第5話 太田試験官との模擬戦
俺は太田教官に向かって一気に距離を詰める――が、直前でバックステップをして、少し距離を取る。
その様子を見て、太田教官は告げてくる。
「どうした? 怖気付いてしまったか? さっきも言ったが私に勝つ必要はないんだぞ」
それは分かっている。距離を取ったのは別の理由だ。
――だって俺から攻撃したんじゃステータスの調整が出来ないじゃん!
調整目安をつけるために、どうにか太田教官から攻撃を仕向けてくれるように誘導しなければ。
「いえ、相手の力が未知数ですので。力量が分からない相手にむやみやたらに飛びかかるなんて、そんな危ない真似はできませんよ」
太田教官は感心したと言わんばかりにニヤリと獰猛な笑顔を見せてくれる。実は人殺してないかな? この人。
「なるほど、非常に良い判断だ。特にダンジョンという未知の領域で臆病でいられるのは良いことだ。だが力量が分からない相手から向かってきた場合は、どう対処するかね? こんな風に!」
そう言って太田教官が突っ込んでくる! その勢いのまま拳を打ち出してきた!
俺の胸に目掛けて放たれた正拳突きを、ステータスを調整してギリギリ躱し、床をごろごろと転がり距離を取り直す。
「ほう、躱したか。流石に良い反射神経だぞ桃谷くん。先程の突きだけで終わってしまうことも、ままあるのだがな」
感嘆の声を上げながらも、太田教官はしっかりとこちらを意識している。
喋りながらでも、俺への油断はしないらしい。
だが、今ので太田教官の大体の基準は分かった。今度はこちらから攻める番だ。
「反射神経の良さが取り柄ですからね。今度はこちらから行きますよ!」
一気に距離を詰め、俺より大きい太田教官の左側頭部に目掛けて蹴りを叩き込む。
「ふむ」
だが片腕で難なく防がれ、俺はすぐに足を引っ込める。
そのまま返す勢いで裏拳を右脇腹に打ち込む。
「ほう」
だが、これも難なく防がれ反撃がやってくる。
太田教官の拳が俺の腹へ飛び込んでくる。
俺は両手でそれを受けるが、強い衝撃が内臓を揺らす。
「ぐっ! まだまだ!」
防ぎきれなかったダメージが身体に響く。
少しだけ揺れる意識で、太田教官へ再度攻撃を繰り出す。
普通に攻撃しても駄目だ。ステータスを上げれば簡単だが、そんなことをしては力がバレてしまう。
……だったらこれはどうだ!
「はああああああ!!」
俺は太田教官の顔面目掛けて、とにかく拳のラッシュをお見舞いする。
だが、太田教官はそれを首を捻るだけで躱しつつ、言葉をかけてくる。
「勢いは悪くない。このスピードのラッシュならば、低階層のモンスターなら瞬殺できるだろう。だが些か単調だ、相手の急所を狙うのは重要なことだが、勢いだけでは自分より力量が上の相手には届かんぞ」
分かっている。これは全てブラフだ。執拗に顔面ばかり狙っているのも、わざとそう意識付けているんだから。
――ここだ! 俺は全力で右拳を、太田教官の顔面目掛けて真っすぐに打ち込むべく勝負を仕掛ける!
「太田教官、勝負!!」
それを太田教官は……首を捻るだけで躱す。先程と同じ形だ。
――だがここで太田教官の顔が急激に歪む。
「ぐお……こ、これは……」
太田教官は歪む顔で、自分の腹部を見つめる。
そこには、俺の左拳が深々と刺さっている。
「か、空手の山突きか、なるほど。単調な顔面への攻撃は、これを意識させないためか」
綺麗に決まった! 昔読んだ格闘漫画に出ていた技だが、ステータスの影響もあってかイメージ通りに当てることができた。
「見事だ……だか、あまぁああああい!!」
その瞬間、太田教官は全身の筋肉を引き締めたのだろう。
教官の腹に食い込んでいた俺の左腕がバチンッ! と内側から弾け飛ぶように戻された。
「うおっ!?」
俺はそのまま体勢を崩してしまう。
太田教官はその隙を見逃さず、俺の顔面目掛けて正拳突きを鋭く打ち込んでくる。
その拳は今までのどの突きよりも速い!
――ダメだ、防御が間に合わない!
衝撃に備え唇を強くかみしめる。
ボッ!!
強い風が俺の顔面を叩きながら駆け抜ける。
……だが待ち構えていた衝撃はこない。
鼻先に触れるか触れないかのギリギリのところで、太田教官は攻撃を止めてくれていた。
「これまで! 模擬戦は終了とする!」
……どうやら終わったらしい。
ステータスを抑えたまま勝つことは無理だと分かっていたが、俺にしては健闘したほうじゃないだろうか。
「ありがとうございました。最後はもう、本当に死んだかと思いましたよ」
太田教官の最後の攻撃は今までのどの突きよりも速く、対応が完全に遅れてしまったからあながち冗談ではない。
まあ、防御力のステータス的に当たっても大丈夫だったとは思うが。
因みにステータスを抑えていたのはSTRとDEXのみで、その他のステータスは安全面を考慮して全力で解放していました。はい。
いやだって痛いのは嫌だし……。
「ガッハッハ! すまんすまん! 最後は私も興が乗ってしまって、思わず全力で打ち込んでしまったよ。良い山突きだったぞ、桃谷君」
やはり太田教官も、今までステータスを抑えながら試験をしてくれていたのか、最後の一撃が異常な速さだったから、もしかしたらそうじゃないかなと思っていたが。
それよりも、今一番気になるのは合否だ。一撃加えたし、手応えはあったが……
「あの、それでどうでしょうか? 体力テストと模擬戦の方は合格でしょうか?」
俺の言葉に太田教官はニコリと獰猛な笑みを浮かべ、親指を俺に向けサムズアップするのだった。
読んでくださりありがとうございます。
面白い! と思った方は、是非評価やブックマーク登録をいただけると、とても励みになります!
※本日ももうあと1話投稿予定です。お楽しみください。




