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第48話 37層の出会い

「さて、あんな話を聞いたあとだしな……今日は行けるところまで足を向けてみるか」


 カラミティウルフのことを黙っていたせめてもの償いとして、今日の予定を変更することにした。


 本当は目立たないようにしばらく30層で金稼ぎでもしようと考えていたのだが、世界各地で異変が起きているのでは安心して狩りもできない。


「まずは30層をさっさと抜けるか、不思議な輪(ミスティックリング)


 方針を決めた俺は不思議な輪(ミスティックリング)により現れた金色のリングをくぐり、30層へとワープした。



★✫★✫



――箱根ダンジョン 地下37F



 30層の遺跡にワープしてからの俺の行動は速かった。

 前回のようなイレギュラーがないか目を光らせながらも、階段を見つけては速攻で下りて、飛ぶように走って、また目を光らせての繰り返しだ。


 そんな調子で走り続けていると、どこからか良い香りがしてきた。


 (この濃厚で甘い香りは……コーンクリームスープ! それもクルールの粉末のやつ!)


 俺の小さい鼻がひくひくと動き、匂いの出どころを探す。


 ――こっち!!


 好物を前に、警察犬もかくやといった俺の嗅覚は匂いの出どころを確実に突き止めていく。



 石造りの静謐な通路の奥から、やがて人の談笑する声が聞こえてきた。



「ほら2人とも、できたわよ」

「うん? ああ、ありがとう。七海さん」

「サンキューななみん!」


 声の反響具合から、少し大きい空間なのが分かる。

 俺は状況を確認しようと、通路からゆっくりと顔を出そうとした――その時だった。



「……誰かな?」

「どうしたのリーダー?」

「んぐっ!? なんや、敵か?」


 (――き、気づかれた? まだ顔も出してないのに……)


 声の通りからしてこちらに向かって語りかけているように感じる。

 一瞬肩が跳ねた俺は、本当に自分に向かって言っているのか分からないので少し様子を見る。


 

「そこの通路から覗こうとしている君だよ。出てこないということは、やましい目的でも持っているのかな?」


「わー! 待ってください! わたし別に怪しいものではないです!」


 やはりこちらに向けて喋っていたようで、完全に出るタイミングを逃していた俺は、これ幸いと両手を挙げながら飛び出る。


 その先にいたのは、ブルーシートに座ってまさに食事中の三人組の探索者だった。

 彩りの良い美味しそうな弁当と、カップスープを手に持っている。



「あの、話し声が聞こえたから……それと良い匂いもしたからといいますか」


「なるほど、しかし隠れていた理由は何かな?」


「そこはまあ、素性が分からないから警戒していたと言いますか……」


 探索者になって日が浅い俺の知り合いなんて、灯里ちゃんや上下左右カップルくらいなので、こうして警戒するのは許してほしい。


 とりあえず敵意はないと、全力で愛想笑いを浮かべる。

 ……自分で言ってて何だけど、かなり怪しいと思う。 



「こらリーダー、女の子をイジメないの。大体階段前を占領しておいて誰かな? はないでしょう」

「む、痛いではないか……」

「嘘こけ」


 リーダーと呼ばれた眼鏡を掛けた真面目そうな男性が、隣にいた綺麗な女性にスコーンと頭を叩かれる。

 その光景を茶髪の男性がニヤニヤと笑っていた。

 

 言われて周りを見渡すと、三人組のすぐ横に下へ続く階段があった。



「えっと……状況を整理するに、御三方はここで休憩中だったんですね」


 

 基本的に階段前はモンスターが来ないセーフゾーンになっている。

 得心がいった俺は緊張が解けて軽く息を吐く。


 そんな様子を見てクスリと笑った紅一点の女性が、こちらに向かって手招きをする。


「匂いに釣られちゃったの? こっちで一緒にお弁当食べる?」

「ななみんちょいまち! ……あんたこんなところでソロか? こっちからしたらそっちのが怪しいんやけどなぁ」

「ふむ、言われてみれば」



 危惧した通り。やはり怪しく映っていたようで、関西弁の男性から強い警戒心を向けられる。

 その視線からはまるで歴戦の猛者と言わんばかりの強烈な気迫を感じる。


「――あ、私は……えっと」


 初めて向けられた本格的な敵意に少したじろいでいると、女性が助け舟を出してくれた。



「やめて、渚くん。彼女は大丈夫よ、私のスキルがそう言ってるから」


「ん〜? ……まぁ、ななみんがそう言うならそうかぁ。すまんかった! 堪忍してや!」


 そう言って渚と呼ばれた関西弁の男性からあっさりと敵意が消え、こちらに向かって片手を挙げながら頭を下げてくる。



「驚かせてごめんね? 隠すことじゃないから正直に話すけれど、私の感覚強化ってスキルが、あなたが敵じゃないって教えてくれるの」


「まあ感覚強化言うても、その精度は個人によってピンキリやさかい、普段は微妙なスキルって言われてるけどな」


 俺が怪しくないという根拠を説明してくれる女性と、それを補足するように関西弁の男性が相槌を打つ。


「あら、私のだって悪意や敵意に敏感になるくらいよ?」


「いや十分すぎるやろ」



 ……感覚強化と言えば、灯里ちゃんが覚えたスキルの一つだっただろうか。

 そんなことを思い出していると、女性が再度手招きをしてくる。



 少し悩んだ末に、カップスープの誘惑に負けた俺はその手招きに応じることにした。



★✫★✫



「はふ〜……染みますね」


 俺は渡されたカップに入っているコーンクリームスープを一口飲む。

 30層の無機質で石造りな空間は少し冷えるので、この暖かさがなんとも心地よい。

 思わず笑顔が溢れるほどだ。



 現在、ブルーシートの上には俺を含めて四人が座っている。

 それぞれお尻の下にはクッションが敷かれてあるのだが、割り込むように入ってきた俺の分のクッションなど当然無かった。

 ――のだけれど、リーダーと呼ばれる男性が自分の分を譲ってくれた。


 そんな唯一クッション敷いていない男性の後ろには、とても大きな盾が置いてある。

 それこそ俺一人ならすっぽり入ってしまう程に大きい。


 (……あんな大きな盾って、逆に邪魔じゃないのかな?)


