第49話 ティアの弱点……?
――箱根ダンジョン 地下39F
俺は今、田中さんたちと別れて39層まで攻略を進めている。
あのまま一緒に探索――なんてことはなく。
よっぽどの緊急事態でもなければ、急造パーティーが危険なのは探索者としての常識とされているからだ。
「ん……?」
階段を求めて探索を続けていると、少し離れた先に揺らめく人影が見える。
ただ、その影はあまりに巨大だった。
「ストーンゴーレムか!」
「――ッ! ゴアアアアアア!!」
俺が奴に気づくのと同時だった。
大きな咆哮を響かせながら、見かけに似合わない素早い動きで向かってきた。
一歩一歩が大きく、見る見る距離が縮まってくる。
「ゴッ!!」
射程範囲に入った俺に向けて、まるで虫でも潰すかのように巨大な手のひらを振り下ろしてきた。
「……甘い!」
ギリギリまで攻撃を引きつけた俺は、直撃の寸前に全力で加速し、石造りの手のひらから紙一重で滑り出すように抜けた。
一瞬遅れて背後からは大きな地響きが聞こえる。
「――ゴ?」
潰したはずの俺がいないのが不思議なのか、奴は地面から手を持ち上げると不思議そうな声を出す。
「ここだよ!」
「――ゴゴ!?」
その間に奴の真下まで接近した俺は全力で垂直に飛び、ストーンゴーレムの眼前に踊り出した。
驚愕にストーンゴーレムは目を見開くが、もう遅い。
俺は右拳を限界まで後ろに引き、前に打ち出す。
「全力! 正拳突き!!」
――ズガンッ!! と、大きな音を響かせながら、俺の小さな拳は吸い込まれるようにストーンゴーレムの額へと届く。
39層そのものを揺らすかのような衝撃は、岩の密度などお構いなしに貫通し、ストーンゴーレムの巨大な頭は大きく爆ぜた。
「ゴガアアアアアア!?」
耳をつんざくような破砕音を響かせながら、その一撃で呆気なく絶命した奴は黒い靄へと消えていく。
「ふぅ……」
綺麗に着地し、手応えを噛みしめるように一息吐いた――その瞬間。
コンッ!
「あいたっ!?」
空から降ってきた魔石が、俺の頭頂部にこれまた吸い込まれるような精度でクリーンヒットした。
「うう……恥ずかしい」
余韻も台無しである。俺は頭を撫でながら、恥ずかしさに身を縮めて辺りを見回した。
締まらない光景だったが、幸い誰にも見られていないことに安堵した俺は、転がった魔石をアイテムボックスに放り込んだ。
39層に入ってからは、こんな風にストーンゴーレムやリビングアーマー、時々彫刻のふりをしたガーゴイルなんてモンスターも襲ってきた。
とはいえ、今のところどれもこれも全て拳一発で終わるので大した脅威ではない。
そんな調子で進みながらも、石造りの通路を曲がったところで、ようやく40層への階段を見つけることができた。
「や、やっと見つけた……遺跡ステージはちょっと迷路じみてて苦手だったな。モンスターもトリッキーなのが多かったし」
これまでの遺跡ステージの苦労を思い出しながら、俺は小さく独りごちた。
「よし、行くか!」
5分ほど小休止を取ったあと、俺は40層へと進むべく階段をゆっくり下りていく。
探索者のガイドラインでは40層からはBランク帯とされている。
ここから難易度がまた一段階上がる。
そんなことに、柄にもなく少し興奮しているのか、階段を下りる足が自然と速くなった。
――箱根ダンジョン 地下40F
「…………さ、砂漠?」
目を輝かせながら抜けた先は、黄金の砂がどこまでも広がる世界だった。
その地平線は陽炎でゆらゆらと揺れ、視界を遮るものは何ひとつ見えない。
「うへぇ……マジか」
空を見上げると満天の青空に輝く太陽。
風が吹くたびに、ムワッとした熱気が肌をチリチリと焼くように感じる。
さっきまでの興奮はどこへ行ったのやら、暑い日差しに目を細める。
「これは忍耐が試されそうだな……」
それでも動かないわけにもいかず、俺はゆっくりと一歩踏み出した。
★✫★✫
「んぐ……んぐ……――っぷはぁ!! 生き返るー!」
俺はどこまでも続く砂の上で、水筒に入っているお茶を浴びるように飲む。
ティアの体に変身している間は汗など滅多にかかないのだが、この熱気の前では通用しないらしい。
「おまけにこの砂……思った以上にやっかいだな」
額に浮かんだ汗を拭いながら一歩一歩進んでいくのだが、歩くたびに砂が靴の中に入ってきて気持ち悪い。
時々立ち止まり、靴を脱いでは砂を出す。
こんな作業を挟みながら歩いていると、途端に足場がゆらゆらと揺れ出した。
「――な、なんだ!?」
大きな揺れに何とか転ばずに耐え、状況を観察していると周りの砂がどんどん沈んでいく。
よく見ると円形に砂が沈んでいるようで、まるでアリジゴクのようだな――そんなことを考えながら視線を下ろした、その時だった。
「キシャアアアア!!」
「うわあああああ!?」
――ガチンッ! ガチンッ! と、ハサミのような大顎を鳴らしながら、巨大な虫型モンスターが待ち構えていた。
俺は必死に沈みゆく砂を登ろうとするが、沈む速度のほうが速い。
「ちょちょちょちょ!!」
突然の出来事に完全にパニックになった俺は、成す術もなく、どんどんと飲み込まれていく。
「シャア!!」
「――――っ!! こなくそー!!」
いざ目前まで迫ってようやく覚悟を決めた俺は、むしろこちらから全力で飛び込むことにした。
「ッギギ!?」
待ち構えていたモンスターは獲物の予期せぬ動きに何も出来ずに、俺の身体はそのモンスターをいとも容易く貫通した。
ヌルリと、生々しい感覚に体を強張らせながらも、その勢いのままアリジゴクから脱出することに成功した。
「――や、奴は!?」
急いで背後を振り向くと、虫型モンスターは黒い靄となり中央に魔石を残して消えていた。
「ふぅ、倒したのは良かったけど……」
ホッと息をついたのも束の間、俺の身体はモンスターの粘液まみれになってしまった。
「うへぇ……ベタベタだ……」
体を動かす度に、肌に張りつく粘液がぬるりと糸を引く。
嫌な匂いこそしないが、人肌に生暖かいのが絶妙に気持ち悪い。
「……ていうか、そもそも空を飛べば良かったんじゃないか?」
苦手な虫の出現に頭が完全に混乱していた俺は、先の戦闘を振り返ることで対処法に気づいた。
(虫が苦手なのもどうにか克服したいけど……)
自分が虫を平気になるイメージが浮かばずに、軽くため息を一つ吐く。
俺はベタベタに汚れた服を衣装選択で着替え、またゆっくりと一歩踏み出した。
いつも読んでくださりありがとうございます!
本日ブックマークが500件を突破しました!
これほど多くの方に応援していただけて、驚きと共に感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございます!
もし「頭を擦るティア可愛い!」「続きが気になる!」と思っていただけたなら
ブックマーク登録や、
下の評価欄を☆☆☆☆☆から**★★★★★**にして応援いただけると、執筆の大きな励みになります!
(すでに応援してくださっている皆様、本当にありがとうございます!)
さらに上のランキングを目指して頑張りますので、なにとぞ応援よろしくお願いします!




