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第42話 探索者資格とサプライズ

「……ん、いい匂いだ」


 朝、俺は台所から香る味噌汁の匂いで目が覚める。

 碧依が来てからは、この香りが目覚まし時計代わりになっている。


「おはよう、碧依」


「お、おおおお、おはよ、お兄ちゃん。ご、ご飯もうすぐ出来るから、顔洗ってきてね」

 

 俺は布団から出て、台所で鍋をかき混ぜている碧依に挨拶をした途端、碧依はビクッと体を震わせたかと思えばかなり挙動不審な挨拶を返してくれた。

 

 昨日の電話の後から碧依の様子が少しおかしい。

 寝て起きれば直ると思っていたが、まだ戻っていないようだ。


 寝起きの顔を洗い流し、戻ってきた頃にはテーブルに朝食が用意されている。

 未だ寝ぼけ眼なまま席に着き、碧依と向き合う形で朝食を食べ始めた。


 朝食を食べているうちに段々と脳が目覚め始め、先ほど気になっていたことを素直に聞くことにする。


 

「ところで碧依、なんだか昨日から様子が変だけど、俺、昨日の電話で何か変なことでも言っちゃったか?」


「――ふぇ!? ベ、別に普通だよ? 変なことなんて何もないよ!」


 碧依はそう言うが、やはりまだ顔が赤い。

 これで何も無いは通らないだろう。


 ――その様子を見て、久しぶりに回りだした俺の灰色の頭脳が、答えを導き出した。



「碧依ちょっとおでこ貸して」


「ふぇ? お、お兄ちゃ――」


 俺は椅子から立ち上がり、碧依のところまで行くと、そのまま自分のおでこと碧依のおでこをくっつける。

 ベタな測り方だが、いちいち体温計を出して測るより手間が掛からないし、何より結果が早く分かる。


「ん〜、熱は……ないか。挙動がおかしいのは熱のせいだと思ったのにな」


 おでこを重ね合わせて熱を測るが、自分と変わらないように感じる。

 しかしどうしたことだろうか、俺の灰色の頭脳は最近外れることが多い気がする。


 などと自己分析をしていると、突然グイッと俺のおでこが押され、無理やり剥がされてしまう。

 押した当の本人――碧依を見やると、更に耳まで真っ赤になってわなわなと震えている。



「おおおおお、お兄ちゃん! 年頃の女の子になんて測り方するの!!」


「あれ、昔はよくこうやって測ってただろう? 確か碧依からこの方法が良いって言われたはずなんだけど……」


「あ、あれはまだ小学生の頃だから! あたし今年から高校生なの!!」


 この測り方の切っ掛けは碧依だったのだが、考えてみれば彼女ももう高校生だ。

 確かに碧依の言う通り、年頃の女の子にする測り方ではなかったと思う。



「ごめんな碧依、確かにいまのは俺の配慮が足りなかったな。でも碧依の顔が赤くて心配だからつい……」


「だ、大丈夫だよ! それに顔が赤いのは昨日の余韻がまだ……って変なこと言わせないで! と、とにかくもう少ししたらいつものあたしに戻るから!」


 俺が謝るとすぐに許してくれるが、余韻とは何だろうか。

 その言葉の意味が昨日の電話とどう繋がるのだろうか、首を捻りながら考える仕草を見せると、碧依が信じられないといった表情をこちらに向けてきた。


 

「ま、まさか自覚ないの……? ――まったくお兄ちゃんってばああいうこと平気で言うよね。あたしだったから良かったものの、他の女の子だったどうなってたか」


「あ、碧依? ああいうことってなんだ? 結局俺は何を言ってしまったんだ……」

 