「うん? 私の盾が気になるのかな?」


 少し不躾に見続けてしまったのだろうか、リーダーが眼鏡をクイッと上げてこちらを見てくる。



「気になるなら触ってもいいぞ。配信では質感などは分からないだろうからな」


「配信……ですか?」


 どういう意味なのか分からない俺は首を傾げる。

 そんな俺の様子を見たリーダーも首を傾げる。


「む、てっきり私たちのことを知って見ていたのかと思っていたのだが、違ったようだ……」


「ん〜、俺らもまだまだってことやな〜」



 気のせいか、リーダーは少ししょんぼりしながら眼鏡の位置を直した。


 話の流れから察するに、この三人は配信者なのだろう。

 よくよく見やればLDカメラも浮いていた。

 現在も配信中なのかは分からないが、一応LDカメラに向かって手を軽く振っておく。



「その、ごめんなさい。実は私、最近までダンジョン関連の配信はあまり見ていなかったので……」


 国民的人気なインフルエンサーは何人か知っているが、元々、ティアになることが無ければこの世界からは諦めていた口だからな。


「ううん、気にしないでいいのよ。私たちがまだまだなのは事実なんだから。それに、最近名が売れてきたって天狗になってた2人にはいい薬よ」


 俺が頭を下げていると、女性が優しく声を掛けてくれる。


「とりあえず自己紹介から始めましょうか。私はAランク探索者の七海よ。よろしくお願いね」


「そんじゃ次は俺やな。同じくAランクの渚や。改めて、さっきは驚かせてホンマすまんな! よろしゅう頼むわ。――あ、因みに今は配信してへんから安心してな」



 どうやら、さっきのLDカメラに向かって手を振っていたのが見られていたようだ。

 そう言って紅一点の七海さん、茶髪の渚さんが自己紹介をしてくれる。 


「私は田中と言う。同じくAランクで、このパーティーのリーダーだ。君も気軽にリーダーと呼んでほしい」


 最後にリーダーの田中さんが眼鏡をクイッとさせて自己紹介を締めくくり、こちらに視線をやってくる。



「私はCランク探索者のティア・ロゼッティと言います。みなさん、よろしくお願いしますね」 


 俺も三人に倣って探索者ランクを乗せた自己紹介をすると、名前の響きが珍しいのか渚さんが少し身を乗り出すように聞いてくる。


「ティアちゃんか、それ本名? ――ってこれは聞いたらアカンやつやな。堪忍な」


 渚さんの質問に、人差し指を自分の口の前に持ってきてポーズを取って一言添える。


「ふふ、内緒です」


 別に答えてもいいのだが、リアルの情報を聞き出すのは探索者としてのマナー違反に当たる。


 しかし三人ともAランク探索者だったのは驚いたが、先の渚さんの迫力を考えれば納得がいくランクだった。



 自己紹介が終わったところで、俺も弁当をバックパック――正確に言えばアイテムボックスから取り出すことにする。

 ダンジョンに潜っていることを隠さなくなったお陰か、なんと碧依お手製の弁当を持たされているのだ。


「うへへ……いただきます」


 アイテムボックスから取り出したお弁当はホカホカのままだ。

 中を開けるとお肉中心だが、野菜もしっかり入っており、俺の健康を気遣うような内容だ。


 中のミニハンバーグを一口でパクリと食べる。

 溢れ出す肉汁の旨味が、碧依特製のハンバーグソースと混ざり合って見事なハーモニーを奏でる。

 思わず、ん〜! っと声が漏れ出てしまうほどだ。


 普段食べているはずなのに、お弁当に詰め込んだだけで美味さが一段階上がったように感じるのは何故だろうか。 

 俺が幸せそうな顔で食べていると、その様子が気になるのか三人がじっと見てくる。



「ふふ、良ければどうぞ。とっても美味しいですよ」


 さっきはコーンクリームスープを頂いたし、これくらいはするべきだろうとお裾分けをする。

 三人はそれぞれ唐揚げ、ミニハンバーグ、玉子焼きを同時に食べて……


「う……うますぎる!!」

「めちゃうまやん!」

「――美味しい」


 と、三者三様の感激の言葉を見せてくれた。

 ――そうだろうそうだろう。碧依のご飯はその辺のお店で食べるより美味しいからな。



 俺がうんうんと頷いていると、七海さんがくすくすと微笑ましいものを見るように笑っている。

 どうしたのだろうかと見ていると、ゆっくりとこちらに体を寄せて手を伸ばしてくる。


「ふふっ、ごめんなさいね。でも、こんなに可憐なティアさんが、わんぱくな男の子が喜ぶようなおかずを幸せそうに頬張るものだから……まるで男の子みたいって思っちゃって」


 そう言って俺の口の端についているハンバーグのソースを拭ってくれた。



「あ、あはは……よ、よく言われます」


 これも感覚強化の効果なのだろうか?

 ――いや、単に俺が好きなおかずを碧依が詰め込んでくれたから、当然の帰結か……



 ティアの中身が実は男だとバレやしないかと、勘が鋭い七海さんに少しひやひやしながら和やかな弁当タイムを四人で過ごした。

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