラキラと神秘的に輝くリボンが靡いている。
「――そこ!!」
「ギ!?」
俺がスティックを振るうと、穴から出てきたばかりの赤い光を煌めくリボンが素早く捕らえる。
小悪魔は巻き付いたリボンにもがくが、複雑に絡みついたリボンは易々とは解けない。
そのままスティックをぐるぐると回しながら、地上にいるもう一体の敵を見据える。
「ていや!」
地上のハイデーモンに向けて思いっきり振るうと、その動きに合わせて落とされたリトルデーモンとハイデーモンが激しく衝突する。
「「――ギギャッ!?」」
「これで終わりだ! 灼熱の脚!」
一塊になったモンスターへと一瞬で肉薄し、灼熱の脚によって真っ赤に燃える脚を横一線に叩きつける。
「「ギッ!?」」
灼熱の炎を纏った脚がモンスターを真っ二つにし、傷口から燃やし尽くす。
その悲鳴を最後に、二体のモンスターは黒い靄へと変わり、魔石を落とした。
「ふぅ……さすがにAランク帯だと歯ごたえが違うな」
50層ともなれば、こういう特殊スキル持ちが多くなるようだ。
軽く一息ついて魔石を拾い、再度の奇襲に警戒しながら探索を再開させた。
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