第45話 謎の騎士様……?
「よし、この辺りでいいか。着いたぞ碧依」
碧依のパワーレベリングも切り上げ、箱根ダンジョンの一層の目立たない小部屋まで戻ってきた。
実を言うと、帰りも同じように入り口まで運ぶつもりだったのだが、人に見られるのが恥ずかしいという碧依の強い希望を汲み、ここで降ろすことにした。
「うん、ありがとう。お兄ちゃん」
俺の腕の中からすっと降りた碧依は、可愛らしく笑顔を向けてくれる。
今回は抱きかかえる事前に断ったのが効いたのか、行きの時のように怒ってはいないようだ。
一応おんぶも選択肢に入れたのだが、即答でお姫様抱っこと言われたのは少し驚いたけど……
(まあ、おんぶだと……胸の感触がダイレクトに当たるから断られて良かったのかも)
ティアの姿で灯里ちゃんをおんぶした時は凄かったなと、少し顔を赤くしながら首を振っていると、碧依が不思議そうな顔でこちらを見ていたので余計な思考は追い出すことにした。
「よし、帰ろうか」
「うん!」
俺たちは小部屋から出て、出口を目指して歩き出す。
結局、碧依のレベルは20まで上げることができた。
天霧の姿でも上層は問題なく通用するが、ティアと比べるとやはり殲滅速度に差が出てしまった。
「でも驚いちゃったよ、お兄ちゃんがあんなに格闘技が得意だったなんてびっくり!」
「はっは……これでも先輩探索者だからな」
ティアとして闘う時はどうしても肉弾戦が多くなるので、最近は格闘漫画やアクション映画を参考にしているのだが、どうやら碧依の目から見てもそれなりに形になっているようだ。
人通りのある一層を、すれ違う度に挨拶を交わしながら何事もなく退場ゲートへ到着した。
「おめでとうございます。お二人とも今回の探索でDランクへと昇格となります。1層から19層まで大躍進ですね」
「わあ! ありがとうございます! ……てお兄ちゃんも初めてだったの? その割にはすごく慣れてたけど」
退場ゲートの受付嬢さんから二人まとめて昇格の知らせを受けたことが引っかかったようで、碧依はこちらを振り向いてくる。
(まずったぞ……そういえばティアの時でしか箱根ダンジョンに来てなかったな……)
妹から向けられる視線をどう躱せばいいのか、必死に考えを巡らせる。
「そこはほら……は、配信で勉強したからというか――あ、後ろがつかえてるから行くぞ」
咄嗟に出た割には、それっぽい言い訳だろう。
そのまま碧依と退場ゲートを抜けて歩き出すが、まだ納得出来ていないのか、横から覗き込むように見上げてくる。
「でもなんでそんなにレベルが高かったの?」
その視線は純粋にレベルの高さが引っかかっているようだ。
ここでフル回転した灰色の頭脳が、最適な答えを導き出した。
「いや……普段は安全面を考慮して、1層でひたすら狩りをしてたんだよ。だから聞いただろう? パパっと上げるか、ゆっくり上げるかって」
苦しいかもしれないが、過去の発言を利用したこの答えなら文句はないはずだ。
至極当然といった顔で碧依を見続けると、うへぇっ苦虫を噛み潰したような顔に変わる。
「……じゃああたしがゆっくりって言ってたら、ひたすらツノウサギだったってこと」
「そういうことだな。塵も積もれば何とやらだ」
「そっか……でも考えてみればそれが普通なんだよね。だからパワーレベリングって言うんだ」
碧依の言う通り、探索者は基本安全マージンをしっかり取れるまで一層でレベル上げをする。
納得してくれたのか、うんうんと頷く妹を尻目に俺はホッと安堵した。
……実際問題、30レベルまで上げる人なんているのかは不明だが、これ以上の追及を防げた俺も碧依と一緒にうんうんと頷いていた。
そうして碧依はシャワーを浴びるために更衣室に行き、その間に換金を済ませた俺は合流予定のギルド入り口に戻った。
「……ん?」
妹がシャワーを浴びている間、手持ち無沙汰に待機していた俺だったが、どうにも居心地が悪い。
視線を左右に動かすと、いつの間にか周囲の人たちが遠巻きにこちらを観察していることに気づいた。
だが彼らの視線に敵意や邪なものは感じられず、まるで目撃情報を頼りに噂の珍獣でも見つけたとでも言いたげな視線だ。
(な、何だ? なんでこんなに見られてるんだ……?)
