第43話 碧依と行く箱根ダンジョン
「お兄ちゃんがいい」
「いや、でもその子は俺より遥かに強くてだな、それに年だって碧依と同じくらいだし」
「お兄ちゃんが紹介する人だから、信用できる人なのは分かってるけど…………最初のダンジョン探索は絶対お兄ちゃんと一緒って決めてるの!」
そう言って碧依は、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
いまはこうして、妹とリビングで話し合っている。
議題は、碧依のレベリングにピッタリの人がいるから紹介するよ……から始まったのだが、秒で断られてしまった。
もちろん紹介する予定だった、俺より遥かに強い子っていうのは、当然ティアのことなんだけど。
しかし、なんて可愛いことを言ってくれる妹だろうか……
チラチラと、顔を背けたまま目線だけをこちらに寄越してくる愛らしい姿を見て、俺は腕を組んで考える。
確かに現在の俺のステータスに、ティアの補正ステータス分を乗せれば、灯里ちゃんとパワーレベリングを行った20層どころか、30層でも問題なく通用するはずだ。
(……今回はティアじゃなくて、俺のままでもいいか)
もちろん、過信はしない。
それに――もしもの時は、碧依の目の前でティアに変身することも辞さないつもりだ。
脳内でそう結論づけたところで、碧依の要求を飲むことにした俺は大きく頷いた。
「分かったよ。それじゃ、明日から時間がある時に潜ろうか。碧依の学校が始まるまで、もう1週間ちょいしかないからな」
「うん! ありがとうお兄ちゃん!」
パッと花が咲いたような妹の笑顔を報酬に、リビングでの話し合いは終わった。
そのまま俺はいつも通りバイトに行き、固定客が増えたことに喜んでいる店長たちと仕事に精をだした。
正直探索者の稼ぎに比べれば雀の涙だが、天霧としての生活を形作る何気ないこの時間が、俺にとっては大切だったりする。
――別に美人ばかりの職場だから辞めたくないとかではない、断じてない。
★✫★✫
「よし、準備はいいか碧依」
「うん。……えへへ、でもちょっとだけドキドキしてるかも」
翌朝、俺は碧依と共に箱根ギルドに来ていた。
入場ゲートを抜けて、階段に向かって歩き出す。
「わあ……配信で見たことあるけど、実際に見るとやっぱり少し怖いね」
ダンジョンに繋がる階段に着いたところで、碧依は不安げな表情を見せながら、その下に続いていく暗闇を覗き込んだ。
「……やっぱり止めるか?」
「ううん、ここまで来たんだし……それに、お兄ちゃんが死んでも私を守ってくれるって言ってたし?」
不安を消そうと強がっているのか、こちらへ振り返った碧依はいたずらっぽく小首を傾げ、後ろ手に指を絡めながら、試すような視線を投げてくる
「ああ、守るよ」
「ふぇ……あ、えへへ」
それこそ、昨日決めた通り碧依の目の前でティアになってでも守るだろう。
しっかりと目を見てそう答えると、少し顔が赤くなる碧依。
(この反応って、もしかして……?)