 急に早口になった碧依の言葉に押されていると、最後にこれだけは言っておくからね! と更に言葉を続けてくる。


「とにかくお兄ちゃん。一応言っておくけど、他の女の子に、あんなこと絶対言っちゃ駄目だからね!!」



 言いたいことが言えて満足したのか、ポカンとした俺をよそに、碧依は再び朝食を食べだした。



★✫★✫



「それでは、最後に保護者様のサインこちらにお願いします」


「はい、分かりました」


 朝食を食べ終えた俺は、碧依と共に箱根ギルドの探索者カード交付窓口へ来ている。

 15歳から探索者になれるといっても、未成年の場合はこうして成人以上の親族である保護者のサインが必要になる。


 ――ティアの時にも同じ事したっけ、なんて考えながらサラサラと俺の名前を書き終わり、最後の手続きに進む。


「それでは、最後にこの針で探索者カードにご本人さまの血を垂らすことで、本手続きは完了となります」


「は、はい! ――いたっ」


 碧依は恐る恐る針を指に刺して、血を一滴垂らした。

 こうして碧依の探索者カードの発行が正式に完了した。



 手続きを終えた俺たちは、窓口を後にして、活気溢れる上層階のショッピングモールへと足を運んだ。



「知ってはいたけど、探索者の衣装ってオシャレなのが多いんだね〜。わっ! みてみてお兄ちゃん、これ可愛い」


「そうだな、特にギルドに入ってる店は、世界的にも有名なメーカーから多種多様に取り揃えているからな」



 朝食時に碧依が言った通り、挙動不審はすっかりどこかへ行ったようで、碧依は笑顔で可愛らしいワンピースを見せてくれる。


 

 そのまま試着に試着を重ねて、カーテンが開くたびに様変わりする妹の姿を堪能しながらも、しっかりと吟味した碧依のコーディネートが決まった。


 最初に可愛いと手に取ったミニ丈のワンピースをベースに決め、中はお洒落なボーダー柄のカットソーと、下はショートパンツを履き、最後にレギンスとハイテクスニーカーを選んだ。


 これらは全てモンスター素材から出来ているので、普通の服とは比較にならない程の耐久性を持っている。

 その分値段もお高めで、これら一式で十数万円と言ったところだ。


 他にも腰に付けるポーチや細々とした物も選び、会計額を見た時に碧依が不安そうな目でこちらを見上げて来たが、俺は何の問題もないと自分の胸を叩いて返事をした。


 最初から碧依のためなら金を惜しむつもりはないし、なにより最近は探索者活動で、今回の支払いの何倍も稼いでいる俺の懐は温かい。



 こうして会計を手早く済ませ、碧依と一緒にモール内の店を練り歩いて一日は終わった。



★✫★✫



「ただいま〜、疲れたよー」


「ほいお帰りさんっと」


 碧依はマンションのドアを開けながら帰宅の挨拶をするので、俺もそれに倣い家の中に入る。



「それじゃすぐにご飯作っちゃうから、お兄ちゃんはお風呂入ってきてね」



 俺はその言葉に甘えてお風呂に入り、温かい夕食も食べ終わった頃。

 食後の雑談タイム中に、渡すものがあったのを思い出した。


「碧依、はいこれ。プレゼントだ」


 俺はそう言って紙袋から一つの袋を取り出し、碧依に渡す。


「プレゼント!? なんだろう……開けていい?」


 俺はその言葉に一つ頷くと、碧依は待ちきれないとばかりに、早速開封しては中身を取り出す。


「わあ……可愛い」


 袋の中から出てきたのは、澄んだ青色の三日月を模したチャームだ。

 碧依はそれを見てうっとりした表情を見せる。



 実は碧依が探索衣装を吟味している最中に、俺も俺で何か贈れるものがないかと、こっそりと選んでいたのだ。


「良かった……気に入ってくれたか。ちなみにそれはSTRの補正効果があるんだぞ」


 碧依の喜ぶ姿を目にした俺は、自分のセンスが間違っていなかったことに安堵する。

 これでダサいとか言われたら立ち直れなかったかもしれない。



「お兄ちゃん……ありがとう。すっごく嬉しい!」



 碧依はこちらを見上げ、はにかみながら真っ直ぐに想いを伝えてくれる。

 俺は思わず目を閉じ、今の言葉を脳内で反芻する。

 ……ああ、俺はこの言葉を聞くために生まれてきたのかもしれない。



 (――って、なに父さんみたいな事を考えてるんだ俺は!)


 久しぶりに父さんモードに入ってしまったが、すぐに頭を振って切り替える。

 雑談もそこそこに切り上げ、碧依は寝室に行き、俺はリビングに布団を敷いて中に入る。


 

「さて、残りのこれをいつ渡すかだな」


 俺は紙袋に残ったもう一つの袋を手に取りながら、独りごちる。


 明日はバイトだし、早ければ明後日くらいには碧依のパワーレベリングもしたいし、渡すとしたらそれ以降だろうか?


 (とにかく、最優先は碧依のレベリングだな)


 そう予定を立てたところで目を閉じ、意識をゆっくりと迎えに来た睡魔へ預けていった。


碧依「みてお兄ちゃん、この衣装……防御力補正がすごく高いみたいだよ。試着してもいい?」

天霧「ん? ――て、ほとんど水着じゃないか!! 絶対ダメ!!」


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