居たたまれなくなった俺は、周りから突き刺さる複数の視線から、逃げるように早足でその場をあとにした。
★✫★✫
「もう、更衣室から戻ったらお兄ちゃんがいないから、びっくりしちゃったよ」
「悪い悪い、少し事情があってな。ちゃんとレインでメッセしただろう? 入り口に着いたら連絡くれって」
俺はあのあと、男性用トイレの個室で時間を潰していた。
碧依から連絡が入ってすぐに合流して、今はこうして帰り道を二人で歩いている。
そんな隣を歩く妹は少しプリプリしている。
待ち人が待ち合わせ場所にいなかった訳だから、当然と言えば当然だろう。
「ほら碧依、スーパーでプリン買ってやるから、機嫌直してくれないか?」
「……一番お高いので手を打ってあげる」
我が妹ながら少しチョロ――もとい、少し単純で心配になるが、プリンで機嫌が治るならいくらでも買おうじゃないか。
俺たちはスーパーに寄って、プリンと適当な食料を買い込んで家に帰った。
……そして、事件が起こったのは翌朝のことだった。
「――お兄ちゃん! 大変大変!! お兄ちゃんがバズってるよ!!」
朝一番に、リビングで寝ている俺に向かって碧依がスマホを見せながら寝室から飛び出てきた。
「な、ななな、何だ!? 家事か!? 地震か!?」
その声に飛び起きるが、まだ起きていない脳が状況を理解できていない。
忙しなく首を左右に振る俺に、碧依はお構い無しにスマホを俺に見せてくる。
(ああ、良かった。今回はパジャマが気崩れていないな)
まだ脳が目覚めていない俺は、碧依の格好を見てホッとしていると、碧依が少し顔を赤くしながらスマホをズイッと俺の顔に当ててくる。
「見てほしいのはあたしのパジャマじゃなくて、コッチ!」
「うん? なになに、お姫様を抱えた騎士様が箱根ダンジョンを疾走――あっははは! この人なんでこんな必死な顔なんだ?」
そこには女の子をまるで宝物のように抱えている男の画像が写し出されていた。
人の顔を見て笑うのは失礼なことだが、この絵面と、男性の表情があまりにもシュールでつい笑ってしまった。
心の中で反省しながら、そんな画像の男性を改めて見ると、どこか見覚えがある男性に気づく。
見覚えがあるというより、これは毎日鏡で見ているといったほうが良いだろうか。
段々と脳が目覚めてきた俺は、碧依の見せてきたスマホに写っている人物に思わず冷や汗が流れ出す。
「…………あ、碧依? この画像に写っている男って何だか俺にそっくりなんだけど……いやあ、よく似た人だな」
だが、まさかそんな訳がないと碧依を見上げるが、無情にも妹は首を横に振った。
「そうだよ、お兄ちゃんだよ! あとそれ画像じゃなくて動画だからタップすれば再生されるよ」
俺は碧依に言われるまま画像をタップすると、女の子をお姫様抱っこで抱えたまま、箱根ダンジョンを疾走する男の姿が切り抜かれていた。
そのまま画面の男は、出会うモンスターを次々踏みつけながら凄い勢いで画面からフェードアウトしていった。
コメントには「騎士様かっけぇwww」やら、「マルオかよw」とか、「顔が鬼の形相すぎて草」などで溢れていた。
(うん、これ俺だ。何度見ても……俺だ……)
あの時は万が一にも碧依を傷つけさせるものかと、全身全霊で集中しながら走っていたからな。
いや最初のコメントのやつ、絶対にカッコいいと思ってないだろこれ。
「……というか、なんで騎士様なんだ?」
「ほら、こういうのってサムネとタイトルでインパクト出すのが常套手段だし……それに、お、お姫様抱っこだし? まあ、騎士様でもあながち間違ってないかな。うん」
状況が飲み込めず、俺は碧依に説明を要求するように視線をやると、碧依は何故か少し嬉しそうにしながら首を大仰に振っていた。
俺が視線で続きを要求すると、そのまま分かっている範囲で教えてくれた。
どうやら昨日のレベリングで碧依を抱えながら疾走していたのが、著名なLD配信者の配信に映り込んでいたみたいで、それが拡散されたようだ。
幸い、碧依は顔を両手で覆っていたので顔バレはしていないが、俺はバッチリと映っている。
それはもうバッチリと、隠せないほどに。
(なるほど、昨日のダンジョン帰りに見られていたのはこういう訳だったのか……)
俺は予想だにしない状況で困惑しながらも、バイトに行くために朝の支度を始めるのだった。
いつも読んでくださりありがとうございます!
皆様の応援のおかげで、本日ついに累計10万PVと同時にブックマークも400件を突破いたしました!
とても多くの方に読んでもらえて嬉しいです!
本当にありがとうございます!!
もし「サムネタイトルに大仰に頷く碧依ちゃん可愛い!」「続きが気になる!」と思っていただけたなら
ブックマーク登録や、
下の評価欄を☆☆☆☆☆から**★★★★★**にして応援いただけると、執筆の大きな励みになります!
(すでに応援してくださっている皆様、本当にありがとうございます!)
さらに上のランキングを目指して頑張りますので、なにとぞ応援よろしくお願いします!