目の前の妹の様子が、この前の電話後の様子と重なって見えたことに気づいた。
もしかすると、この前の電話の後に様子がおかしかったのは照れていたのだろうか。
……とは言え妹を守るのなんて当たり前だし、そんなことで照れるなんて、碧依はまだまだ子供だな。
謎が解けてスッキリした俺は、階段に向かって歩き出した。
「よし、行くぞ碧依。こういうのは入ってしまえば意外と大したことないもんだぞ」
「えへへ――あ、 待ってよお兄ちゃん、一緒に行こうよ!」
後ろから小走りで追いついてきた碧依と一緒に、箱根ダンジョンに足を踏み入れた。
――箱根ダンジョン 地下1F
「とりあえず碧依の戦闘センスを見たいから、出てくるツノウサギが一体だけなら、任せるぞ?」
「うん。任せて!」
ダンジョンに入った俺たちは、早速獲物を求めて歩き出す。
さっきまでの不安はどこへ行ったのやら、以前に購入した探索者用の衣装を元気に揺らす碧依は、やる気十分のように鼻を鳴らしている。
そんな妹の手には、初心者御用達のショートソードが握られている。
ここに潜る前に、上のモールで事前に購入しておいたものだ。
当の本人は、何だか軽すぎて落ち着かないとのことで、少し不評だったけど。
などと、平日なのに意外と人が多い一層を歩いていると、前方の通路からこちらへ向かってくる何かの気配だ。
「碧依、構えて! 敵が一体ならさっき言った通り、任せるからな」
「う、うん!」
碧依は深呼吸をして武器に手をかけた。
そんな戦闘態勢に入った俺たちの目の前に現れたのは……
「お疲れ様でーす!」
「どうもこんにちは〜」
女の子同士の探索者だった。
「あ、こんにちは」
「こ……こんにちは!」
挨拶だけして通り過ぎていく女子大生くらいのコンビに、俺たちは二人してお辞儀をして挨拶を返した。
探索中にすれ違った際は、こんな風に挨拶をするのが暗黙のマナーである。
少し毒気が抜かれてしまったが、碧依にとってはいい具合に緊張感が解れたんじゃないだろうか。
気を取り直して探索を続けていると、通路横に入った部屋にモンスターの影を発見する。
「……ツノウサギが一体か、お手並み拝見だな」
部屋の中に居たのは、多くのダンジョンの一層御用達であり、初心者殺しとも囁かれる、見た目と違って凶暴なウサギが鎮座していた。
まだこちらに気づいていないようで、地面をくんくんと匂うような仕草をしている。
事前に決めた通り、俺は一歩下がって碧依にこの場を任せるように、肩をぽんと叩いた。
だが、いつでも割り込めるように、重心を落として全神経を張り巡らせておく。
「ふぅ。……行くよ!」
そう言って碧依は、ツノウサギの前まで一気に駆け出した。
近寄ってくる足音に相手も気づいたようで、素早く彼女の方を向いて臨戦態勢を取った。
それにも構わずに剣を抜いたかと思えば、ピタッと、ツノウサギの正面で止まる。
(――うん? 何やってるんだ?)
そのまま碧依はツノウサギの攻撃を待つかのように動かない。
そんな様子に焦れたのか、ツノウサギが踏み込む姿勢を見せたかと思えば、正面の獲物へ向かって鋭い角を突き出すように跳ねた。
――その瞬間、碧依は流れるように半身を翻し、直前まで彼女が立っていた空間に飛び込んできたツノウサギへ剣を振り下ろした。
「やあ!」
キラリと輝く銀線が、たったの一撃でツノウサギを両断し、黒い靄へと変わっていく。
「……なんと!」
(俺の妹は凄い戦闘センスを持っているじゃないか!)
妹が魅せた見事な一戦に驚愕した俺は、歓喜に震えながら碧依の元へ駆けつけた。
「碧依! 凄いじゃないか!! 俺なんて初めてのツノウサギ戦で負け――ゴフンゴフンッ!!」
……俺はあまりの興奮に、危うくあの不名誉な事件を口にしてしまうところを、ギリギリ踏みとどまった。
折角父さんたちが黙っててくれたのが無駄になるところだった。
俺の妹は天才だ! 戦闘センスの塊だ! と一人で盛り上がっていると、若干呆れ顔になった碧依がスマホを取り出しつつ、衝撃の真実を告げてきた。
「……お兄ちゃん。今のは何年も前にバズった戦い方だよ? ほらこれ、一分で分かるツノウサギ完封戦法って」
「え……?」
見せられたスマホの内容に、不覚にも固まってしまう。
自分が高校生だった頃はそんな戦法なかったものだと、俺は遠い目をして時代のギャップを感じながら、それでもやっぱり妹の初勝利を目一杯喜んだ。
いつも読んでくださりありがとうございます!
もし「一人盛り上がる天霧可愛い!」「続きが気になる!」と思っていただけたなら
ブックマーク登録や、
下の評価欄を☆☆☆☆☆から**★★★★★**にして応援いただけると、執筆の大きな励みになります!
(すでに応援してくださっている皆様、本当にありがとうございます!)
さらに上のランキングを目指して頑張りますので、なにとぞ応援よろしくお願いします!




